23 / 31
本編
21.夢の終わり
しおりを挟む心を決め、身を寄せていたウィリアムの腕からそっと抜け出し、しゃがみ込む。僕の意図を察したようにウサギとネコが腕から降りた。
「……」
僕の様子を不思議そうに濃紺の瞳が見つめている。思えば、自分の意思だけでウィリアムから離れたのは、記憶を封じられて以降、初めてかもしれない。
記憶を無くしている間、いつもこの暖かな腕に甘え、守られ、縋っていた。
「リヒト?」
名前を呼ばれたが答えることなく、抱えたままのアルフォンスに話しかけた。
「アルくん、ここへ連れて来てくれてありがとう。アルくんのおかげでウィル様に会えたよ」
「あーい!」
誇らしそうに胸を張るアルフォンスに少しだけ和んだ。その頭をよしよしと撫でてウサギに彼を託す。ウサギは任せてとばかりに頷いてアルフォンスを受け取ってくれた。
「ウサギさん、アルくんをお願いしてもいいかな。アルくん、ちょっとだけウサギさんとネコさんと待っててね」
「まー?」
どうして? と首を傾げるアルフォンスを安心させるように微笑みながら大丈夫だと伝えた。
「パパと大切な話をするだけだよ。すぐ終わるから、待っててくれる? 終わったら遊ぼうね」
「あい!」
アルフォンスはウサギの腕の中から手を振っていいお返事をくれた。この笑顔を守るためにも、ウィリアムとの関係をきちんとしなければならない。
気を利かせてウサギが部屋の隅に置かれたソファのところへ移動するのを見届けて、僕はウィリアムに向き直った。
黙って待っていてくれたウィリアムに改めて呼ばれる。
「リヒト」
戸惑いを含んだ声だった。きっともう、僕が記憶を取り戻したことに気付いている。
これからきっとウィリアムとの関係が変わるだろう。結末によっては僕がウィリアムを受け入れないかもしれないし、逆に記憶を取り戻した僕を彼が受け入れないかもしれない。
「色々話さないといけないんですけど、その前に……」
僕は自分からもう一度ウィリアムに抱きついた。これが最後になるかもしれないと思いながら。
「会いたかった」
そう言うウィリアムの腕が僕を閉じ込めるように背中と腰へ伸びた。
「僕もです……もう、会えないかもしれないと」
「そんなことはさせない。もう2度と離さない」
きっぱりと言い切ったウィリアムの拘束が痛いほど強まる。彼見せるこの執着が心底怖いのに僕もまた同じことを思っていた。
「そうですね。もう2度と離さないでくださいね、ウィリアム」
ふわっと笑って名前を呼ぶとぴくりとウィリアムの身体が反応した。記憶が戻る前は言いつけを守っていたから、彼をウィリアムと呼んだことは一度もない。それだけで彼は確信しただろう。
「ーーリヒト、やっぱり」
「はい。茉莉に、妹に会って、彼女の力で記憶が戻りました」
濃紺の瞳をしっかりと見つめながら、告げた。ウィリアムは力を抜き、俯いた後、諦めたような顔して僕から少しだけ離れた。
「そうか」
「僕の記憶を封じていたのは、ウィリアムですよね?」
「そうだ」
確認するように問うと、彼は隠すこともなく頷いた。
今のウィリアムなら、全てを教えてくれるかもしれない。一番の疑問をぶつける。
「なぜ、そんなことをしたんですか」
咎める気持ちがなかったとは言えないけど、それ以上に純粋に不思議だった。
「…………リヒトを私だけのものにしたかった。リヒトの全てが私であればいいと」
ウィリアムから返された答えは、予想通りと言えば、そうだった。
ーー度を超えた執着と独占欲
動機は本当にこれだけなんだろう。
あの離宮では、たしかに僕の世界にはウィリアムしかいなかった。
アルフォンスを産んでもあの子はウィリアムの子で、彼からもたらされたものだった。
でも、なぜそこまで僕に執着を向けるんだろう。
出会ったばかりでそんな独占欲を抱かれるほどの人間ではない。妹のような特別な力があるわけでもなく、とびきり優れた容姿というわけでもない。なのに、なぜ。
「どうして、僕にそこまで? 分からないんです。会ったばかりの僕を魔法で記憶を封じてまで望んだのは、なぜですか」
「私がリヒトを見つけたのは、あの神殿ではない。前からリヒトを知っていた。リヒトがこちらへ来るより前からずっと見ていた……」
そう言ってウィリアムは昔を懐かしむように目を細めた。
49
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる