白木と武藤

一条 しいな

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 武藤は横になって、ぼんやりと天井を見ていた。そうして、なにかを考えているように見える。またなにも考えていないようにも見える。ただ武藤は、ときがすぎることを待っている自分がいることに気がついた。どうすればここに出ていけるか、そんなことを考えるべきだか、あまりいい案を思い浮かべずにいた。そんな武藤を白木はどう思っているのか、考えたくもなかった。
 武藤はしばらくじっとしていた。白木が来るのはわかっていた。そうして、抱かれることになるだろうと予想はできた。しかし、武藤は白木に抱かれるということを望んでいない。むしろ、自分が男の体の白木に興奮するわけがないのだ。武藤はそう考えていた。以前、白木がこの姿をしているには理由があると聞いた。武藤を抱きたいならば女になってほしいと武藤は考えていた。
 それならば抱けると考えて、やはり無理だと武藤はつぶやいていた。暗闇の中、あんどんの光が優しく、周囲だけを照らしている。温かな光である。だいだい色の光で、ぼんやりと光っている。それを見ていると心が落ち着くのを武藤は感じていた。そんな武藤にすっとふすまが開く音が聞こえた。
「白木か」
「武藤。寝ていなかったのか」
 寝込みを襲われて、対応できずにいるのがいやだとは武藤は言わなかった。ただ武藤は曖昧に笑っていた。なぜ、そんな媚びたことをするのか、武藤自身、わからなかった。気まずさ。まるで白木を武藤が待っていたようで、なんとなくうすら寒いものを武藤は感じたせいか。
 武藤はしばらく黙っていた。そうして、横になったまま、白木の顔を見つめていた。平凡な顔である。武藤も同じだ。代わり映えのしない顔である。それなのに、白木は武藤のどこを好みだと言うのだろう。
「白木はどうして俺を選んだ?」
「うまそうだから」
 それだけである。うまそうという観点からして武藤の理解から超える。なぜなら、それは食べたいという、捕食の考え方だ。武藤はこうして体を抱いて、その感情を食べるつもりなのか。そんなことが浮かんでいた。どうして自分なのか、どうして体を抱きたいのか、そればかり考えてしまう。
「理由がほしいのか?」
 いきなり耳元で白木が問いかける。白木が武藤を抱きしめていることに気がついて、しまったと武藤は思った。自分の考えに夢中で、白木が布団に入ったことに気がつかなかった。それだけ白木の武藤を求める理由が、武藤にとって重要なことかもしれない。その事実に気がついた武藤は愕然とした。
 男は女のように、体を結んだとしても情が湧く、そんなことはない生き物だ。だからデリヘルがある。別に白木と体を結んでしまってもいいのではないか。これもなにかの経験だと思えばいいのだ。しかし、武藤はそう思えなかった。
 それは愛情の裏返しではないだろうか。そんなことを武藤は指摘されないのに、考えていた。
「理由なんていらない」
 そこまで考えて、武藤は白木の理由を拒んだ。そうしなければ、きっと武藤は混乱した。もしかしたら白木は武藤のことを人間が思うような好きではないか。それは頭でわかっていた。しかし、実際に言葉にしてもらうのとは違う。
 古代では言霊が信じられていた。言葉に発することで、聞いたものが呪術がかかると。この異世界でも例外ではない。もし、白木が武藤を好きといえば、それが事実になる。うそでも誠になる危険性だってあるのだ。
 それでいいのでは? 白木が武藤を食べないということにもなるのでは?
「あ、あのな」
「言葉がほしいのだろう。理由が」
 白木がニヤニヤしながら、話しかけている。武藤の思考を読んで面白がっているのか、真相はわからない。ただ、白木は「俺がおまえを好きだ」と言った。
 武藤は黙っていた。耳まで真っ赤にすることもなく、それを聞いて恐怖を感じていた。実際には愛の告白かもしれないが、武藤には聞きたくなかった言葉でもある。現実になるということがわかっていた。事実になる。武藤のことを白木が好きという事実が作り上げて、それが現実となり、武藤は白木から逃れることはできずにいる。
 白木は笑っていた。ニヤニヤとした笑いだった。それが武藤には腹立たしいものだ。こいつのせいですべてが狂う。武藤は祐樹に会いたかった。自分の恋心が変わるということに気がついたからだ。
「おまえさ。もしかして、俺が武藤のことを好きではないから、ここに閉じ込めたと思うだろう?」
「違うのか?」
「俺は好きだから、蜜月を過ごすためにいる」
 武藤はあきれて、なにも言えなくなった。ただ、それだけのために祐樹を人質に武藤の自由を奪ったのだ。
「白木の考えていることがわからない」
「そうか。意外と単純だぞ」
 単純かもしれないが、そうとは思えない武藤がいた。武藤はしばらく黙っていた。相手の様子をうかがっているためでもある。白木は罪の意識もなく、ごく当たり前のように武藤の体の線を確認するようになでていた。それが不快なはずである。しかし、反対に心地よさを感じていた武藤がいた。
 腰、胸、腕。まるでマッサージをするようになでられる。温かな手が武藤の体を行き来することに、武藤はリラックスし始めていた。ガチガチに固まっていた筋肉がゆっくりと柔らかなものに変化していた。
「やめろ」
「おっ。感じているのか?」
「そうではない」
 じゃあ、どうなんだと白木が問いかける。白木の手が武藤の唇に向かうのを見て、武藤はおびえていた。しかし、武藤は優しい手つきのまま、唇の感触を確かめるように触る白木の手を受け入れていた。下唇をなぞるよう、優しく触る。ゆっくり輪を描くように触る。
「リップクリームがほしい」
 真剣な目つきで白木が言うのを武藤は聞いていた。それがなにかいけないことをしているようで、武藤には怖かった。だから、唇を動かすこともせずに、だんだんとおかしい気持ちになっていく自分に気がつかなかった。
「白木」
「紅を塗ったような色だな」
 武藤の唇にそっと白木の唇が重なる。背筋に快感が走るような、そんな感覚がした。武藤は混乱したまま、白木の口づけを受け入れていた。それがたまらない。唇の刺激がほしいと感じていたからだ。
 武藤はもぞもぞと体を動かしていて、自分の体の変化にようやく気がついた。自身がゆるく勃っている。それは事実である。信じがたい事実でもあった。一度ならば、うまく言い訳が考えられるが、二度目ならばうまく言い訳ができず、ひたすら未知の感覚に耐えなければならない。
「そういえば、おまえ、だれかと付き合っていたわけでもないんだよね。浅海ともできていると考えていたけど、くっつかなかったな」
 武藤は昔のことを話すつもりはなかった。なのに、いきなり白木は昔のことを話していた。それに意図があるのか、武藤には疑問だった。
「おまえ、人がこんなときに」
「ああ。欲情したのか」
 あっさりと白木は武藤の欲を見抜き。武藤は恥ずかしさのためになにも言えず、白木の腕から離れようとした。そうしなければ、きっと自分の姿を見られるからだ。
「バケモノって目がいいんだ。暗いところでも見える」
 武藤は離れようともがいた。自分の弱々しい力で布団から逃げ出そうとした。しかし、腰を腕に巻きつけ、白木は離すことがなく、また口づけをする。今はもう感じないが、ドクドクとした心臓の音が聞こえる武藤がいた。武藤の頭には自分のものをいじりたいという考えがあった。それを実行するのは勇気が必要だった。
「やめろ」
 普通の触れるだけのキスからディープキスに変わっている。白木の唾液と武藤の唾液が混ざり合う。いやだと言えばやめるだろう。それがわかっている。
「やめろ」
「わかった」
 武藤の言葉に白木の手から解放されていた。このまま、自分を慰めたかった。しかし、それはできずにいた。あんどんの光は武藤まで照らさない。
「お手洗いに行く」
「ついていく」
「いい」
「暗いから、あかりが必要だろう?」
 そう言われてしまったら、なにも言えなくなる武藤がいた。あかりをどこからか、わからないが、白木はあかりで歩きづらい武藤をゆっくりと誘導する。武藤は機嫌が悪くなる自分がいた。この後、どんな気持ちになるのか、想像ができるからだ。
 あかり、ろうそくの火に白い紙が半分おおうものを持った白木は笑うこともなく、武藤の背中を触る。寒さのためか、それが心地よいが、性的なものを感じさせない。それに安心していいのか、わらず武藤は戸惑う。
 暗い廊下、板張りの冷たさに自分の体が熱さを知る武藤だった。武藤が自分の足跡のようなものができていることを想像することで欲求を抑えていた。自分のものが妙に重いことを実覚し、痛いものを感じる。
 体は出したいと考えている。それから意識をそらす。お手洗いが見えてきた。それは洋式である。電気がついている。それにほっとしている。スリッパをはいて、便座を開ける。さっさと用を済ます。自分のものは軽くしごいただけで、今まで感じたことがないような快感だった。そのあとに来る憂鬱なものが心の中に沈殿するのはそう時間がかからなかった。
 最初は虚しさ、それから怒りと後悔だった。それを言葉にしようとするのは難しかった。それを言葉にするために武藤は自分の感覚をさぐる。
 それは現実逃避にも似た行為でもあった。それを指摘するものはいなかった。
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