24 / 31
本編
22.ウィリアムの過去
しおりを挟むウィリアムとは召喚されたあの時が初対面のはずだ。
「どういうことですか?」
戸惑う僕に微笑みかけながら、遠い目をしたウィリアムは静かに語り始めた。
「私が父からーー当時の国王であった父から聖女を探すように言われたのは、5歳の時だった……」
ウィリアムは国内の事情と聖女の役割について掻い摘んで説明してくれた。口調も表情も淡々としていたが、5歳の子どもにどれだけの負担が掛かっていたんだろうか。
本来なら親に守られ、大事に育てられているはずの年齢で国の命運を背負わされるなんて。
今はもう終わったこととはいえ、当時のウィリアムを想像すると、胸が締め付けられる。
「どれだけ魔力を使って探しても聖女は見つからず、昔の文献にあった異世界まで捜索範囲を広げることにした」
「異世界……」
「そうだ。同じ世界と違って簡単に行き来することは出来ないから、魔力だけを飛ばして各地を“見て”回った」
魔力を飛ばすというのがイメージし辛く詳しくきくと、ドローンで空撮した映像を見るようなものらしい。
延々とひたすら映像を見ながら聖なる力が発する光を求めて端から回ったとウィリアムは言った。
「色んな世界を見て回るのは楽しそうですね」
少しでも場が明るくなればと思ってそんな言葉が口をついた。ウィリアムはきょとんとした顔で僕を見つめた後、寂しそうな顔で笑った。
「そうだな。リヒトと一緒ならきっと楽しかっただろう。一人で見てもただの景色だった。そこがどこであっても同じようにしか見れなかった」
失敗した。楽しいわけがないのに。ウィリアムは好きで世界を見ていたんじゃない。
何を見ても誰とも共有出来ず、一人でただ流れる世界を見つめていたんだ。
ウィリアムの手をぎゅっと握る。今何をどうしても、幼い日の彼が癒されるわけじゃない。でも、そうしたかった。
手掛かりもないまま、諦めることも許されず、終わりの見えない捜索をし続けることが小さな子どもにとってどれだけ辛い日々だっただろう。
彼はずっと孤独だったんだ。
「ウィル……ごめん」
「謝らなくていい。今はこうしてリヒトがいてくれる」
「そう、だね」
握った手にウィリアムの手が重なる。
「数えきれないほど沢山の世界を探し回ってようやく見つけたのが、リヒトの妹だった。見つけた時、彼女はまだ生まれたばかりでリヒトの腕に抱かれていた」
妹が生まれた時のことはよく覚えている。10歳も離れた妹が本当に可愛くて、愛しくて両親に呆れられるほど世話をしていた。
あの日々のどこかをウィリアムは見たんだろうか。
「妹を大事そうに抱きかかえ、あやす姿に一目惚れしたんだ。とても慈愛に満ちた表情をしたリヒトに」
「そんなふうに言われるほどではなかったと思います……生まれたばかりの妹が可愛くて構ってただけで」
「私はとても聖女が羨ましかった。なぜ、リヒトの視線の先にいるのが自分じゃないのかと」
仄暗い顔で笑うウィリアムに彼に初めて凌辱された時のことを思い出した。あの時もこんな目をしていた。僕を貫きながら、紅い唇を歪ませて言った。
ーーこれでお前は私のものだ。誰にも渡さない。
僕に絶望感しか与えなかったあの言葉は、16年も募らせた愛情と独占欲だったのか。
57
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる