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65話 封印
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僕の身体から放たれた赤き波動とイースの金色の波動がぶつかり合い、お互いに打ち消し合う。
僕の身体はボロボロだったはずが、今は骨も繋がり、痛みもない。すんなりと立ち上がることができた。
「そんなまさか……ありえない!!」
イースは金色の波動を放ち続けながらも、驚愕の表情を浮かべながら後退りする。
僕の放つ赤き波動に当てられても、他の者たちは平気なようだった。いや、それどころかーー
「な、なんだぁ! 傷が治ってやがる!?」
「何だか、心地いいわ」
亜人王やクイーナが驚きの声を上げる。さらにその後方で、
「イルヴァーナ様!?」
魔術師の驚きの声。見ると、まともに立てない状態であったはずのイルヴァーナが平然と立っていた。彼女自身も驚いている様子だ。
「これがお前が賢者の石に望んだ力だ」
黒猫が僕を見上げながら優しい声音で言う。
「賢者の石がもたらす力はその使用者によって違う。財を望む者には金を、力を求める者には圧倒的武力を授ける。そしてお前が望んだ力はーー」
黒猫は周囲を見回す。
「癒やしの力だな」
癒やしの力。
誰も傷つけさせないと望んだ僕に賢者の石が授けた力。
「終わらせてこい」
黒猫はまっすぐイースを見つめながら言う。
「アイトさん……」
ミニナナさんが心配そうに僕を見上げている。そんな彼女の頭を撫でながら僕はイースの方に歩み寄って行った。
それは、最終決戦にしては穏やかで静かなモノだった。
死の波動を放ち続けるイースに、癒やしの波動で打ち消しながら僕は近づいて行く。
「く、来るな!」
イースは恐怖に顔を引き攣らせながら殴りかかってきた。
しかし、彼の拳は僕に届くことはなく崩壊していく。
「うあああああああああッ!!!!」
イースは崩れ去った腕を見ながら絶叫する。
彼の身体は死をもたらす事に特化している。僕の赤き波動と対になっている為に崩壊した。あるいは、究極の生物に進化した肉体に、さらに賢者の石から力が流れ込んだことによって生物としての限界を超え、耐えられなくなったのかもしれない。
「い、嫌だ! 死にたくない!!」
イースはさらに金色の死の波動を放ってくる。
そんな彼の胸に僕は優しく手を当てた。
その瞬間、イースがまだ人間だった時の記憶が流れ込んでくる。
彼はアナフィリアの王子だったが、生まれつき身体が病弱だった。
まともに外にもでることができなかった。
そんな彼を臣下や国民たち、それに家族である王族たちでさえも嘲笑った。
イースはそんな周囲から逃れる為に魔術を独学で学んだ。全ては健康な肉体を手に入れる為に。
そしてそれは、彼が魔神に覚醒することによって果たされた。
それでも彼は満足しなかった。究極の肉体。魔神王の身体を手に入れる。そうすれば未来永劫彼を嘲笑う者はいなくなる。
過去の辛い経験が、彼の原動力だった。
「私は……私は!」
「……イース」
苦悶の表情を浮かべている彼に僕は語りかける。
「もういいんだ。君を嘲笑う者はいないよ。過去に囚われる必要はないんだ。だからーー」
僕はより大きな赤き波動を放った。
「もうおやすみ」
イースは真紅の眼から一筋の涙を流し、その身体は粉々に朽ちていった。
魔神王イースの、そして悲しき王子の亡霊の最期だった。
◆
「終わった、のか?」
亜人王が呟くように言い、そして次には喜びの雄叫びを上げた。
他の者たちも安堵の表情を浮かべ、お互いの無事を喜んでいる。
ただ、黒猫とミニナナさんだけはまだ張り詰めた表情をしている。
「アイト……」
黒猫が何か言おうとするが、僕はそれを遮った。
「待ってくれ。あと1つやっておきたいことがある」
僕はデーモン・ディメンションを開いた。
そして3つの骨董品を取り出す。
「アイトくん、それは?」
イルヴァーナが問い掛けてくる。
「ナナさんたちが封印されている器です」
僕はそれぞれに赤き波動を流し込んだ。
器にヒビが入り、それらは粉々に砕け散った。
そしてそれぞれから、ナナさん、シシー、ミミが姿を現した。
何だか久しぶりに彼女たちの姿を見たような気がする。
僕はナナさんの顔を見れて、ホッとした。しかし、彼女は浮かない顔で僕のことを見ている。もしかして気づいているのだろうか?
「シシー!!」
イルヴァーナがシシーに抱きついた。
「ちょっと、イルヴァーナ! 恥ずかしいからおやめなさいな!」
シシーは口ではそう言うが、その表情は喜びに満ちている。だが、僕の視線に気づいた彼女は一転して悲しげに頷いた。
「おうおう! これで今度こそ終わりだな!」
亜人王は陽気にそう宣言した。
そう、これで終わりなら良かった。だけど、そうではないことを僕は知っている。黒猫も、そして魔神の彼女たちも。
「た、大変です!」
外から魔術師たちが慌てて駆け込んできた。
「オーロラが消え去りません! それどころかさらに増大しています! このままでは隣国まで拡大してしまいます!!」
亜人王たちはポカンとした後、困惑の声を上げた。
「はぁ、どういうことだよ!?」
「魔神王はもう倒したじゃない!」
「いや、魔神王はまだ存在している……」
黒猫は静かに言った。
しかし、亜人王たちはますます混乱している。
「何言っているんだよお前!」
「どこにいるって言うの?」
黒猫は僕の方に視線を向ける。
「さっき新たに誕生した」
イルヴァーナは呆然と僕に視線を向ける。
「それってまさか……」
「あぁ」
黒猫は頷く。
「アイトは、魔神王になったんだ」
周囲が静寂に包まれる。
そしてそれを破ったのは亜人王だ。
「おいお前!! それを知っててコイツにやらせたのか!?」
彼は黒猫を掴み上げた。
「あぁ、その可能性はあると予想はしていた。アイトが賢者の石を正しく使ったとしても、魔神王は魔神王だ。世界への影響はイースとは変わらない」
黒猫は辛そうにそう言った。
「アイトは知ってたの?」
クイーナの問い掛けに僕は頷いた。
ミミのデーモン・ディメンションで、黒猫が話してくれたのはこのことだった。
「おいおい! 結局魔神王が残っているんなら、この世界は崩壊するんだろうが! 俺たちがやってきたことは何だったんだよ!?」
確かに亜人王の言う通り、魔神王が残っているのだから状況は変わらない。だけど僕は、イースとは異なる選択をできる。
「この状況を打開する方法はあります」
自分でも驚く程冷静に喋ることができた。
「僕が、僕自身を封印します」
視線を黒猫に向ける。
「それでいいんだよね?」
黒猫はコクリと頷いた。
「1つお願いがあります。みなさんには魔力がこの国に溜まり続けない方法を考えてください。そうすれば僕は復活することはありません」
みな愕然としており、話を飲み込めているのかわからない。
だけど、もうあまり時間もないだろう。後のことは黒猫に任せないと。
僕はまだ一言も言葉を発していないナナさんに向き直った。
彼女は悲しげな表情を浮かべている。
「アイトさん……どうしてですか?」
彼女は静かに問い掛けてきた。
「アイトさんは自由になりたいと望んでいたのに。どうして? 自ら呪縛の道を選ぶの?」
彼女の言葉を僕は首を振って否定した。
「違うよナナさん。僕の望みはもう既に君が叶えてくれたんだよ。僕は君に出会うまでずっと死んでた。でも、君と初めて出会った日に、僕は生き返った。人生って楽しいんだなって思うことができた。それは、すごく大変な目に遭ったりもしたけれど、僕にとって君との旅はかけがえのない宝物だよ」
僕はそこで言葉を切った。
彼女の金色の瞳を、綺麗な銀色の髪を見つめる。
「今度はナナさんの望みを叶えたいんだ。天使の呪縛も、魔神の呪縛ももうない。君は本当の自由を手に入れたんだよ」
「……わらわの……私の望みを勝手に決めないで!!」
ナナさんが僕に向かって初めて強い口調を使った。それは新鮮な驚きだった。まだまだ僕は彼女のことを知らないんだなと思う。
でも、もう時間がない。
「さようなら、ナナさん」
僕は自分の体内に赤き波動を何度も巡らせた。過剰なエネルギーを供給し、自己の身体を衰弱させる。
薄れゆく意識の中、僕は最期まで彼女の顔を見続けた。
その顔は、結局最後まで悲しみを湛えていた。
僕の身体はボロボロだったはずが、今は骨も繋がり、痛みもない。すんなりと立ち上がることができた。
「そんなまさか……ありえない!!」
イースは金色の波動を放ち続けながらも、驚愕の表情を浮かべながら後退りする。
僕の放つ赤き波動に当てられても、他の者たちは平気なようだった。いや、それどころかーー
「な、なんだぁ! 傷が治ってやがる!?」
「何だか、心地いいわ」
亜人王やクイーナが驚きの声を上げる。さらにその後方で、
「イルヴァーナ様!?」
魔術師の驚きの声。見ると、まともに立てない状態であったはずのイルヴァーナが平然と立っていた。彼女自身も驚いている様子だ。
「これがお前が賢者の石に望んだ力だ」
黒猫が僕を見上げながら優しい声音で言う。
「賢者の石がもたらす力はその使用者によって違う。財を望む者には金を、力を求める者には圧倒的武力を授ける。そしてお前が望んだ力はーー」
黒猫は周囲を見回す。
「癒やしの力だな」
癒やしの力。
誰も傷つけさせないと望んだ僕に賢者の石が授けた力。
「終わらせてこい」
黒猫はまっすぐイースを見つめながら言う。
「アイトさん……」
ミニナナさんが心配そうに僕を見上げている。そんな彼女の頭を撫でながら僕はイースの方に歩み寄って行った。
それは、最終決戦にしては穏やかで静かなモノだった。
死の波動を放ち続けるイースに、癒やしの波動で打ち消しながら僕は近づいて行く。
「く、来るな!」
イースは恐怖に顔を引き攣らせながら殴りかかってきた。
しかし、彼の拳は僕に届くことはなく崩壊していく。
「うあああああああああッ!!!!」
イースは崩れ去った腕を見ながら絶叫する。
彼の身体は死をもたらす事に特化している。僕の赤き波動と対になっている為に崩壊した。あるいは、究極の生物に進化した肉体に、さらに賢者の石から力が流れ込んだことによって生物としての限界を超え、耐えられなくなったのかもしれない。
「い、嫌だ! 死にたくない!!」
イースはさらに金色の死の波動を放ってくる。
そんな彼の胸に僕は優しく手を当てた。
その瞬間、イースがまだ人間だった時の記憶が流れ込んでくる。
彼はアナフィリアの王子だったが、生まれつき身体が病弱だった。
まともに外にもでることができなかった。
そんな彼を臣下や国民たち、それに家族である王族たちでさえも嘲笑った。
イースはそんな周囲から逃れる為に魔術を独学で学んだ。全ては健康な肉体を手に入れる為に。
そしてそれは、彼が魔神に覚醒することによって果たされた。
それでも彼は満足しなかった。究極の肉体。魔神王の身体を手に入れる。そうすれば未来永劫彼を嘲笑う者はいなくなる。
過去の辛い経験が、彼の原動力だった。
「私は……私は!」
「……イース」
苦悶の表情を浮かべている彼に僕は語りかける。
「もういいんだ。君を嘲笑う者はいないよ。過去に囚われる必要はないんだ。だからーー」
僕はより大きな赤き波動を放った。
「もうおやすみ」
イースは真紅の眼から一筋の涙を流し、その身体は粉々に朽ちていった。
魔神王イースの、そして悲しき王子の亡霊の最期だった。
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「終わった、のか?」
亜人王が呟くように言い、そして次には喜びの雄叫びを上げた。
他の者たちも安堵の表情を浮かべ、お互いの無事を喜んでいる。
ただ、黒猫とミニナナさんだけはまだ張り詰めた表情をしている。
「アイト……」
黒猫が何か言おうとするが、僕はそれを遮った。
「待ってくれ。あと1つやっておきたいことがある」
僕はデーモン・ディメンションを開いた。
そして3つの骨董品を取り出す。
「アイトくん、それは?」
イルヴァーナが問い掛けてくる。
「ナナさんたちが封印されている器です」
僕はそれぞれに赤き波動を流し込んだ。
器にヒビが入り、それらは粉々に砕け散った。
そしてそれぞれから、ナナさん、シシー、ミミが姿を現した。
何だか久しぶりに彼女たちの姿を見たような気がする。
僕はナナさんの顔を見れて、ホッとした。しかし、彼女は浮かない顔で僕のことを見ている。もしかして気づいているのだろうか?
「シシー!!」
イルヴァーナがシシーに抱きついた。
「ちょっと、イルヴァーナ! 恥ずかしいからおやめなさいな!」
シシーは口ではそう言うが、その表情は喜びに満ちている。だが、僕の視線に気づいた彼女は一転して悲しげに頷いた。
「おうおう! これで今度こそ終わりだな!」
亜人王は陽気にそう宣言した。
そう、これで終わりなら良かった。だけど、そうではないことを僕は知っている。黒猫も、そして魔神の彼女たちも。
「た、大変です!」
外から魔術師たちが慌てて駆け込んできた。
「オーロラが消え去りません! それどころかさらに増大しています! このままでは隣国まで拡大してしまいます!!」
亜人王たちはポカンとした後、困惑の声を上げた。
「はぁ、どういうことだよ!?」
「魔神王はもう倒したじゃない!」
「いや、魔神王はまだ存在している……」
黒猫は静かに言った。
しかし、亜人王たちはますます混乱している。
「何言っているんだよお前!」
「どこにいるって言うの?」
黒猫は僕の方に視線を向ける。
「さっき新たに誕生した」
イルヴァーナは呆然と僕に視線を向ける。
「それってまさか……」
「あぁ」
黒猫は頷く。
「アイトは、魔神王になったんだ」
周囲が静寂に包まれる。
そしてそれを破ったのは亜人王だ。
「おいお前!! それを知っててコイツにやらせたのか!?」
彼は黒猫を掴み上げた。
「あぁ、その可能性はあると予想はしていた。アイトが賢者の石を正しく使ったとしても、魔神王は魔神王だ。世界への影響はイースとは変わらない」
黒猫は辛そうにそう言った。
「アイトは知ってたの?」
クイーナの問い掛けに僕は頷いた。
ミミのデーモン・ディメンションで、黒猫が話してくれたのはこのことだった。
「おいおい! 結局魔神王が残っているんなら、この世界は崩壊するんだろうが! 俺たちがやってきたことは何だったんだよ!?」
確かに亜人王の言う通り、魔神王が残っているのだから状況は変わらない。だけど僕は、イースとは異なる選択をできる。
「この状況を打開する方法はあります」
自分でも驚く程冷静に喋ることができた。
「僕が、僕自身を封印します」
視線を黒猫に向ける。
「それでいいんだよね?」
黒猫はコクリと頷いた。
「1つお願いがあります。みなさんには魔力がこの国に溜まり続けない方法を考えてください。そうすれば僕は復活することはありません」
みな愕然としており、話を飲み込めているのかわからない。
だけど、もうあまり時間もないだろう。後のことは黒猫に任せないと。
僕はまだ一言も言葉を発していないナナさんに向き直った。
彼女は悲しげな表情を浮かべている。
「アイトさん……どうしてですか?」
彼女は静かに問い掛けてきた。
「アイトさんは自由になりたいと望んでいたのに。どうして? 自ら呪縛の道を選ぶの?」
彼女の言葉を僕は首を振って否定した。
「違うよナナさん。僕の望みはもう既に君が叶えてくれたんだよ。僕は君に出会うまでずっと死んでた。でも、君と初めて出会った日に、僕は生き返った。人生って楽しいんだなって思うことができた。それは、すごく大変な目に遭ったりもしたけれど、僕にとって君との旅はかけがえのない宝物だよ」
僕はそこで言葉を切った。
彼女の金色の瞳を、綺麗な銀色の髪を見つめる。
「今度はナナさんの望みを叶えたいんだ。天使の呪縛も、魔神の呪縛ももうない。君は本当の自由を手に入れたんだよ」
「……わらわの……私の望みを勝手に決めないで!!」
ナナさんが僕に向かって初めて強い口調を使った。それは新鮮な驚きだった。まだまだ僕は彼女のことを知らないんだなと思う。
でも、もう時間がない。
「さようなら、ナナさん」
僕は自分の体内に赤き波動を何度も巡らせた。過剰なエネルギーを供給し、自己の身体を衰弱させる。
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その顔は、結局最後まで悲しみを湛えていた。
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