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2章 亜人の国
21話 赤蛇
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2本の小剣、その切っ先を真っ直ぐにスパルタカスに向ける。一方、彼の方は剣を上向きに構えている。
こっちの小剣は突き刺すことに特化しているが、彼のトラキア剣闘士用の反った小剣は斬ることに特化している。
手数はこちらが多いが有利とは言えない。まず、立ち位置の問題だ。スパルタカスが幹側に立っているのに対し、コチラは枝の末端に近い位置なのだ。後退するほど足場が安定しなくなる。
さらに言えば、スパルタカスは間合いの取り方の達人だと言われていた。
円形闘技場の戦いにおいて彼の絶妙な間の取り方は1級剣闘士の中でもずば抜けていたのである。コチラが一撃を加えることもできずに切り裂かれるなんてことも在り得るのだ。
額からジワリと汗が垂れ流れる。
一歩が踏み出せなかった。今攻めれば確実にやられる。どうしてもその考えが拭い去れない。彼の圧力がそう思わせているのだろう。
が、きっかけは突然起こった。
右側の視界が急に明るくなる。アルタイア兵の誰かが火球を打ち上げたのだ。つまり、新たな敵が現れたということだ。
頭上より振り下ろされる閃光。
片方の小剣で受けとめ、もう一方で反撃する。しかし、スパルタカスは肩の装甲で受けとめる。そしてなんと、股間目掛けて膝を突き出してきた。
「うわっぷ!」
寸でのところで後退する。着地した際にバランスを崩してしまった。スパルタカスがその隙を逃さずに迫る。
俺は横ざまに飛び降りた。
下の枝にしがみつき、這い上がると、間髪入れず幹に向けて疾走した。上の枝を見ればスパルタカスも並走している。
そして俺たちは、幹の螺旋階段で再び相対した。
上にスパルタカス、下に俺。状況は先程までとは異なるが、不利なのは変わらない。この男は常に有利な位置取りをしてくる。
結構ヤバいな……
スパルタカスが剣撃を放つ。
剣で受けとめたが、その衝撃で手元を離れてしまった。下へと落ちて行く小剣。それを意識した一瞬の隙をスパルタカスは逃さなかった。二撃目を繰り出し、俺の胸から脇腹にかけて切り裂く。
「ぐっ!」
その場に倒れこむ。
上体を辛うじて逸らしたため、出血の割に傷はそう深くないようだ。
しかし、完全に俺の負けだ。こうなっては反撃する隙もない。
階段に倒れこんだ俺の胸元で何かがモゾモゾと動いている。
見下ろせば、ソイツもこっちに鎌首を向けていた。
それは蛇だった。白かったはずの鱗が俺の血によって赤く染まっている。突然俺が覆い被さって来たので怒っているのかもしれない。
背後に気配を感じた。
見上げればスパルタカスが目の前に立っている。
何を考えているのかよくわからない目で俺の事を見下ろしていた。
彼はゆっくりとした動作で剣を振り上げる。もう何百と同じ動きをしてきたようで、その動作はあまりにも無感動なモノであった。
俺はスパルタカスから目を逸らさなかった。最後まで敵の顔を睨み付ける。それが俺にできる最後の抵抗だ。
ところが、俺を襲ったのは彼の剣ではなく蛇だった。それが俺の頭に巻き付いてきたのだ。
「――!?」
スパルタカスの瞳に初めて驚愕の色が浮かぶ。その視線は赤き蛇に注がれている。
俺はその隙を逃さなかった。
腰を落として階段を蹴り上げる。
スパルタカスは既に持ち直していた。迫りくる俺に剣を振るう。だが、俺も怯まない。剣を受ける覚悟で彼にタックルした。
螺旋階段から足が離れ、宙に投げ出される。物理法則に従って俺たちは落ちて行った。
こっちの小剣は突き刺すことに特化しているが、彼のトラキア剣闘士用の反った小剣は斬ることに特化している。
手数はこちらが多いが有利とは言えない。まず、立ち位置の問題だ。スパルタカスが幹側に立っているのに対し、コチラは枝の末端に近い位置なのだ。後退するほど足場が安定しなくなる。
さらに言えば、スパルタカスは間合いの取り方の達人だと言われていた。
円形闘技場の戦いにおいて彼の絶妙な間の取り方は1級剣闘士の中でもずば抜けていたのである。コチラが一撃を加えることもできずに切り裂かれるなんてことも在り得るのだ。
額からジワリと汗が垂れ流れる。
一歩が踏み出せなかった。今攻めれば確実にやられる。どうしてもその考えが拭い去れない。彼の圧力がそう思わせているのだろう。
が、きっかけは突然起こった。
右側の視界が急に明るくなる。アルタイア兵の誰かが火球を打ち上げたのだ。つまり、新たな敵が現れたということだ。
頭上より振り下ろされる閃光。
片方の小剣で受けとめ、もう一方で反撃する。しかし、スパルタカスは肩の装甲で受けとめる。そしてなんと、股間目掛けて膝を突き出してきた。
「うわっぷ!」
寸でのところで後退する。着地した際にバランスを崩してしまった。スパルタカスがその隙を逃さずに迫る。
俺は横ざまに飛び降りた。
下の枝にしがみつき、這い上がると、間髪入れず幹に向けて疾走した。上の枝を見ればスパルタカスも並走している。
そして俺たちは、幹の螺旋階段で再び相対した。
上にスパルタカス、下に俺。状況は先程までとは異なるが、不利なのは変わらない。この男は常に有利な位置取りをしてくる。
結構ヤバいな……
スパルタカスが剣撃を放つ。
剣で受けとめたが、その衝撃で手元を離れてしまった。下へと落ちて行く小剣。それを意識した一瞬の隙をスパルタカスは逃さなかった。二撃目を繰り出し、俺の胸から脇腹にかけて切り裂く。
「ぐっ!」
その場に倒れこむ。
上体を辛うじて逸らしたため、出血の割に傷はそう深くないようだ。
しかし、完全に俺の負けだ。こうなっては反撃する隙もない。
階段に倒れこんだ俺の胸元で何かがモゾモゾと動いている。
見下ろせば、ソイツもこっちに鎌首を向けていた。
それは蛇だった。白かったはずの鱗が俺の血によって赤く染まっている。突然俺が覆い被さって来たので怒っているのかもしれない。
背後に気配を感じた。
見上げればスパルタカスが目の前に立っている。
何を考えているのかよくわからない目で俺の事を見下ろしていた。
彼はゆっくりとした動作で剣を振り上げる。もう何百と同じ動きをしてきたようで、その動作はあまりにも無感動なモノであった。
俺はスパルタカスから目を逸らさなかった。最後まで敵の顔を睨み付ける。それが俺にできる最後の抵抗だ。
ところが、俺を襲ったのは彼の剣ではなく蛇だった。それが俺の頭に巻き付いてきたのだ。
「――!?」
スパルタカスの瞳に初めて驚愕の色が浮かぶ。その視線は赤き蛇に注がれている。
俺はその隙を逃さなかった。
腰を落として階段を蹴り上げる。
スパルタカスは既に持ち直していた。迫りくる俺に剣を振るう。だが、俺も怯まない。剣を受ける覚悟で彼にタックルした。
螺旋階段から足が離れ、宙に投げ出される。物理法則に従って俺たちは落ちて行った。
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