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本編
9.寂しいお茶会
しおりを挟む目を覚ますと、ウィリアム様の代わりにウサギのぬいぐるみが腕の中にいた。
「ウィリアム様……」
名前を呼んでも応えてくれる人はいない。
ウサギを抱えたまま、ベッドを抜け出し、シャワーを浴びる。
汚れないよう魔法がかけられているのか、シャワーをしながら腕に抱いても、ふわふわのウサギの毛が濡れることはなかった。
良かった。汚れを気にしないでどこへでも連れて行ってもらえる。
ウサギの柔らかな頭に顔を埋めると、ウィリアム様と同じ匂いがした。
シャツとパンツを纏い、庭に行きたいと強請ると、すぐに噴水の前に連れて来てくれた。
「ありがとう」
お礼を言うと、ウサギは嬉しそうに頭を揺らした。
雲一つない青空の下、薔薇の生垣に囲まれた芝生の上に、ウサギが肌触りの良い敷物を敷いてくれる。
「こんなものまで用意してくれたの? ありがとう」
頭を撫でると、今度はもこもこの両手を胸の前で交差させ、バッと広げた。動きの愛らしさに目を奪われていると、敷物の上にティーセットと僕の好きな焼き菓子が置かれている。
ウィリアム様が用意してくれたみたいだ。
「ウィリアム様……」
不在の主を想い、涙が伝う。
彼のいない時間は寂しくて、悲しくて耐えられない。
ハラハラと泣き続ける僕にウサギがそっと寄り添ってくれた。
小さな身体を抱き上げると、よしよしとふわふわの腕で濡れた頬を撫でてくれる。
「ありがとう。お茶、頂くね」
カップに口をつけると、泣いて時間が経ったのに冷めることなく適温で僕を待っていてくれた。クッキーもほんのり温められ、優しく僕を癒やしてくれる。
ふと顔を上げると、庭の隅に白いガゼボが見えた。
ーーあんなもの、あったかな?
「ウサギさん、あのガゼボは入れるの?」
聞くと、ウサギもガゼボの方を確認するように向いたが、首を振った。
あそこへは入っては行けないということだ。
「そう」
行きたいの?とつぶらな瞳に問われる。
「ううん。たまたま目に入ったから聞いただけだよ。それより、ウサギさんは紅茶飲める?」
一人で飲むのが寂しくて聞くと、ウサギはクッキーを示した。
「クッキーの方がいいの?」
コクコクと頭を揺らす。どうぞ、と差し出すと嬉しそうにもぐもぐと食べる。その仕草がとても可愛い。
柔らかなぬいぐるみを膝に乗せ、ウィリアム様が帰って来て取り上げられるまで、仲良くお茶をして過ごした。
この日からウィリアム様がお出掛けの日は、ウサギとお茶会をするのが恒例になった。
早く赤ちゃんが来てくれたらいいのに。
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