聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな

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第27話

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 アシュリーをその場に残し、ざっとシャワーを浴びた。石鹸をよく泡立て身体を洗うと、自分についているというトーマスの匂いを消した。部屋に戻ると、アシュリーは先ほどと同じ場所で、獣の姿になっていた。その姿を目にした瞬間、獣人は獣の姿になることはできないというトーマスの言葉が蘇り、セスは息を呑んだ。

 アシュリーは漆黒の髪から滴を滴らせたセスを見ると、情けなさそうにくぅーん、と鳴いた。その瞳は落ち込んだようにしょんぼりとして見える。わずかに動揺した気持ちを押し殺して、セスはアシュリーの隣に腰を下ろした。

「どうだ、匂いは消えたか?」

 アシュリーは後ろ足で立ち上がると、セスの胸に肉厚の手をつき、頬をべろりと舐めた。ごめんなさいと謝るかのような仕草に、セスはアシュリーの顔を両手で撫でてやる。

「いいよ。もう怒ってはいない。僕こそ悪かった。お前の話をちゃんと聞けばよかった」

 トーマスにした態度をこれからも取るようなら問題だが、きょうのところはセスにも反省すべき点があった。

 さっきまで萎れていたしっぽが躊躇いがちにはたはたと揺れ、セスを見つめる瞳がきらりときらめく。セスははっとした。待て、と止める間もなく、アシュリーが勢いよく飛びついた。仔犬のときならいざ知らず、いまのアシュリーは大の大人以上の体重がある。セスはアシュリーの体重を支えきれず、そのままベッドに倒れ込んだ。

 べろりと頬を舐められる。いつもならそれで満足するのに、その日のアシュリーはいくら舐めても満足しないようだった。セスの胸に前足をついたまま、頬を丁寧に舐めとる。まるでトーマスが触れた跡を消し去り、マーキングしているかのようだ。セスは抵抗するのをやめた。もういい、お前が満足するまで好きにしていいというように、ベッドの上に両腕を開き、目をつむった。セスの頬を舐めていたアシュリーの舌は、次第に首筋のほうにまで移動してくる。セスはくすぐったさに首を竦めた。やがてアシュリーは満足したように、セスの首筋に鼻先を埋めた。

「……きょうは僕も悪かった。勝手に決めないで、お前と話をすればよかった」

 セスの声色に何かを感じ取ったように、アシュリーが顔を上げた。やや警戒した目でセスを見る。

「だけど、お前がトーマスに取った態度も褒められたものじゃなかった。それはわかるな?」

 アシュリーは後ろめたそうに、セスから目をそらした。セスは自分の言葉がアシュリーにちゃんと伝わっているかを確かめる。

「お前がトーマスのことをよく思っていないのはわかった。でも、好き嫌いだけでお前の言う通りにはできない。……だけど約束する。これからはお前を子ども扱いせず、一人前として扱う。お前の話もちゃんと聞くよ」

 蜂蜜色の瞳がじっとセスを見ている。アシュリーはセスの顔をぺろりと舐めると、わかったと告げるように、しっぽを左右に振った。セスはアシュリーの首筋に腕をまわすと、ぎゅっと抱きしめた。

 アシュリーがたとえ何物だろうと関係ない。アシュリーのことは僕が守る。

 お日さまを浴びたようなアシュリーの匂いを嗅ぎながら、セスは固く心に誓った。
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