私の居場所

AKO

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045 終着駅

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みーたんにとって、その日は突然やって来た。
こうちゃんが珍しく人目につくレストランで食事しようと言う。個室にはしたからと。

もうお互いに隠さなくても良いのだが、まあ不倫と言えば不倫なので、気をつかってはいた。

大きな窓のある個室だった。
当然、外からは見えないガラスである。

「この街も変わったね。あの頃にはなかったビルばかり。」
「そうね。あの頃に行った場所、色々と訪ねてみたいね。あっ、、」
「いいよ。でもごめんね。」
「いや、私こそごめん。」

こうちゃんは記憶が無いから、学生時代に行った場所などは全く思い出せない。

「これからさ、また新しい記憶を刻んでいきたい。この街は変わったけれど、変わらないものが私にはある。」
「え?」
「初めて会った時から決めてました、って奴かな。」
「なんかそんな番組あったね(笑)」
みーたんの緊張を解いた。この辺はこうちゃんもさすがだ。

「一緒に暮らしてくれませんか。私と結婚してください。」
「え、あの、、」
みーたんに2回目のプロポーズをしたこうちゃん。以前はOKしながら結婚しなかった2人。

「結婚という形式にこだわらなくてもいい。お互いに歩んできた人生があるから、そう簡単ではないとも思っている。そして今は色々な形がある。」
「ううん。私たちの世代はそんなのダメよ。暮らすならちゃんと結婚したい。旦那さん、奥さんって呼ばれたいもの。こうちゃんと。」
「え?それって。」
「はい。謹んでプロポーズお受けします。ありがとう。今、私、最高に幸せよ。」
「やったぁ!」
少年のような笑顔を浮かべたこうちゃん。

「そうそう、その顔。変わらないわ。この街のどこかにずっとあったのね、その笑顔が。これからはもっと近くで見させてください。」

この日、2人は外資系の大きなホテルに泊まった。
そう、タイを思い出させるような。
還暦を過ぎている2人なのに、この日は燃え上がった。
「気持ちいい」
そんな言葉では表せない、素敵な時間だった。

2人は、それから子どもたちとその家族に話して理解を得た。
学生時代の同級生、しかも当時の恋人と聞いて息子たちは驚いたが、嫁たちは「ステキ!」と感動していた。
息子たちがなんとも言えない表情で自分の妻たちを見ていたのが可笑しかった。

家族に祝福されて2人は晴れて夫婦となった。

そんな時、旧友のさだおはお祝いの言葉として同窓会でこう言った。

「全てはこの日のためにあったんだなと心から思う。」

他の友人はこう言った。

「いつも自分の人生は自分が主役。そして誰かの人生の脇役。立派に成し遂げてきて今があり、これからがある。お子さんたちのお父さん、お母さんも祝福してくれていることでしょう。」

宴のあと、2人は将来のことを話し合った。

こうちゃんのお墓には前の奥さんがいる。
みーたんの前の夫がいるお墓に半分、こうちゃんのお墓に半分。
それを息子たちに伝えた。

そして他界する順序によって相続も変わってくるから、3人の子どもたちへの遺産分割も予め決めて、法的に有効な形で残し、そして伝えておいた。

今後何かがあれば書き換えるかも知れないが、今の気持ちを残しておこうということになった。

こうして2人は、自分の居場所を見つけ、半世紀近くをかけてその場所へと辿り着いた。

この人生は映画になってもおかしくないと思いつつ、自分の人生は主役の自分が最後まで歩み続けるんだと、当たり前のことを誓った。

どれだけ時間が経っても、こうちゃんは大学時代の記憶は戻ることが無かったが、それはそれで良かったのかもしれない。


完。
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