Second World

松竹梅

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第一章 ヒノモト珍道中

夫婦傭兵

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 手合わせを終えた二人だったが、終えてしまうとまたもや暇になってしまった。コンゴウはこの百年間、他の『神』のように『信仰』を集めるための努力などしていない。それ以前に他の『神』と関わっていないので、普通は『信仰』集めに躍起になるものだと知らなかった。なのでコンゴウはサクラが入れてくれた茶を啜りながら呟いた。

 「暇だねぇ。」
 「穏やかなのは良いことです。」

 手合わせが終わってからというもの、サクラはすこぶる機嫌が良い。どうやら『闘争の神』としてコンゴウが相応しいと再確認出来たことが嬉しいようだ。ただ、何故かコンゴウの向かい側ではなく隣に座っていることが気になる。そして彼女が身体を、と言うよりその豊満な双丘を押し付けているのは気のせいなのだろうか。

 「あの、サクラさん?」
 「コンゴウ様、私のことはサクラと呼び捨てにして下さいませ。他人行儀なのは悲しいですわ。」
 「あ、うん。じゃあサクラ。」
 「はい。」

 コンゴウに呼び捨てされるだけで彼女はその美しい顔に大輪の花のような笑みを浮かべる。コンゴウはそれだけで思わずドキリと鼓動が跳ねるような感覚を覚えた。『神』となったことで跳ねる心臓などないはずなのに、である。それでも精一杯平静を装って彼はサクラに問うた。

 「その、胸が当たってるんだけど…」
 「はい。当てているのです。」

 堂々と宣言すると同時に、サクラはコンゴウを押し倒した。気が動転しているコンゴウを後目に、サクラはコンゴウの上でなんと服を脱ぎ始めるではないか。思わず目を閉じたコンゴウは慌てて大声を出した。

 「ちょ!何してんの!?」
 「つれない事を仰らないで下さいませ。私はずっとこの時を、コンゴウ様と結ばれる時を夢見ておりましたのですよ?」

 言いながらサクラは今度はコンゴウの服を脱がしにかかる。目を固く閉じているからわからないのだが、状況から鑑みるに恐らく今の彼女は一糸まとわぬあられもない姿なのだろう。肉食獣に襲われる草食獣の如き今のコンゴウを見せれば、『闘争の神』を恐れる神々も彼への誤解を解くことが出来たかもしれない。

 「そ、そういうことは互いによく知ってから…」
 「ならば今から私の全てをご覧くださいませ。」
 「そ、それに僕は想像と違ったんだろう!?なら…」
 「いいえ。むしろコンゴウ様がお優しいお方だと知って嬉しいくらいです。男らしさと粗暴さは異なるものなのですよ?」
 「で、でもやっぱりは僕らにはまだ早い…」
 「そんな情けないことを仰いますな!それとも女子に恥をかかせるおつもりですか?」
 「う!」

 サクラはこちらから猛烈にアタックすればコンゴウを攻略出来ると解っていた。良くも悪くもコンゴウは優しい。ならば自分が断ることで他人が傷つくと言えば迷いが生じると看破していたのだ。『神』とはいえ男である以上、性的な欲求があることはすでに確かめている。身体を密着させたときにひどく狼狽えていたことからも間違いない。サクラは最後の一押しと言わんばかりにコンゴウの耳元で艶美に囁いた。

 「コンゴウ様、どうかお情けを下さいませ。」
 「うぅ!」
 「お~い。コンゴウちゃ…。」

 コンゴウが煩悩に負けてしまう直前、彼の恩神が訪れた。空気が凍り付く。それだけでなく、恩神は信じられない物を見るように目を見開くと、滝のような冷や汗を垂らして一言だけ呟いた。

 「ご、ごゆっくり~…。」

 コンゴウが逃げられなくなった瞬間である。







 「やってしまった…。」

 結局、コンゴウはサクラに押し切られる形で同衾してしまった。誘惑に負けた自分を殺してやりたい気分だ。彼女が望んだこととはいえ、世話になった現鬼王の娘を抱いた事実は変わらない。これまで感じたことのない類の罪悪感に、コンゴウは頭を抱えていた。

 「…幸せそうに寝てるなぁ。」
 「んっ…あ、コンゴウ様…。」

 コンゴウに身を寄せて眠っていたサクラは目を覚ました。彼女は心底嬉しそうに微笑むと、コンゴウに改めて抱き着いてくる。肌と肌がぴったりと触れ合う感触が心地よい。サクラがしきりにスキンシップを求めてくるのは、それだけ『闘争の神』と結ばれることを切に願っていたことの証明なのだろうか。彼女の期待に応えられるかどうかは解らないが、手を出した事実は変わらない。故にコンゴウは覚悟を決めた。

 「サクラ。君が望むなら、僕は責任を取るよ。」
 「ふふっ。末永く宜しくお願い致しますね、コンゴウ様。」

 聞き覚えのあるフレーズの意味をようやく理解したコンゴウは、思わず額をピシャリと叩くのだった。こうして『闘争の神』と『勝敗の亜神』は主従であり、夫婦となった。しかし、この婚姻がまたもや神々の注目を集めたことを二人は知らない。
 『神』が『亜神』を夫か妻として迎えること自体は普通のことだ。むしろ『神』同士で番いになる方が珍しいと言える。だが、コンゴウは『亜神』を迎えた翌日に契りを交わして夫婦になったのである。異例のスピード婚は、『闘争の神』は手が早い、という噂になるのであった。







 晴れて夫婦になった二人だが、だからと言ってやることが増える訳ではない。なのでとりあえず二人は供物を調理して食事を摂った。サクラは料理の腕前も一流で、本格的な和食を用意してくれた。コンゴウは初めての高級和食に感動しつつ舌鼓をうった後、コンゴウは妻となったサクラに一つの提案をしてみた。

 「サクラ、傭兵にならないかい?」

 傭兵とはNPC冒険者の総称である。『ガイア』において冒険者とはあくまでも異世界からの旅人であり、現地の者は傭兵と名乗るものなのだ。主な仕事は冒険者と同じで、彼らにとってはお助けキャラといったところだろうか。

 「どこまでもお供しますわ、コンゴウ様。」
 「あ、あれ?即答かい?」
 「ええ!予想しておりましたから!」

 コンゴウとしては断られるか理由を聞かれると思っていたので肩透かしを食らった気分であった。仮にも王族であった彼女が一介の傭兵に甘んじることを良しとしないと思ったからなのだが、彼女はあっさりと受け入れてくれた。しかもサクラはコンゴウが現世に降りると言い出すことを予見していたと言う。その推理の根拠を彼女は悪戯っぽく笑いながら語ってくれた。

 「コンゴウ様が旅することが好きなことは存じております。そして、私も世界を見て回ることに興味がありますの。ならば付いて行くのは妻としても、私個人としても望むところなのです。」
 「そ、そうかい?じゃあ早速、器を作ろう。やり方は…」

 得意げに胸を張ったサクラは、外の『本神殿』で初めて見た時を彷彿とさせる。彼女の輝くような笑顔に思わずドキリとしたコンゴウは、照れ隠しに少々早口になるのを止められないのであった。
 それはそれとして、コンゴウは現世で行動するための器の作り方をサクラに指導する。彼のやり方はPCを用いてのモデリングなので、PCに触れたことすらないサクラは悪戦苦闘していた。それでもコンゴウの助けもあってどうにか形になった。
 コンゴウの器は先ほどよりも少しだけ筋肉質などこにでもいそうな顔の人間で、サクラの器は彼女の姿を丸写ししたものだ。サクラが顔を変えなかったのは、己の顔を変えることを嫌ったからである。とは言え鬼の姫としても、『勝敗の亜神』としても彼女は多くの人に顔を知られている。そのままの姿を晒すわけにもいかないので、サクラには三度笠を被って顔を隠すことにした。

 「次は武器だけど、どうしようか。」
 「上質ではあっても業物と言うには疑問が残る、程度がいいのでは?その方が鍛錬になりますし、そもそもコンゴウ様は冒険者や他の傭兵と共に戦い、旅をしたいのでしょう?」

 またもや図星である。まるで心を読まれているかのようだ。

 「…よくわかったね。僕ってそんなにわかりやすいかな?」
 「いえ、愛の力ですわ。」

 その時の柔らかな笑みに見惚れてしまったコンゴウは、この先ずっとサクラの尻に敷かれることになることを確信した。しかし、彼女の尻に敷かれるならば悪くないと思ってしまう程度には既にサクラの術中に嵌まっている。

 「じゃあ、行こうか!」
 「はい!」

 こうして二柱の『神』と『亜神』は現世に降り立つ。後に冒険者の間で『夫婦傭兵』と呼ばれて伝説となる傭兵コンビが降臨した瞬間であった。
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