英雄殺しの転生王子 王国を守る為に俺は歴史上の英雄たちと戦う

一本坂苺麿

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1章 鬼界転生

5話 放たれた矢

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 俺は手を挙げて合図した。周りの兵士たちが身構える。それぞれ火の精霊を呼び出し、いつでも攻撃できるようにしている。

 ヤツらが何者かはハッキリしないが、決して味方ではないだろう。嫌な予感がする。額に汗が流れ落ちるのを感じた。

「――ア……アァ」

 突然足下で歪な高い声が聞こえてきた。

「ヒイィ! お、王子!」

 近くの兵士たちが一様に仰け反っている。それも当然だろう。俺が先程止めを刺した大ウミヘビが動き出したのだ。顔をコチラに向け、その大きな口が小刻みに動いている。歪な声はこの大ウミヘビから発せられていた。

「アア、アア……あなたが、アルセル第三王子ですね?」

 大ウミヘビはハッキリと言葉を発した。しかも俺を名指ししている。

「お前らは何者だ?」

 と、大ウミヘビではなく、沖の海の方を向いて問うた。

 直観的に、この大ウミヘビを操っているのはアイツらだと確信していた。

「これは失礼しました。我々は転生鬼人衆。冥府よりあなた方に鉄槌を下す為に参りました」

 転生鬼人衆……やはりか。

 俺は夢に観た彼らの姿を思い返した。

「あなた方とは?」

「もちろん、あなたを含めた王族、それに仕える兵士たち並びに民衆。アルタイア王国に属する者全てであります」

 周りの兵士たちがざわつく。大ウミヘビが言葉を発し、さらに自分たちに危害を加えると宣言しているのだ。困惑するのも無理はない。

「この大ウミヘビたちを仕掛けてきたのもお前たちの仕業か?」

「はい」

「ふん、鉄槌を下すと言っていたが、この程度で我が国の痛手となると思っていたのか?」

 すると大ウミヘビは乾いた笑声を上げた。

「滅相もございません。これはほんのお遊び。本日こうしてご挨拶に参る前の余興でございますよ」

「余興だと……」

 こうして向こうからやって来てくれたのはありがたい。できるだけ多くの情報を手に入れなければな。

「話を戻すが、先程お前たちは冥府から来たと言ったな。つまりこの世界に誘う魔術師がいたはずだ。一体誰がそのような愚行を?」

 しばし沈黙が降り、再び大ウミヘビは口を開いた。

「義眼の御方。あなた様もご存知なのでは?」

「なに?」

 その言葉に不穏な気配を察した。どうにも具合が良くない。

「どういう意味だ?」

「精霊にあの御方を追跡させていましたね?」

「――っ」

 ラヴェンナが偵察に来たことに気付いたのか。いや、待て。そうだとして、なぜ主が俺だとわかった?

 答えに窮していると、前方の海からヨロヨロと接近する物体。宙を漂うようにしてコチラに接近してくる。良く目を凝らす。あれは――

「ラヴェンナ!」

 声を上げたのはヒスカだ。その声に反応してリサンドラとウィリデアも姿を現す。

 風の精霊ラヴェンナは、よろめきながら俺の手元に倒れ込んだ。

「マ、マスター……申し訳ございません」

「ラヴェ――!?」

 弱り切ったラヴェンナの姿を見て、驚愕した。

 彼女の腹部には刃物らしきモノで刺された跡がある。これは通常考えられないことだった。この世のモノではない精霊を直接傷つける方法など聞いたこともない。

「リサンドラ、ウェリデア、彼女を精霊界へ!」

「は、はいっ!」

 リサンドラたちはラヴェンナを脇から抱えて、その姿を霧散させた。

 傷ついた精霊の治し方など知らない。それでも精霊界で安静にさせた方が良いと判断した。

「傷ついた身で海を渡る……なんと忠実な僕でありましょうなぁ」

 大ウミヘビが再び口を開いた。

「いいことをお教えしましょう。義眼の御方は精霊に傷を負わせることもできるし、情報を探り出すこともできるのです。ただねぇ、どうしてあなたが――」

「――ヒスカ、第三界だ!」

 再び海水の触手を飛ばす。

 船ごとヤツらを拘束し、全ての情報を聞き出すつもりだった。しかし、触手は船にたどり着く直前に崩壊してしまった。まるで見えない壁にぶち当たってしまったようだ。射程距離は十分にあるはずなのに――

「――ぐうっ!?」

 突然、風を切る鋭い音と共に左肩に衝撃が走った。

 あまりに強大な力の為に、俺の体は5メートル程後方へ吹っ飛ばされ、砂浜に叩きつけられた。

「マスター!!」

「王子!」

 ヒスカと兵士たちが声を上げる。

 激痛が走る左肩を見やれば、そこには通常よりも長く太い矢が突き刺さっていた。あの船に乗る者から弓矢で射られたのだ。俺はこのような矢を使う英雄を知っている。まさか、あの船に乗っているのは――
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