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つながりを求めた(10)
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千秋が黙っていると、英司がポンと肩に触れる。
「高梨……信じられない?」
こちらの心を読んだように言うので千秋は少し驚いたが、すぐさま首を横に振った。
英司にこれ以上説明させることもないだろう。千秋はこの話題を終着させることにした。
「嘘だな」
「はっ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。話は終わりへと近づいているはずなのに、なかなか辿り着かない。
「俺、五年もお前にそう思わせてたんだよな、ずっと……。お前があまりそういうこと言わないの知ってたし、それに気づくべきなのは俺だったのに」
「それは……柳瀬さんのせいじゃないんで」
「でも俺の前から消えたのも、本当はそれが原因なんだろ。ずっと嫌な気持ち抱えさせて、俺は知らずにまた勝手に現れて迫って、わけわからなかったよな」
言ってない自分の気持ちもどんどん当てられて、千秋は何も言えなくなる。
英司は、変なところで鋭くて、いつも気持ちを読まれているようだ。
「でも、お前が俺のこと嫌いでも、やっぱり俺はお前を離せない……」
いっそう苦しさを含んだその声が耳に入ってきて、千秋は思わず英司の顔を見た。泣いているのかと思った。
英司がこちらを正面に向きを変える。
「なあ、信じてくれ。お前が好きだ。ずっと、お前のことしか好きじゃない。正直卒業式のことなんて忘れてたくらい、どうでもよかったんだよ。誰にキスされようが、お前以外どうでもいい。あの時はちょうど、これからどうやって千秋と会うかずっと考えてて……。くそ、なんであのとき油断したんだ」
千秋が信じられてないと気づいてから、ヒートアップするように英司が感情だだ漏れで話すので、思わず戸惑う。
すごい、後悔してるし、辛そうだ。顔を苦悶に歪め、必死に千秋に縋っている。
こんな英司は初めて見た。
きっと、普通だったら話せばわかってもらえる。なのに俺がこうだから、柳瀬さんは。
「……悪い、感情に訴えたいわけじゃない。ただ信じてほしいんだ、千秋。もし無理ならそれでもいい、これから証明するチャンスがほしい」
英司は間を置いて我に返ると、いつもの落ち着きを取り戻しながらそう言った。
千秋は気づく。英司は基本的に落ち着いていて、元々感情を大っぴろげにするタイプではない。感情も表情だって人並みに変化するけど、その幅は広くない人だ。
俺は、知っていたのに。
やはり最初から嘘をついているようには見えなかったし、その上ここまで言っている。
それに英司の言い分を聞いた今、それを本気で照合しようとすれば、嘘の場合、必ずボロが出る。それを頭の良い英司がわからないわけがない。
英司の言っていることが本当だというのは明白だった。
だとしたら、この話、英司が悪いことなんて一つもないのだ。
むしろ、英司を最後まで信用せず、本当のことを聞かなかった千秋が悪い。
英司は、説明する暇もなく、意味のわからないまま千秋に逃げられたわけだ。
勘違いという可能性もあれど、勘違いでない可能性も変わらずあるということ。あの時、ほぼ黒だと確信してしまっていた千秋は、本当のことを本人の口から聞くことが怖かったのだ。
だから、逃げた。
「柳瀬さん、俺、信じます」
「……本当か?俺は、お前には心から信じてほしい。証拠なら探す」
「いや…本当のこと言ってるなってのはわかるんで。だから、謝らなきゃいけないのは俺の方なんです。……俺、勝手に勘違いして……その上、柳瀬さんのことを信じずに、本当のことも聞かず逃げました。だから、本当にごめんなさい」
「いや、あんな場面見せられたら、俺だって勘違いすると思う。だから、俺がごめん」
「だから、それを俺は確認もせずに……」
「それは、俺が勘違いさせたせいで……」
「だとしても俺が……」
「……って、これ、繰り返すのか」
お互い謝罪の無限ループを察知したので、英司が少し冗談ぽく言うと、千秋も乗っかって「このへんで終わりにします」と肩をすくめた。
まずは、自分の悪かったところを反省して、信じることから始めたい。
そう、きっと、もっと単純なことだったんだ。
「高梨……信じられない?」
こちらの心を読んだように言うので千秋は少し驚いたが、すぐさま首を横に振った。
英司にこれ以上説明させることもないだろう。千秋はこの話題を終着させることにした。
「嘘だな」
「はっ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。話は終わりへと近づいているはずなのに、なかなか辿り着かない。
「俺、五年もお前にそう思わせてたんだよな、ずっと……。お前があまりそういうこと言わないの知ってたし、それに気づくべきなのは俺だったのに」
「それは……柳瀬さんのせいじゃないんで」
「でも俺の前から消えたのも、本当はそれが原因なんだろ。ずっと嫌な気持ち抱えさせて、俺は知らずにまた勝手に現れて迫って、わけわからなかったよな」
言ってない自分の気持ちもどんどん当てられて、千秋は何も言えなくなる。
英司は、変なところで鋭くて、いつも気持ちを読まれているようだ。
「でも、お前が俺のこと嫌いでも、やっぱり俺はお前を離せない……」
いっそう苦しさを含んだその声が耳に入ってきて、千秋は思わず英司の顔を見た。泣いているのかと思った。
英司がこちらを正面に向きを変える。
「なあ、信じてくれ。お前が好きだ。ずっと、お前のことしか好きじゃない。正直卒業式のことなんて忘れてたくらい、どうでもよかったんだよ。誰にキスされようが、お前以外どうでもいい。あの時はちょうど、これからどうやって千秋と会うかずっと考えてて……。くそ、なんであのとき油断したんだ」
千秋が信じられてないと気づいてから、ヒートアップするように英司が感情だだ漏れで話すので、思わず戸惑う。
すごい、後悔してるし、辛そうだ。顔を苦悶に歪め、必死に千秋に縋っている。
こんな英司は初めて見た。
きっと、普通だったら話せばわかってもらえる。なのに俺がこうだから、柳瀬さんは。
「……悪い、感情に訴えたいわけじゃない。ただ信じてほしいんだ、千秋。もし無理ならそれでもいい、これから証明するチャンスがほしい」
英司は間を置いて我に返ると、いつもの落ち着きを取り戻しながらそう言った。
千秋は気づく。英司は基本的に落ち着いていて、元々感情を大っぴろげにするタイプではない。感情も表情だって人並みに変化するけど、その幅は広くない人だ。
俺は、知っていたのに。
やはり最初から嘘をついているようには見えなかったし、その上ここまで言っている。
それに英司の言い分を聞いた今、それを本気で照合しようとすれば、嘘の場合、必ずボロが出る。それを頭の良い英司がわからないわけがない。
英司の言っていることが本当だというのは明白だった。
だとしたら、この話、英司が悪いことなんて一つもないのだ。
むしろ、英司を最後まで信用せず、本当のことを聞かなかった千秋が悪い。
英司は、説明する暇もなく、意味のわからないまま千秋に逃げられたわけだ。
勘違いという可能性もあれど、勘違いでない可能性も変わらずあるということ。あの時、ほぼ黒だと確信してしまっていた千秋は、本当のことを本人の口から聞くことが怖かったのだ。
だから、逃げた。
「柳瀬さん、俺、信じます」
「……本当か?俺は、お前には心から信じてほしい。証拠なら探す」
「いや…本当のこと言ってるなってのはわかるんで。だから、謝らなきゃいけないのは俺の方なんです。……俺、勝手に勘違いして……その上、柳瀬さんのことを信じずに、本当のことも聞かず逃げました。だから、本当にごめんなさい」
「いや、あんな場面見せられたら、俺だって勘違いすると思う。だから、俺がごめん」
「だから、それを俺は確認もせずに……」
「それは、俺が勘違いさせたせいで……」
「だとしても俺が……」
「……って、これ、繰り返すのか」
お互い謝罪の無限ループを察知したので、英司が少し冗談ぽく言うと、千秋も乗っかって「このへんで終わりにします」と肩をすくめた。
まずは、自分の悪かったところを反省して、信じることから始めたい。
そう、きっと、もっと単純なことだったんだ。
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