46 / 58
045 終着駅
しおりを挟む
みーたんにとって、その日は突然やって来た。
こうちゃんが珍しく人目につくレストランで食事しようと言う。個室にはしたからと。
もうお互いに隠さなくても良いのだが、まあ不倫と言えば不倫なので、気をつかってはいた。
大きな窓のある個室だった。
当然、外からは見えないガラスである。
「この街も変わったね。あの頃にはなかったビルばかり。」
「そうね。あの頃に行った場所、色々と訪ねてみたいね。あっ、、」
「いいよ。でもごめんね。」
「いや、私こそごめん。」
こうちゃんは記憶が無いから、学生時代に行った場所などは全く思い出せない。
「これからさ、また新しい記憶を刻んでいきたい。この街は変わったけれど、変わらないものが私にはある。」
「え?」
「初めて会った時から決めてました、って奴かな。」
「なんかそんな番組あったね(笑)」
みーたんの緊張を解いた。この辺はこうちゃんもさすがだ。
「一緒に暮らしてくれませんか。私と結婚してください。」
「え、あの、、」
みーたんに2回目のプロポーズをしたこうちゃん。以前はOKしながら結婚しなかった2人。
「結婚という形式にこだわらなくてもいい。お互いに歩んできた人生があるから、そう簡単ではないとも思っている。そして今は色々な形がある。」
「ううん。私たちの世代はそんなのダメよ。暮らすならちゃんと結婚したい。旦那さん、奥さんって呼ばれたいもの。こうちゃんと。」
「え?それって。」
「はい。謹んでプロポーズお受けします。ありがとう。今、私、最高に幸せよ。」
「やったぁ!」
少年のような笑顔を浮かべたこうちゃん。
「そうそう、その顔。変わらないわ。この街のどこかにずっとあったのね、その笑顔が。これからはもっと近くで見させてください。」
この日、2人は外資系の大きなホテルに泊まった。
そう、タイを思い出させるような。
還暦を過ぎている2人なのに、この日は燃え上がった。
「気持ちいい」
そんな言葉では表せない、素敵な時間だった。
2人は、それから子どもたちとその家族に話して理解を得た。
学生時代の同級生、しかも当時の恋人と聞いて息子たちは驚いたが、嫁たちは「ステキ!」と感動していた。
息子たちがなんとも言えない表情で自分の妻たちを見ていたのが可笑しかった。
家族に祝福されて2人は晴れて夫婦となった。
そんな時、旧友のさだおはお祝いの言葉として同窓会でこう言った。
「全てはこの日のためにあったんだなと心から思う。」
他の友人はこう言った。
「いつも自分の人生は自分が主役。そして誰かの人生の脇役。立派に成し遂げてきて今があり、これからがある。お子さんたちのお父さん、お母さんも祝福してくれていることでしょう。」
宴のあと、2人は将来のことを話し合った。
こうちゃんのお墓には前の奥さんがいる。
みーたんの前の夫がいるお墓に半分、こうちゃんのお墓に半分。
それを息子たちに伝えた。
そして他界する順序によって相続も変わってくるから、3人の子どもたちへの遺産分割も予め決めて、法的に有効な形で残し、そして伝えておいた。
今後何かがあれば書き換えるかも知れないが、今の気持ちを残しておこうということになった。
こうして2人は、自分の居場所を見つけ、半世紀近くをかけてその場所へと辿り着いた。
この人生は映画になってもおかしくないと思いつつ、自分の人生は主役の自分が最後まで歩み続けるんだと、当たり前のことを誓った。
どれだけ時間が経っても、こうちゃんは大学時代の記憶は戻ることが無かったが、それはそれで良かったのかもしれない。
完。
こうちゃんが珍しく人目につくレストランで食事しようと言う。個室にはしたからと。
もうお互いに隠さなくても良いのだが、まあ不倫と言えば不倫なので、気をつかってはいた。
大きな窓のある個室だった。
当然、外からは見えないガラスである。
「この街も変わったね。あの頃にはなかったビルばかり。」
「そうね。あの頃に行った場所、色々と訪ねてみたいね。あっ、、」
「いいよ。でもごめんね。」
「いや、私こそごめん。」
こうちゃんは記憶が無いから、学生時代に行った場所などは全く思い出せない。
「これからさ、また新しい記憶を刻んでいきたい。この街は変わったけれど、変わらないものが私にはある。」
「え?」
「初めて会った時から決めてました、って奴かな。」
「なんかそんな番組あったね(笑)」
みーたんの緊張を解いた。この辺はこうちゃんもさすがだ。
「一緒に暮らしてくれませんか。私と結婚してください。」
「え、あの、、」
みーたんに2回目のプロポーズをしたこうちゃん。以前はOKしながら結婚しなかった2人。
「結婚という形式にこだわらなくてもいい。お互いに歩んできた人生があるから、そう簡単ではないとも思っている。そして今は色々な形がある。」
「ううん。私たちの世代はそんなのダメよ。暮らすならちゃんと結婚したい。旦那さん、奥さんって呼ばれたいもの。こうちゃんと。」
「え?それって。」
「はい。謹んでプロポーズお受けします。ありがとう。今、私、最高に幸せよ。」
「やったぁ!」
少年のような笑顔を浮かべたこうちゃん。
「そうそう、その顔。変わらないわ。この街のどこかにずっとあったのね、その笑顔が。これからはもっと近くで見させてください。」
この日、2人は外資系の大きなホテルに泊まった。
そう、タイを思い出させるような。
還暦を過ぎている2人なのに、この日は燃え上がった。
「気持ちいい」
そんな言葉では表せない、素敵な時間だった。
2人は、それから子どもたちとその家族に話して理解を得た。
学生時代の同級生、しかも当時の恋人と聞いて息子たちは驚いたが、嫁たちは「ステキ!」と感動していた。
息子たちがなんとも言えない表情で自分の妻たちを見ていたのが可笑しかった。
家族に祝福されて2人は晴れて夫婦となった。
そんな時、旧友のさだおはお祝いの言葉として同窓会でこう言った。
「全てはこの日のためにあったんだなと心から思う。」
他の友人はこう言った。
「いつも自分の人生は自分が主役。そして誰かの人生の脇役。立派に成し遂げてきて今があり、これからがある。お子さんたちのお父さん、お母さんも祝福してくれていることでしょう。」
宴のあと、2人は将来のことを話し合った。
こうちゃんのお墓には前の奥さんがいる。
みーたんの前の夫がいるお墓に半分、こうちゃんのお墓に半分。
それを息子たちに伝えた。
そして他界する順序によって相続も変わってくるから、3人の子どもたちへの遺産分割も予め決めて、法的に有効な形で残し、そして伝えておいた。
今後何かがあれば書き換えるかも知れないが、今の気持ちを残しておこうということになった。
こうして2人は、自分の居場所を見つけ、半世紀近くをかけてその場所へと辿り着いた。
この人生は映画になってもおかしくないと思いつつ、自分の人生は主役の自分が最後まで歩み続けるんだと、当たり前のことを誓った。
どれだけ時間が経っても、こうちゃんは大学時代の記憶は戻ることが無かったが、それはそれで良かったのかもしれない。
完。
1
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる