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本編
13.息子の能力
しおりを挟むウィリアム様は今日も1日仕事でお出掛け。お昼には一度帰って来てくれて一緒にご飯食べたけど、夕方まで帰って来られないと言い残してまた出かけて行った。
ゆりかごの中でお昼寝から目が覚めたアルフォンスが、キョロキョロと部屋を見渡してウィリアム様をさがしている。
「うーあ~?」
「ウィル様はお仕事だよ」
答えながら抱き上げると、今度は僕を見上げて瞳を揺らした。
「まー?」
「ママはずっとアルくんと一緒にいるよ~」
寂しくないよと頬擦りするとキャッキャと可愛い声を上げて喜んだ。最近、アルフォンスは色んな表情をするようになった。
ウィリアム様の勧めで始めた離乳食もよく食べてくれるようになったし、はいはいもするようになった。日々の成長が嬉しい。
「うー」
「ウサギさんも一緒だよ。3人で遊ぼうね」
アルフォンスの声に、ゆりかごを整えてくれていたウサギもやって来た。その姿を嬉しそうに見て、手を振っていたが、僕の顔をみて瞳を潤ませる。
ウィリアム様がいないのが、寂しいのかな。
「うー……」
「うん、寂しいね。パパも、きっと寂しがってるよ……」
僕とアルフォンスをいつも愛してくれる人だから、きっと。
ウィリアム様のことを考えてると、自然と涙が出て来た。駄目だな。僕もうアルフォンスのお母さんなのに。
「まー?」
「ごめんね、ママ、パパが、いないとすぐ寂しくなっちゃって……」
大丈夫だよ、と笑って涙を拭いたが、なかなか止まってくれない。
ウサギも心配そうに僕の足を撫でてくれる。
そんな僕を見て、アルフォンスがウィリアム様が魔法を使うときみたい片手を上げた。
「どうしたの?」
と、問うと真っ白な光に包まれた。これって転移魔法?!
「まぁ~。うー、あ!!」
「アルくん、だめ!!」
止めようとした時には遅かった。アルフォンスを抱いたまま、知らない部屋に来ていた。ウサギはアルフォンスに触れていなかったから着いて来ていない。
どうしよう。ここはどこ?
書斎みたいだけど、部屋には誰もいなかった。でも、うっすら漂うこの香りは。
「アルくん、ここってーー」
かちゃり、とドアノブが回り、戸が開いた。
「リヒト?」
「ウィル様!」
入って来たのは、ウィリアム様だった。
良かった。
「すみません、あの……」
早足でウィリアム様に近づくと、彼の後ろに年配の男の人が立っていた。
「ウィリアム様、こちらが奥様とお子様ですか。噂以上に儚げでお美しい方ですね」
にやにやとした笑みで近寄って来られたが、ウィリアム様が背に隠してくれた。僕はウィリアム様の背に隠れながらアルフォンスを抱き締める。
「すまないがしばらく席を外してくれ。私は妻を人に見られるのが嫌いだ」
ウィリアム様がきつい声音で言うと、男はすぐに失礼しました、と挨拶を残して出て行った。
息を吐き、ウィリアム様に身を寄せる。
「ごめんなさい、ウィル様。勝手に来てしまって」
「気に病む必要はない。アルフォンスの仕業だろう?」
アルフォンスごと僕を抱きしめてくれた。聞き慣れた心音に徐々に落ち着いてくる。
「僕がウィル様がいなくて寂しいと泣いてしまって。アルくんが連れて来てくれたんです」
「そうか。ママのために頑張ったのか」
ウィリアム様がそれなら仕方ないなと笑いながらアルフォンスの頭を撫で、片手で抱き上げた。
「突然でびっくりしましたけど、お会い出来て嬉しいです」
「私もだ。だが、ここは魔法の使えないリヒトには危険なところだ。送って行くから一緒に離宮へ帰ろう」
ウィリアム様に腰を抱かれ、さっきアルフォンスが放ったのと似た光が僕たちを包む。
光が止み目を開けると、いつもの部屋だった。足に衝撃を感じて下を見ると、ウサギが僕の足にしがみついて頭を擦り付けている。
「ウサギさん、置いてってごめんね」
抱き上げると、首にしがみつかれ、ぽふぽふと頭を撫でられた。気にしないでってことかな。
ウサギに慰められている横でウィリアム様がアルフォンスを叱っている。
「私がいる時はウサギに触ってはいけないと……まあ、今回は許そう。ーーアル。ウサギを残してママを連れ出したら駄目だよ」
「うー、あ!」
ウィリアム様の言うことが分かるのか、きちんとお返事をしている。
「緊急時以外、あの部屋へママを連れて行くのも駄目だ。危ないところだからな」
「まー、あ!」
もしかして、本当に分かってるのかな。ウィリアム様の子なら、賢いだろうし。
うーんと考えながら見守っていると、ウィリアム様がとんでもないことを言い出した。
「ママの護衛、頼んだぞ」
「あう!!」
アルフォンスも凛々しい顔でお返事している。
「え?! アルくんは僕が守りますよ」
「ううー」
「アルが守ってくれるそうだ。リヒトは私たちに守られていなさい。分かったな?」
「はい……」
有無を言わさないウィリアム様の言葉に従うしかなかった。
僕はアルフォンスの親なのに。
落ち込む僕をウィリアム様は抱き寄せて、頬にキスをしてくれた。ごまかされている気もするけど、嬉しいのですぐに機嫌が良くなってしまう。
「じゃあ、みんなでお茶にしようか」
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