1 / 21
1章 鬼界転生
1話 転生鬼人衆
しおりを挟む
夢を観ていた。
暗い夜の夢だ。
漆黒の空の下、ある一点に妖しい光が見える。青白い光だ。
俺の意識はその一点へと吸い込まれて行った。
どこか見覚えのある巨大な石像を過ぎ、黒々とした森を超え、広い空き地へと出る。
そこに光の正体があった。それは青白い炎だった。これまで見た事がない不気味な炎だ。いくつもの薪が重ねられているのがわかる。
その不気味な炎は空き地の様相を照らし出していた。100人くらいの人間が地面にひれ伏している。彼らの視線は一様にして前方の青白い炎、その下の石の祭壇に向けられていた。
俺の意識はその石の祭壇へと近づいて行った。
そこには9名の若い男女が裸で横たわっていた。彼らの腹には見慣れぬ紋様が描きこまれている。
「諸君……」
青い炎の中から突如、一人の人間が現れた。
黒いローブを羽織っていて、頭にはフードを、顔には銀色らしい仮面を着けている。よく見れば、その仮面の左上だけは仮面になっていない。白い肌が覗いている。ただ、左眼には眼の形をした銀色細工が埋め込まれていた。義眼だ。
義眼の魔術師――
ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
「諸君、時は満ちた」
義眼の魔術師はその場にいる者たちに静かに語りかけた。
「今宵、この世界に9名の鬼人たちを転生させる」
その声は、老人のようでもあり、若い娘、壮年の男のようでもあった。聞いていると底知れぬ不安を感じる声だ。
「我が秘術《鬼界転生(きかいてんしょう)》の贄となる彼らは、永久の名誉を手にする事になろう」
義眼の魔術師は、祭壇に横たわった男女に手を向けた。
その手も顔同様に真っ白だ。
「さぁ、迎え入れよう。我らが英雄たちを」
そう言って祭壇に向き直ると、何やらよくわからない呪文を唱え始めた。それに合わせて他の者たちもブツブツと唱える。
青白い炎がさらに輝きを増す。そして、
「あぁ、あああぁ、あああああああぁ!」
祭壇に横たわる者たちが一斉に身悶え始めた。苦痛に顔を歪め、この世のモノとは思えない絶叫を上げている。
その地獄の様相はしばらく続いた。
変化が起きたのは、またしてもあの青い炎だ。輝きを増し続けていた炎が突然、血のような赤い炎に変わった。
普通の炎とは違う、禍々しき地獄の業火だ。
「ああああああああああっ――」
絶叫を上げ続けていた男女の声がピタッと止んだ。
彼らの方を見ると、その口の中から異様なピンク色の肉塊が這い出して来ていた。
まるでナメクジのようにウネっている。その肉塊が口から這い出す毎に、男女の体は干からびていく。肉塊に血肉を吸い取られているように見える。
やがて肉塊は完全に口の外へと這い出して来た。その大きさは大型犬くらいの大きさだ。肉塊の横には枯れ枝のように干からびてミイラと化した男女の遺体が転がっている。
肉塊は、血のような炎を背にしてその姿を変形し始めた。
体積が増し、手足が生え始める。
いくつかの肉塊は筋肉質な体幹を、別のいくつかは丸みを帯びた体付きに豊かな乳房が形作られて行く。
頭部が生え、口や鼻、目が形成され、髪が生えてくる。
あっという間に9体の肉塊は、9人の男女へと変身した。
彼らは裸身のまま、その場に人形のように立ち尽くしている。
彼らの体は背後の炎に照らされている。その顔形は贄となった男女とは明らかに違っていた。
2メートルを超える大男もいれば、彫刻のような肉体の持ち主もいる。壮年の強面な男や初老らしき男もいた。
美しい2人の娘の内、1人は艶やかな黒髪に真っ白な肌、そしてもう1人は豊かな金色の髪に引き締まった体つきだ。
みな、地獄の業火を背景に堂々とした佇まいだ。
「見よ! ここに9の鬼人たちが転生を果たしたッ!」
義眼の魔術師が鬼人たちを振り仰ぐ。
「スパルタカス! 源為朝!」
次々と名前を呼び鬼人たちを指し示す。
「風魔小太郎! パラケルスス!」
なんだ?
なんで俺は……
「ジャンヌ・ダルク! 小野小町!」
なぜ、俺は彼らの名前に聞き覚えがある?
「宮本武蔵! 項羽! そして――」
今まで聞いた事もない名前のはずなのに……
「アキレス!!」
俺は……俺は、誰だ?
「彼ら転生鬼人衆(てんしょうきじんしゅう)の力をもって積年の恨みを晴らそう! アルタイア王国に血の鉄槌を!」
地面平伏していた者たちが歓声を上げた。転生鬼人衆は気に留めずに佇んでいるだけだ。
俺も気に留めていなかった。それよりも先ほどの義眼の魔術師の言葉が気になる。
アルタイア王国……
そう、
そうだ。
思い出した!
俺は、そのアルタイア王国の第三王子アルセル・アルタイア。
それが俺の名だ。なのに……
なんだ、違和感がある。
なぜ俺は、彼ら転生鬼人衆たちの名に聞き憶えがあるのだ?
実際には会った事はないはず。ただ、知識として彼らを知っていたのだ。
「始めよう、我らが聖戦を、アルタイア王国を滅ぼす為に!」
義眼の魔術師はそう締め括った。
そこで俺の意識は広場からだんだん遠ざかって行く。
頭の中で転生鬼人衆の名が繰り返される。
アキレス……ジャンヌ・ダルク……小野小町……歴史上の人物たち?
歴史? どこの? アルタイア王国の?
いや、地球の?
地球ってどこだ?
鐘の音が頭に響く。
これは、そう、学校のチャイムだ。
机、図書館、書籍、ページを捲れば、英雄たちの偉業が記されている……
そうだ、俺は……僕は――!
僕は史遠凛也(しおんりんや)、日本の大学生だった。
そうだ思い出したぞ。俺はかつて、そう、前世は史遠凛也だった。でも今の僕は、アルタイア王国第三王子、アルセル・アルタイアだ。
僕は、俺は……
そこで目が覚めた。
暗い夜の夢だ。
漆黒の空の下、ある一点に妖しい光が見える。青白い光だ。
俺の意識はその一点へと吸い込まれて行った。
どこか見覚えのある巨大な石像を過ぎ、黒々とした森を超え、広い空き地へと出る。
そこに光の正体があった。それは青白い炎だった。これまで見た事がない不気味な炎だ。いくつもの薪が重ねられているのがわかる。
その不気味な炎は空き地の様相を照らし出していた。100人くらいの人間が地面にひれ伏している。彼らの視線は一様にして前方の青白い炎、その下の石の祭壇に向けられていた。
俺の意識はその石の祭壇へと近づいて行った。
そこには9名の若い男女が裸で横たわっていた。彼らの腹には見慣れぬ紋様が描きこまれている。
「諸君……」
青い炎の中から突如、一人の人間が現れた。
黒いローブを羽織っていて、頭にはフードを、顔には銀色らしい仮面を着けている。よく見れば、その仮面の左上だけは仮面になっていない。白い肌が覗いている。ただ、左眼には眼の形をした銀色細工が埋め込まれていた。義眼だ。
義眼の魔術師――
ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
「諸君、時は満ちた」
義眼の魔術師はその場にいる者たちに静かに語りかけた。
「今宵、この世界に9名の鬼人たちを転生させる」
その声は、老人のようでもあり、若い娘、壮年の男のようでもあった。聞いていると底知れぬ不安を感じる声だ。
「我が秘術《鬼界転生(きかいてんしょう)》の贄となる彼らは、永久の名誉を手にする事になろう」
義眼の魔術師は、祭壇に横たわった男女に手を向けた。
その手も顔同様に真っ白だ。
「さぁ、迎え入れよう。我らが英雄たちを」
そう言って祭壇に向き直ると、何やらよくわからない呪文を唱え始めた。それに合わせて他の者たちもブツブツと唱える。
青白い炎がさらに輝きを増す。そして、
「あぁ、あああぁ、あああああああぁ!」
祭壇に横たわる者たちが一斉に身悶え始めた。苦痛に顔を歪め、この世のモノとは思えない絶叫を上げている。
その地獄の様相はしばらく続いた。
変化が起きたのは、またしてもあの青い炎だ。輝きを増し続けていた炎が突然、血のような赤い炎に変わった。
普通の炎とは違う、禍々しき地獄の業火だ。
「ああああああああああっ――」
絶叫を上げ続けていた男女の声がピタッと止んだ。
彼らの方を見ると、その口の中から異様なピンク色の肉塊が這い出して来ていた。
まるでナメクジのようにウネっている。その肉塊が口から這い出す毎に、男女の体は干からびていく。肉塊に血肉を吸い取られているように見える。
やがて肉塊は完全に口の外へと這い出して来た。その大きさは大型犬くらいの大きさだ。肉塊の横には枯れ枝のように干からびてミイラと化した男女の遺体が転がっている。
肉塊は、血のような炎を背にしてその姿を変形し始めた。
体積が増し、手足が生え始める。
いくつかの肉塊は筋肉質な体幹を、別のいくつかは丸みを帯びた体付きに豊かな乳房が形作られて行く。
頭部が生え、口や鼻、目が形成され、髪が生えてくる。
あっという間に9体の肉塊は、9人の男女へと変身した。
彼らは裸身のまま、その場に人形のように立ち尽くしている。
彼らの体は背後の炎に照らされている。その顔形は贄となった男女とは明らかに違っていた。
2メートルを超える大男もいれば、彫刻のような肉体の持ち主もいる。壮年の強面な男や初老らしき男もいた。
美しい2人の娘の内、1人は艶やかな黒髪に真っ白な肌、そしてもう1人は豊かな金色の髪に引き締まった体つきだ。
みな、地獄の業火を背景に堂々とした佇まいだ。
「見よ! ここに9の鬼人たちが転生を果たしたッ!」
義眼の魔術師が鬼人たちを振り仰ぐ。
「スパルタカス! 源為朝!」
次々と名前を呼び鬼人たちを指し示す。
「風魔小太郎! パラケルスス!」
なんだ?
なんで俺は……
「ジャンヌ・ダルク! 小野小町!」
なぜ、俺は彼らの名前に聞き覚えがある?
「宮本武蔵! 項羽! そして――」
今まで聞いた事もない名前のはずなのに……
「アキレス!!」
俺は……俺は、誰だ?
「彼ら転生鬼人衆(てんしょうきじんしゅう)の力をもって積年の恨みを晴らそう! アルタイア王国に血の鉄槌を!」
地面平伏していた者たちが歓声を上げた。転生鬼人衆は気に留めずに佇んでいるだけだ。
俺も気に留めていなかった。それよりも先ほどの義眼の魔術師の言葉が気になる。
アルタイア王国……
そう、
そうだ。
思い出した!
俺は、そのアルタイア王国の第三王子アルセル・アルタイア。
それが俺の名だ。なのに……
なんだ、違和感がある。
なぜ俺は、彼ら転生鬼人衆たちの名に聞き憶えがあるのだ?
実際には会った事はないはず。ただ、知識として彼らを知っていたのだ。
「始めよう、我らが聖戦を、アルタイア王国を滅ぼす為に!」
義眼の魔術師はそう締め括った。
そこで俺の意識は広場からだんだん遠ざかって行く。
頭の中で転生鬼人衆の名が繰り返される。
アキレス……ジャンヌ・ダルク……小野小町……歴史上の人物たち?
歴史? どこの? アルタイア王国の?
いや、地球の?
地球ってどこだ?
鐘の音が頭に響く。
これは、そう、学校のチャイムだ。
机、図書館、書籍、ページを捲れば、英雄たちの偉業が記されている……
そうだ、俺は……僕は――!
僕は史遠凛也(しおんりんや)、日本の大学生だった。
そうだ思い出したぞ。俺はかつて、そう、前世は史遠凛也だった。でも今の僕は、アルタイア王国第三王子、アルセル・アルタイアだ。
僕は、俺は……
そこで目が覚めた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる