妹の聖女召喚に巻き込まれて異世界に行ったら王弟に監禁されて愛妾にされました

茶味

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本編

21.夢の終わり

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心を決め、身を寄せていたウィリアムの腕からそっと抜け出し、しゃがみ込む。僕の意図を察したようにウサギとネコが腕から降りた。

「……」

僕の様子を不思議そうに濃紺の瞳が見つめている。思えば、自分の意思だけでウィリアムから離れたのは、記憶を封じられて以降、初めてかもしれない。
記憶を無くしている間、いつもこの暖かな腕に甘え、守られ、縋っていた。

「リヒト?」

名前を呼ばれたが答えることなく、抱えたままのアルフォンスに話しかけた。

「アルくん、ここへ連れて来てくれてありがとう。アルくんのおかげでウィル様に会えたよ」

「あーい!」

誇らしそうに胸を張るアルフォンスに少しだけ和んだ。その頭をよしよしと撫でてウサギに彼を託す。ウサギは任せてとばかりに頷いてアルフォンスを受け取ってくれた。

「ウサギさん、アルくんをお願いしてもいいかな。アルくん、ちょっとだけウサギさんとネコさんと待っててね」

「まー?」

どうして? と首を傾げるアルフォンスを安心させるように微笑みながら大丈夫だと伝えた。

「パパと大切な話をするだけだよ。すぐ終わるから、待っててくれる? 終わったら遊ぼうね」

「あい!」

アルフォンスはウサギの腕の中から手を振っていいお返事をくれた。この笑顔を守るためにも、ウィリアムとの関係をきちんとしなければならない。

気を利かせてウサギが部屋の隅に置かれたソファのところへ移動するのを見届けて、僕はウィリアムに向き直った。

黙って待っていてくれたウィリアムに改めて呼ばれる。

「リヒト」

戸惑いを含んだ声だった。きっともう、僕が記憶を取り戻したことに気付いている。
これからきっとウィリアムとの関係が変わるだろう。結末によっては僕がウィリアムを受け入れないかもしれないし、逆に記憶を取り戻した僕を彼が受け入れないかもしれない。

「色々話さないといけないんですけど、その前に……」

僕は自分からもう一度ウィリアムに抱きついた。これが最後になるかもしれないと思いながら。

「会いたかった」

そう言うウィリアムの腕が僕を閉じ込めるように背中と腰へ伸びた。

「僕もです……もう、会えないかもしれないと」

「そんなことはさせない。もう2度と離さない」

きっぱりと言い切ったウィリアムの拘束が痛いほど強まる。彼見せるこの執着が心底怖いのに僕もまた同じことを思っていた。

「そうですね。もう2度と離さないでくださいね、ウィリアム」

ふわっと笑って名前を呼ぶとぴくりとウィリアムの身体が反応した。記憶が戻る前は言いつけを守っていたから、彼をウィリアムと呼んだことは一度もない。それだけで彼は確信しただろう。

「ーーリヒト、やっぱり」

「はい。茉莉に、妹に会って、彼女の力で記憶が戻りました」

濃紺の瞳をしっかりと見つめながら、告げた。ウィリアムは力を抜き、俯いた後、諦めたような顔して僕から少しだけ離れた。

「そうか」

「僕の記憶を封じていたのは、ウィリアムですよね?」

「そうだ」

確認するように問うと、彼は隠すこともなく頷いた。
今のウィリアムなら、全てを教えてくれるかもしれない。一番の疑問をぶつける。

「なぜ、そんなことをしたんですか」

咎める気持ちがなかったとは言えないけど、それ以上に純粋に不思議だった。

「…………リヒトを私だけのものにしたかった。リヒトの全てが私であればいいと」

ウィリアムから返された答えは、予想通りと言えば、そうだった。

ーー度を超えた執着と独占欲

動機は本当にこれだけなんだろう。
あの離宮では、たしかに僕の世界にはウィリアムしかいなかった。
アルフォンスを産んでもあの子はウィリアムの子で、彼からもたらされたものだった。

でも、なぜそこまで僕に執着を向けるんだろう。
出会ったばかりでそんな独占欲を抱かれるほどの人間ではない。妹のような特別な力があるわけでもなく、とびきり優れた容姿というわけでもない。なのに、なぜ。

「どうして、僕にそこまで? 分からないんです。会ったばかりの僕を魔法で記憶を封じてまで望んだのは、なぜですか」

「私がリヒトを見つけたのは、あの神殿ではない。前からリヒトを知っていた。リヒトがこちらへ来るより前からずっと見ていた……」

そう言ってウィリアムは昔を懐かしむように目を細めた。

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