Second World

松竹梅

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第一章 ヒノモト珍道中

依頼斡旋所

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 NPC傭兵として現世を冒険するために現世に降りたコンゴウとサクラは、天道火山を無事に下山して最寄りの街に向かって歩き出した。しかし、下山、と言うには少々語弊がある。と言うのも、彼らはサクラが管理する『勝敗の亜神』の『本神殿』に降りたからだ。『神界』と現世を行き来できるのは己が管理する『本神殿』か、行き来する許可をくれた『神』の『本神殿』のみ。『神界』から出入りする時に都合がいいからこそ、コンゴウはサクラの『本神殿』を山の麓に設置させたのである。

 「ええと、ここから一番近いのは…」
 「駿河の街です。コンゴウ様の『試練』を受けるために訪れる者が多いので、都ほどではありませんが賑わう良い街ですよ。」

 サクラはコンゴウの疑問に即座に答える。やはり旅をするにあたって現地の地理をよく知っている同行者がいることは心強い。二人は迷うことなく駿河の街を目指して歩を進める。天道火山から駿河の街までは大人の足で約五時間の距離。休憩を幾度か挟んでも半日かからずに着く距離だ。駿河の街の位置は日本で言うところの静岡県の富士市辺りである。地球をモデルにしているなら浜松市や静岡市にありそうなものだが、コンゴウの『本神殿』に近いこちらに出来たらしい。何となく申し訳ない気持ちになるコンゴウであった。
 調べたところ、『ガイア』には小規模の農村はほとんど存在しないらしい。人々が暮らすのはそれぞれの国の首都か、中規模の地方都市はばかりだと言う。それ故にどの都市も周囲に田畑が広がっており、農夫は畑仕事を終えると街にある家へと帰るのだ。それでは野生の獣や夜盗などに畑を荒らされそうなのものだが、そんなことをすれば『豊穣の神』の『天罰』が下るらしい。この世のありとあらゆる実りを祝福する『豊穣の神』は『闘争の神』と同じく最上位の『神』であり、その『天罰』は死よりも辛い呪いを受ける事になる。『ガイア』における『神』とは、目に見える形で恩恵を齎すのと同時に物理的な罰を下す存在でもあるのだ。






 サクラと二人で他愛もない話をしながら歩くのはとても楽しい時間であった。駿河の街の名物や見物に足る名所など、百年前と変わらずある物もあれば新しく出来た物もある。そういう変化を眼で見て肌で感じたいからこそ現世に降りたコンゴウにとって、サクラの話は非常に心躍る内容であったのだ。

 「…サクラ、気づいてるよね?」
 「もちろんですわ。」
 「「「ぎゃははははははははははは!」」」

 二人の旅は順調だったが、何も起きなかった訳ではない。『本神殿』と駿河の街の丁度中間地点に差し掛かった頃、二人の前に立ちはだかる妖怪が居た。ゲラゲラと下品な笑いを浮かべるそれの名は『笑い地蔵』。三体で徒党を組んだそれらは二人の目の前で巨大な『一つ目入道』に変化すると同時に襲い掛かって来た。『一つ目入道』は『一つ目小僧』の成長した妖怪で、巨体による暴力と数種類の妖術を使うそこそこ強い相手だ。しかし、『笑い地蔵』の面倒なところは『一つ目入道』と同等の能力を振るいつつも本体である地蔵を破壊しない限り暴れ続ける点だ。倒し方を知らなければ不死身かと勘違いするに違いない。

 「邪魔です。」

 しかし、相手が悪すぎる。コンゴウは知識として弱点を知っていたし、サクラに至っては駿河の街から天道火山への道すがらに幾度も狩ったことがあったのだ。断末魔の声を上げることすら許さず、サクラは一刀の下に三体の『笑い地蔵』を斬り捨てた。まあまあ良い程度の刀を使っているにもかかわらず、地蔵の切断された面がくっつければ繋がりそうなほどつるりとしているのは流石の腕前と言うべきだろう。

 「神殿から離れたところはより強力な魔獣や妖怪が出るんだっけ。」
 「そうです。『神殿』の存在しなかった百年前を考えるだけでゾッとしますね。」

 『神殿』の気配を嫌う魔物は出来る限り距離を取ろうとする。しかし『神殿』の気配が完全になくなる心地いい場所は限られており、そこは当然のように強い魔物がを縄張りとする。そのせいで自ずと街から近いほど魔物は弱く、離れるほど魔物は強くなる傾向があるのだ。つまり、今二人が歩いている地域がこの旅路で最も危険な場所なのである。故に『笑い地蔵』はこの辺りでは単なる雑魚に過ぎない。集団で現れたことからもそれは明白だろう。

 「それにしてもいい太刀筋だったね。」
 「ありがとうございます!」

 二人は暢気に惚気ているが、それは二人の圧倒的な実力のおかげだ。本来、『笑い地蔵』一体でも今の冒険者では誰も歯が立たない超がつく強敵だ。そんな相手を纏めて一撃で倒せるからこそ、サクラは『亜神』として選ばれたのだ。

 「次が来ますわ。コンゴウ様、お下がり下さいませ。」
 「いや、次は僕の番だよ。少しはかっこいい所を見せないとね。」

 間髪入れずに現れたのは、『石妖』と呼ばれる女の妖怪だ。真っ白の着物を着た美女だが、その顔は作り物めいていて気味が悪い。触れた物を石化させ、さらに石化させたものを使役する異能を持つ凶悪な妖怪だ。実際に『石妖』は石化した熊や猪、『一つ目小僧』などの妖怪まで従えている。

 「ガオオオオオオオ!」
 「キシャアアアアア!」

 怒涛の如く襲い掛かる石像の群れを前にして、コンゴウは余裕を崩さない。この程度の相手はまるで話にならないからだ。彼は無言で背中の弓を構えると、無属性魔法で生み出した魔法の矢をはっしと射る。魔力によって造られた無色の矢は、『石妖』の眉間を貫いた。
 『石妖』はその顔に驚愕の表情を浮かべたまま倒れ伏した。即死である。それと同時に使役されていた石像たちも崩れ落ち、砂になってしまう。この辺りでは非常に強い妖怪である『石妖』だが、対処方法を知っている者を相手にしたことのない個体だったらしい。

 「お見事です!」
 「大げさだよ。サクラだって出来るだろう?それより、先を急ごう。今日中に駿河の街に入りたいからね。」
 「そうですね。行きましょう。」






 それから二人は幾度となく妖怪に襲撃されつつも、危なげなく討伐した。妖怪の売れる部位に関しては元プレイヤーであるコンゴウには十分な知識があるので、持ち運び出来る大きさで希少価値が比較的に高いものを選別して収集していた。そんなことをしながら駿河の街に着いたのは、もう夕暮れ時であった。
 駿河の街、というか『ヤマト鬼王国』の街はまさしく江戸時代の城下町と言うべき見た目だ。この時間帯であっても街は活気に溢れ、人々は笑顔が絶えない。それだけでも豊かな街であることは一目瞭然だ。

 「ええと、傭兵になるには依頼斡旋所に行くんだったよね?」
 「はい、その通りです。こちらですわ。」

 コンゴウは場所を知っているサクラに引かれて駿河の街、その依頼斡旋所へと向かった。案内とはいっても、場所は大通りを真っ直ぐ奥に向かった正面に建つ大きな武家屋敷風の建物なので必要は無いのであるが。コンゴウとしては自慢げなサクラが可愛らしいので問題は無い。
 依頼斡旋所と大きく書かれた表札が掛かった門をくぐり、屋敷の中に入る。百人からの人を収容できる広い土間とその端に椅子と机が並んでいる。傭兵や冒険者の休憩スペースなのだろう。土間と座敷の境には市役所のように幾つかの窓口が設けてあり、そこで依頼の受付や受理、報酬の支払いなどが行われると思われる。

「いらっしゃいませ!」

 コンゴウが物珍しそうに辺りを見回していると、窓口に座っている若い奉公人の女性が、笑顔で元気よく声を二人に掛けた。二人にとっては渡りに舟の状況なので、大人しく彼女の窓口に向かった。

 「申し訳ありません。傭兵の登録に参ったのですが、手続きはどのようにすればよろしいのでしょうか?」
 「あ、新規の登録で御座いますね?少々お待ちください。」

 そう言って彼女は立ち上がると、奥の座敷にある箪笥から幾つかの書類と木札を持って来た。

 「こちらの書類にお名前、性別、得意な武器と魔法、あと『加護』をお持ちであればそれについても記入してください。」
 「はい。わかりました。」

 差し出された書類には本当にこの四つ分しか記入欄が無かった。と言うのも傭兵に限らず書類に何かを記入して契約を結んだ者がそれを裏切った場合、『契約の神』の天罰が下るのだ。つまり書類に記入する行為そのものが重要なのであり、あとは傭兵として必要な情報さえあれば斡旋所としては問題ないのだ。

 「これでいいですか?」
 「はい、ええと…ゴウ様とサキ様ですね。あ!『闘争の神』様の『加護』持ちなのですか!では、丁位の傭兵として登録させていただきますね。」
 「丁位?」
 「あ、はい。冒険者の方々が来訪するにあたって、斡旋所では戦闘能力で位階付けをすることになったのです。上から甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十段階なのですが、『闘争の神』様の『加護』をお持ちの方は無条件で上から四番目の丁位からとなります。」
 「なるほど。」

 二人は現世に肉体を作ったが、二人共の技量は一般人を遥かに上回っている。にも拘わらず『闘争の神』の『加護』を得ていないのはおかしいと判断して作った肉体には『加護』を与えている。それも『第二の試練』を突破した『加護』である。名前は当然、偽名である。
 休憩所でたむろしていた傭兵や冒険者は、二人が『闘争の神』の『加護』持ちと聞いて色めきだった。『闘争の神』の『試練』の難度はトップレベル。傭兵でも『加護』を得ている者はごく少数に限られている。二人を見る傭兵や受付嬢たちの視線は、憧憬によって輝いていた。

 「では、早速ですが何か僕たちに合った仕事はありますか?」
 「…申し訳ありません。今のところ、そこまで難易度の高い依頼はございません。」
 「そうですか。ありがとうございます。あ、しばらく滞在することになりますので常宿を決めておきたいのですが、オススメはありますか?」
 「それでしたら当斡旋所の寮をご利用下さい。戊位以上の方々なら自由に利用できますので。」
 「わかりました。では、二人部屋を用意してくださいますか?」
 「承知いたしました。あの、付かぬことをお伺いいたしますが、お二人はどういうご関係で?」
 「夫婦ですわ!」

 この日、駿河の街には一組の有名人が生まれた。優し気で落ち着いた物腰ながら全く隙の無い偉丈夫と三度笠を被った豊満な女武者。その夫婦傭兵である。
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