妹の聖女召喚に巻き込まれて異世界に行ったら王弟に監禁されて愛妾にされました

茶味

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本編

13.5 聖女の勘違い(聖女視点)

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聖女としての仕事をこなしながら、兄・莉人を隠している王弟殿下ーー先日、国王陛下に婚姻を認められたのを機に公爵となり臣籍に下ったウィリアムについて調べていた。

ウィリアムが結婚したのは、数ヶ月前。結婚したというよりは国王陛下に認められたのが、その頃らしい。

王弟の結婚でありながら、噂が流れるだけで大々的に発表されていないのは、ウィリアム本人の希望によるものだそうだ。結婚相手は名前すら明かされていない。知っているのは、国王陛下と宰相のみ。
お相手について、神殿や貴族の間で様々な噂が流れていた。相手は平民であるとかどこかの亡国の姫君であるとか実は男であるとか先王陛下のご落胤であるとか。
正妻扱いではないため、貴族ではなく町で見初めた平民の娘というのが有力な説となった。

噂はどんどん一人歩きしたが、ウィリアムが詳しく語ることはなかった。
妻を人前に出すことはない、ときっぱりと断ったウィリアムの腕には彼そっくりの赤子が抱かれていた。
長く結婚を反対していた国王陛下が折れたのは、この赤子のためだと神官たちは噂している。

兄を囲いながら、他の女と結婚し子どもまで作ったウィリアムが憎らしくてしょうがない。
どこの女か知らないが、国王陛下の反対を押しきってまで結婚したのならその女だけを囲えばいい。
もう兄は要らないでしょう。

国王陛下に直談判に行くと、たまたまウィリアムがいた。いや、私が来るのを知って引き合わせたのかもしれない。

「お久しぶりです、ウィリアム様」

睨みながら声をかけると、彼は何の興味もないとどこ吹く風で頷くだけだった。

「最近、ご結婚されお子様も誕生されたと聞きました。おめでとうございます」

祝辞を述べると、無表情が崩れ、一瞬だけ目を見開き、訳知り顔で薄く笑った。その笑みはぞっとするほど美しい。見た目は本当に完璧な男だ。天敵でありながら見惚れてしまいそうになる。

頭を振って気を取り直し、本題を切り出した。

「兄の莉人は元気にしているでしょうか」

「とても元気に……いや、昨日は少々疲れさせてしまったから、今日はあまり元気ではないかもしれないな」

「疲れさせるって兄に何をさせてるんですか。子守りでもさせているんでしょうか」

てっきり結婚した今も愛人として囲っているのだと思っていたが、子守りでもさせているんだろうか。

「子守りもしているな。私もそろそろ様子が気になっていた。見てみるか?」

「え、ええ」

どうしてだろう。以前より積極的にガラスプレートが渡された。
彼も同じものを手にして、国王陛下にも渡している。

ガラスプレートに兄が映った。兄だっと思った瞬間、接続を切られ、ガラスプレートは真っ白になる。
一瞬だけ映った兄は、胸をはだけ、赤子を抱いていなかったか。お風呂にでも入れていたんだろうか。

「リヒト、聴こえるか?ーーそう、私だ。ああ、またそんな可愛い声を出して。アルがげっぷをしたらウサギに伝えてくれ。ーー私もだ。ーー愛している」

甘い声だった。リヒトと兄の名を呼ぶその声も、愛していると囁くその声も。
愛しているーーとは、誰への言葉なのか。
そばにいるかもしれない結婚相手?
そっくりな顔をした息子?
それとも兄の莉人?
この男の愛情の在処がわからない。

「あの……」

「向こうから連絡があるまで少し待ちなさい。その間に静止画を見せてやる」

そう言われ、ガラスプレートには写真のスライドショーが流れ始めた。
生まれたばかりだろう小さな赤子を泣きながら抱く兄は記憶にあるより髪が伸び、儚げな美しさに優しさが加わっていた。
赤子を抱いていることも相まって、聖母のようだ。
次々と映像が切り替わる。眠っている赤子の頬を嬉しそうにつつく兄、赤子の隣ですやすやと眠る兄……そのどれもとても幸せそうだった。

「リヒトはアルフォンスーー息子をとても可愛がっている」

「それは分かります」

「とても幸せそうに見えないか?」

「そう、見えます」

と、答えた時、ウィリアムは耳に手をあてた。

「リヒトから連絡があった。今から映像で見せてやる。今回は特別だ。声も聞かせてやろう。私以外の声は向こうに届かないが」

そういって勝ち誇ったようにウィリアムが笑うと、ガラスプレートはスライドショーから映像に切り替わった。

兄は腕に赤子を抱いて、安楽椅子に腰掛けている。

「リヒト、私の声が聞こえるか?」

ウィリアムが声をかけると、嬉しそうに顔を綻ばせた。

『はい。聴こえています。ウィル様の声』

うっとりと相手の声に聞き惚れていると言わんばかりの甘い声音だ。
兄はこの男を愛しているのだろうか。
妻も子もいるこの男が。さらに子守までさせられているのに。

「アルは寝ているの」

『いえ、今日はアルくん、なかなか寝てくれなくて』

アルくんと呼ぶ声に愛しさがあった。本当にこの男にそっくりの息子を可愛がっているらしい。
兄がウィリアムに惚れているなら憎い女の子でもあるだろうに。

「リヒトの方が眠そうだな」

『それは、だって。昨日夜更かししちゃいましたから』

「そうだったな」

『ウィル様、いつ帰って来られますか? アルくん、寂しそうです』

兄は寂しそうな顔で震える声を出す。男も同じことを感じたのだろう。揶揄うような軽さで兄に問うた。

「寂しいのはリヒトだろう?」

『はい……僕も、寂し、い……』

とうとう兄は泣き出してしまった。
こんなことぐらいで泣く人ではない。なぜ、たった3年会わないだけでこんなに変わってしまったのだ。
この間に何があったんだ。
答えを知っている男は兄を宥めるようにガラスプレートを優しく撫でた。

「すぐ戻るから泣かないでくれ」

『はやく……』

男の声に縋りつくように兄はハラハラと涙を流し続ける。
本当に変わってしまった。映像に映っているのは本当に兄なのか。
なぜ、こんな風に泣くようになってしまった。
こんな状態にした張本人の男は、優しい声音で兄に返事をする。

「分かった。もうすぐ帰る」

『お待ちしてます』

ウィリアムの言葉に安堵する顔はとても儚げで、この男の罪を表しているかのようだった。
ーー絶対に許さない。

「ということだ。すぐに帰ることになったから失礼する」

帰ろうとする男へ詰め寄った。

「ちょっと待ってください。話は終わっていません」

「話すことはもうない。リヒトの無事が確認出来たんだ。もういいだろう」

そういう男の声は無機質で何の感情も読み取れない。先程、兄に話しかけていた時と、別人のようだ。
この男もまた、兄を特別に想っているんだろうか。でも、それならなぜ、結婚し、子どもを作った。兄が傷つくとは思わなかったのか。

「あなたのことで話があるんです」

「そうか。私にはない。ではな」 

手を伸ばしたが間に合わず、逃げられてしまいそうだ。転移の光の中へ向かってありったけの声で叫ぶ。

「待って!!お兄ちゃんを返して!! お兄ちゃんを解放して!!」

光は無情にも消えた。後には何も残っていない。持っていたガラスプレートも消えた。

同じく残された国王陛下が、気まずそうに声をかけてくる。

「……聞こえていたとは思うよ」

「陛下……兄はウィリアム様の愛人なのでしょう。解放して下さい。もうウィリアム様には奥様も子どもも居られるではありませんか」 

男に聞けなかったことを確かめると、国王陛下は視線を逸らした。

「あー、マリ殿には申し訳ないが、ウィリアムがリヒト殿を手放すことはないと思う。アルフォンスもいることだし」

「子守りなんて人を雇うか、母親が自分ですればいいでしょう。あんな状態、普通ではありません。兄が、兄が可哀想です」

ドンっと国王陛下の執務机を叩くと、深いため息で返される。

「ーー詳しいことは私からは言えないが、きみのお兄さんは今見た通り、幸せに暮らしている。それだけは確かだ」

結局、この国王もあの男の味方でしかない。
兄を助けられるのは、私しかいない。

絶対に助けてあげるから、待っててね。お兄ちゃんーー



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