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席替え
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「純平君って好きな人いるの?」
真実を知っておかなければ、前には進めない。勇気を出して朝読書の後、純平に聞いてみた。
「ん?…いるよ。」
ドキリとした。体の中心が針で刺され、それが全身に広がっていくような痛み。
「…だれ?」
「…。」
純平はにこにこと笑顔でいるばかりで、教えてはくれなかった。どうやって知ろう。いや、知ってもいいものだろうか。知っても傷つくんじゃないだろうか。わたしの知っている純平は一途なはずだから、仮にわたしを好きでなかったらなかなか好きな人は変わらないだろう。できれば、わたしを好きでいてほしい…。涙がでそうなほど切実に願った。
それは突然だった。
「先生、席替えしよー。」
誰かが言った。ああ、終わりだ、と思った。いやだと言いたかった。今日一日中、といっても朝の数十分いつそのワードが飛び出るか、びくびくしながら過ごしていたが、こんなに早かったとは。純平、さようなら。運が良ければまた隣になれるね。
「うーん、そうだね。早めにしておこうか。」
先生がゴーを出すと、教室が湧きあがった。そして、いざ席替えのためのくじ引きが始まった。
わたしは気がせっていた。六列に並んだ席は、隣の人と席を合わせるので実質三列だ。わたしの席は、中央の前から二番目。純平の席は…斜め前だった。隣の席にはならなかったが、幸運なことに班は一緒になることができた。もう少しで隣になれたのに。体が前へ前へといくのがわかる。だが、三十人近くいて純平に近い席を勝ち取ることができた。これも天の定めなのだろうか。純平が聞いたら嫌がりそうな言葉が、ここにきてからどんどんあふれてきている。わたしの前の席は志織だったので、安心した。
「志織ちゃん、近くになれたね。」
嬉しそうに言うと、
「あ、ほんとだ。琴音ちゃんが後ろにいるー。」
とマイペースに笑った。
わたしの昔の性格では、到底純平のような好きな人、もとい男子とまともにしゃべられなかった。今回のタイムスリップでは、作戦を少し練らなければならないかもしれない。
「よろしく。」
わたしの隣の男子が言う。谷川君だ。谷川君は、頭がいいけれどその真面目そうな雰囲気に似合わずやんちゃな男の子だった。
「よろしく。」
わたしが返すと、何事もなかったかのように机の中から練り消しを取り出して遊び始めた。
算数、国語、理科、社会と授業が終わり、あっという間に給食の時間になった。たしか、机を向かい合わせにして給食を食べるんだったな。そうなると、隣の席の谷川君と向かい合わせになる形になる。志織とは今度は隣同士になる。わたしはこの形にするのがきらいだった。なにかをしゃべらなければならない、そんな強迫観念に襲われる気がしたからだ。そうじゃないと気まずい空気が流れてしまう。その時間が苦痛だった。でも、今のわたしなら何か喋れそうな気がする。だって、みんなよりも年を重ねて大人になったのだから。
「手を合わせましょう。美味しい給食。」
係の人が号令をかける。
「いただきます。」
号令の時はシーンとしていた教室が、急に騒がしくなった。食器のカチャカチャいう音、椅子を引く音、みんなのしゃべる声。それらを聞きながら、わたしは思ったよりも落ち着いていた。
―今ならしゃべれる。
自信があった。隣には志織がいてくれる。純平をみると、牛乳パックを開け、いち早く牛乳を飲もうとしていた。すると、谷川君が笑わせようと、純平の前で変顔をし始めた。さすがやんちゃな男の子だ。
「ぶぶぶっ。」
純平がどこから出したのかという音をあげて、谷川君を制止する。
「もーう、やめてよ。今飲んでるところ!」
笑いながらまた牛乳を飲もうとするので、谷川君も懲りずにまた笑わせにかかった。それをみて子どもだなー、と思った。志織と顔を見合わせて笑う。これぞ小学生という感じだな、と懐かしかった。純平も変わらず小学生をしていたんだな。
「そういえばもうすぐ山の学校だけど、この班で行くのかな。」
純平が言う。そうか、山の学校の季節か。もしそうだとうれしい。
「せんせーい、山の学校ってこの班?」
谷川君が聞く。パンを頬張っていた先生は、口の中のパンをゴクンと飲み干し、少ししてから答える。
「うん。この班でいくつもり。」
その瞬間の純平の反応が気になった。嫌な顔をするだろうか、それともなんとも思わないのだろうか。わたしと同じ気持ちでいてくれているのだろうか。彼の顔を盗み見ると、特になんの感情もない表情をしていた。
―喜んでくれたらいいのに。
今も変わらず純平の言動に一喜一憂する自分に少し苛立ちを覚えて、まだ少し暖かさの残ったシチューを口に運んだ。
真実を知っておかなければ、前には進めない。勇気を出して朝読書の後、純平に聞いてみた。
「ん?…いるよ。」
ドキリとした。体の中心が針で刺され、それが全身に広がっていくような痛み。
「…だれ?」
「…。」
純平はにこにこと笑顔でいるばかりで、教えてはくれなかった。どうやって知ろう。いや、知ってもいいものだろうか。知っても傷つくんじゃないだろうか。わたしの知っている純平は一途なはずだから、仮にわたしを好きでなかったらなかなか好きな人は変わらないだろう。できれば、わたしを好きでいてほしい…。涙がでそうなほど切実に願った。
それは突然だった。
「先生、席替えしよー。」
誰かが言った。ああ、終わりだ、と思った。いやだと言いたかった。今日一日中、といっても朝の数十分いつそのワードが飛び出るか、びくびくしながら過ごしていたが、こんなに早かったとは。純平、さようなら。運が良ければまた隣になれるね。
「うーん、そうだね。早めにしておこうか。」
先生がゴーを出すと、教室が湧きあがった。そして、いざ席替えのためのくじ引きが始まった。
わたしは気がせっていた。六列に並んだ席は、隣の人と席を合わせるので実質三列だ。わたしの席は、中央の前から二番目。純平の席は…斜め前だった。隣の席にはならなかったが、幸運なことに班は一緒になることができた。もう少しで隣になれたのに。体が前へ前へといくのがわかる。だが、三十人近くいて純平に近い席を勝ち取ることができた。これも天の定めなのだろうか。純平が聞いたら嫌がりそうな言葉が、ここにきてからどんどんあふれてきている。わたしの前の席は志織だったので、安心した。
「志織ちゃん、近くになれたね。」
嬉しそうに言うと、
「あ、ほんとだ。琴音ちゃんが後ろにいるー。」
とマイペースに笑った。
わたしの昔の性格では、到底純平のような好きな人、もとい男子とまともにしゃべられなかった。今回のタイムスリップでは、作戦を少し練らなければならないかもしれない。
「よろしく。」
わたしの隣の男子が言う。谷川君だ。谷川君は、頭がいいけれどその真面目そうな雰囲気に似合わずやんちゃな男の子だった。
「よろしく。」
わたしが返すと、何事もなかったかのように机の中から練り消しを取り出して遊び始めた。
算数、国語、理科、社会と授業が終わり、あっという間に給食の時間になった。たしか、机を向かい合わせにして給食を食べるんだったな。そうなると、隣の席の谷川君と向かい合わせになる形になる。志織とは今度は隣同士になる。わたしはこの形にするのがきらいだった。なにかをしゃべらなければならない、そんな強迫観念に襲われる気がしたからだ。そうじゃないと気まずい空気が流れてしまう。その時間が苦痛だった。でも、今のわたしなら何か喋れそうな気がする。だって、みんなよりも年を重ねて大人になったのだから。
「手を合わせましょう。美味しい給食。」
係の人が号令をかける。
「いただきます。」
号令の時はシーンとしていた教室が、急に騒がしくなった。食器のカチャカチャいう音、椅子を引く音、みんなのしゃべる声。それらを聞きながら、わたしは思ったよりも落ち着いていた。
―今ならしゃべれる。
自信があった。隣には志織がいてくれる。純平をみると、牛乳パックを開け、いち早く牛乳を飲もうとしていた。すると、谷川君が笑わせようと、純平の前で変顔をし始めた。さすがやんちゃな男の子だ。
「ぶぶぶっ。」
純平がどこから出したのかという音をあげて、谷川君を制止する。
「もーう、やめてよ。今飲んでるところ!」
笑いながらまた牛乳を飲もうとするので、谷川君も懲りずにまた笑わせにかかった。それをみて子どもだなー、と思った。志織と顔を見合わせて笑う。これぞ小学生という感じだな、と懐かしかった。純平も変わらず小学生をしていたんだな。
「そういえばもうすぐ山の学校だけど、この班で行くのかな。」
純平が言う。そうか、山の学校の季節か。もしそうだとうれしい。
「せんせーい、山の学校ってこの班?」
谷川君が聞く。パンを頬張っていた先生は、口の中のパンをゴクンと飲み干し、少ししてから答える。
「うん。この班でいくつもり。」
その瞬間の純平の反応が気になった。嫌な顔をするだろうか、それともなんとも思わないのだろうか。わたしと同じ気持ちでいてくれているのだろうか。彼の顔を盗み見ると、特になんの感情もない表情をしていた。
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