聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな

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第26話

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 店に着いたころには日はすっかり暮れていた。アシュリーが店の鍵を開けている間、セスは先ほどトーマスに言われた言葉を考えていた。

 トーマスは何て言った? 聖獣? 獣人の王? アシュリーがそうだというのか? いやだけどそんな……。

 ぼんやりとしていたセスを追い抜くように、アシュリーが階段を上がる。セスは慌てて後を追いかけた。

「黙って出かけたのは悪かった。だけどあんな態度を取ってはいけない」

 アシュリーは部屋の中をぐるぐると歩いている。ぴりぴり張り詰めた空気から、アシュリーの苛立ちが伝わってくるようだった。

「あいつは……っ、セスのことをいやらしい目で見てる! 俺がさんざんそう言ってるのに、セスは信じようともしない!」

 癇癪を起こしたように叫んだ後、アシュリーはそんな自分に驚いたように、ひどく途方に暮れた顔をした。

「アシュリー……」

 傷ついたアシュリーの表情に、セスは言葉を失った。

「くそ……っ」

 アシュリーは舌打ちすると、苛立ちが治まらないようすで再び部屋の中を歩き出す。セスはかける言葉が見つからなかった。ベッドの端に腰を下ろすと、アシュリーの気持ちが落ち着くのを待つ。ぐるぐると部屋の中を歩き回るアシュリーを心配しながら、頭の中ではトーマスに言われた言葉が引っかかっていた。

 しばらくして、アシュリーが目の前に立つ気配がした。先ほどよりは少しだけ落ち着いたようすのアシュリーがセスを見た。その表情は情けないような、やり場のない怒りを持て余したような、どこか複雑な色が浮かんでいた。アシュリーの中でまだ葛藤があるのかもしれない。

「……少しは落ち着いたか?」

 アシュリーは膝をつくと、セスの身体に腕をまわした。セスは手を伸ばし、アシュリーの柔らかな髪をそっと撫でる。

「――それで? 何がそんなに嫌だったんだ?」

 やさしくアシュリーの髪を指で梳きながら、セスは子どものような態度を見せるアシュリーに訊ねた。

「……あいつには関わらないでほしいと言ったのに、黙って出かけた。俺の話を聞こうともしなかった。俺を聞き分けの悪い子どもみたいな扱いをした」

 アシュリーがいま実際に取っている態度はそれ以外の何物でもないのだが、セスはそう思ったことはおくびにも出さずに、「ああ、そうだな」と同意した。セスに頭を撫でられながら、アシュリーがちらっと見た。だけどまだすぐにふいと顔をそむけ、セスの胸元に埋めてしまう。

「……俺のセスなのに、あいつにべたべた触らせた。おまけにキスまで!」

 思い出したら感情が高ぶってきたように、アシュリーは顔を上げ猛然と抗議する。まるで自分以外セスに触れるのは許さないと言わんばかりに。

「うん。悪かった」

 セスが素直に謝ると、アシュリーはようやく溜飲を下げたようだった。白いふっさりとした尻尾がゆらりと揺れるのを見て、セスは口元に広がる笑みを堪えると、それで? とアシュリーを促した。

「ほかにもまだあるのか?」

「ある! セスは誰よりもきれいで、みんなセスのこと知ったら好きになるってこと、もっと考えるべきだ」

「……わかった。気をつけるよ」

 アシュリーの言葉を全面的に同意できるわけではないが、セスはとりあえず逆らわずにうなずく。気がつけば、アシュリーがじっとセスを見ていた。さっきまでの勢いがそがれ、その耳はぺたんと折れ曲がっている。

「アシュリー?」

「……セスからあいつの匂いがして嫌だ」

 セスは軽く目を瞠った。

「わかった、待ってろ」
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