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隣人を回避せよ(3)
しおりを挟む「はぁっ、はぁっ」
結局、逃げてしまった……
用事ってなんだ、用事って。言い訳苦しすぎるだろ。あの最後の顔…。絶対おかしいと思われた。機転のきかない自分の咄嗟の行動に、さすがに嫌気がさす。
玄関のドアに耳を当ててみると、もう行ってしまったらしい。少し急足でコツコツと足音が遠ざかっていく。その足音が聞こえなくなりホッとすると、改めて部屋に入る間際、怪訝な顔をしていた隣人のことを思い出した。
あれは、完全に千秋のことがわかっていない顔だった。まさか、気づかれもしないなんて。ああそうかよ、俺は記憶にも残らない些細な人間だったってことですか。
でも、もうこれでわかった。嫌いな人間がす隣にいるなんてやっぱり耐えられないし、家にいるのに気が休まらないなんてストレスすぎる。
たしかにさっきは少し動揺したけど、今はもうとっくに正気だ。やつが俺に気づいていないなら好都合、腹は決まった。
引っ越す。
この条件のいい部屋を早々に手放すのは惜しいが、背に腹は変えられない。そして、次の家が決まるまで絶対英司に会わないように徹底する。引っ越しさえしてしまえば、生活圏は同じでも関わることはない。
よしこれだ。これしかない。
そうと決まれば新しい家を探そう。明日にでも探しに行こう。
やつのせいでここまでしなければいけないのは些か腹が立つが、千秋は復讐したいのではなく、ただ忘れたいのだ。
というかいい感じに忘れられてたのに……なんで、こんなタイミングで現れるんだよ。
翌日、早速不動産に駆け込んだが、新しい部屋は決まらぬまま1週間が経った。
とりあえず、英司とはあれから一度も会っていない。
物件も色々探してみたけど、時期もありやっぱりそう簡単には見つからない。大学とちょうどいい距離にあって、良い部屋なわりにこの家賃の今のアパートが空いていたのは本当にラッキー中のラッキーだったのだ。
どこか、大学からそこまで遠くなくて家賃もちょうどいい物件はないのか。
引っ越し資金もかかるし、考えれば考えるほど今の部屋を手放したくなくなるな……。
今日はバイトの後に買い物に行ってから帰宅したら、時間はすでに19時を回っていた。
千秋は余裕のある限り自炊をしているため、エプロンを身につけると少し遅めだが夕食を作り始めた。実家暮らしの時は両親が共働きで一つ下の弟によくご飯を作っていたから、慣れたものである。
まあ、今日は軽く野菜炒めとスープでいいか。昨日買った豚肉も食べなきゃいけないし。
適当につくり終えたところで、早炊きに設定した炊飯器が鳴る。いつも一人分しか炊かないし余ったら冷凍庫行きだし、一人用炊飯器に変えてもいいかもしれない。
ご飯をよそおうとしゃもじを手に取ったところで、ピンポーンとチャイムが鳴る。こんな時間に誰だ?宅配は頼んでいない。
「はいはーい、今出ます」
しゃもじを持ってきてしまったことに気づいたが、すでにドアを開きかけていため戻るのはやめておいた。
とドアを少し開けたところで、なぜか急に向こうから引かれるように開かれる。
「う、わっ!」
ドアごと引っ張られた千秋は危うく転びかけた。
もしかして不審者、と流石に焦って顔を上げる。が、来客の正体を目の当たりにした千秋はもう何度目だろうか、パキッと固まってしまった。
ドアを向こう側から引いた訪問客、いや不審者は、なぜか息切れを起こしている隣人だったからだ。
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