Second World

松竹梅

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第一章 ヒノモト珍道中

いざ、尋常に

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 食事を摂って一息ついた二人だったが、真っ先にやるべきことがまだ残っている。それは『亜神』に至ったサクラが何を司る『亜神』になるかを決めることだ。神々が何柱の『亜神』を従えることが出来るかは世界によって事前に決められており、『闘争の神』の場合は六柱であった。最も多くの『亜神』を従えられる『神』でも八柱までであり、『神』としては平均よりはやや多い人数ではないだろうか。

 「実は僕に案があるんだ。君にぴったりだと思うよ。」

 ちなみに、どの『亜神』になるかは主である『神』の意思で選ぶことが出来る。もちろん、コンゴウは強制するつもりはない。もし、他の『亜神』が良いと彼女が言ったならばその意思を尊重するつもりであった。まあ、狂信者である彼女が意見するとは思えないが。

 「『勝敗の亜神』。勝者を讃え、敗者を慈しむ女神だ。どうかな?」
 「謹んで拝命致します、『闘争の神』コンゴウ様。」

 サクラが嬉しそうに了承した瞬間、彼女を大量の光の粒子が包み込む。サクラが自分の役割を認識したことで、肉体と魂が混ざりあって『亜神』へと昇華したのだ。きっと今の彼女はコンゴウと同じく身体が膨れていくような感覚を味わっていることだろう。見た目に一切変化はないものの、サクラは己の内から湧き出る言いようのない万能感を感じていた。この瞬間、『ガイア』という世界に『勝敗の亜神』サクラという新たな『亜神』が生まれたのである。





 それからサクラはコンゴウの指導の下で『神器』の確認や己の『試練』の調整、『本神殿』の建立など『亜神』としての仕事に取り掛かった。『闘争の神』に仕えるからだろうか、『勝敗の亜神』の『試練』も戦闘系に限られるようだ。しかし、『亜神』の『試練』は『神』ほどシビアではないらしい。『試練』の数も三つとこなすのも難しくはない。それ故に『神』の『加護』ほど絶大な効果もないし昇神もできないのである。
 まず『勝敗の亜神』の『加護』だが、これが中々面白い。効果は『強敵に勝利するたびに各種能力が向上し、敗北するたびに成長しやすくなる』というものである。ゲーム風に言えば『格上に勝つ毎にステータスが向上し、敗ける毎に経験値を得やすくなる』といったところか。もちろん『ガイア』は純粋な異世界であってゲームではないので正確には異なるし、最初は効果も微々たるものだ。しかし、長い目で見た時の効果は侮れない。もし彼女の『最終試練』を突破した状態で勝利を重ねれば、『闘争の神』の『加護』に匹敵する効果が得られるだろう。
 次に彼女の『本神殿』だが、もちろん天道火山に建立した。むしろ『亜神』は仕える『神』の本拠地にしか『本神殿』を建てられないのだから当然である。場所は『闘争の神』の『本神殿』に向かう山道の入り口。そこに建つ三階建ての建物となった。一階は『神像』の設置された休憩所兼護符の販売所で、二階が『第二の試練』、三階が『最終試練』を受ける場所となっている。サクラはもっとコンゴウの神殿の近くに建てたかったようだが、彼には一つの考えがあるので説得して山の中腹にしてもらった。
 『試練』の具体的な内容だが、『第一の試練』は『唐傘小僧』、『第二の試練』は『輪入道』、そして『最終試練』は『化鯨』である。『唐傘小僧』は一本足の生えた唐傘に二本の腕が生えた妖怪だ。妖術の類は使わないが、見た目に反する高速移動と鋼鉄のような傘布、さらに丸鋸のような回転攻撃と油断ならぬ物理攻撃で襲ってくる厄介な妖怪だ。次の『輪入道』は炎を纏った入道の頭を中央に据える牛車の車輪である。見た目通り炎の妖術を操り、燃え盛る車輪による突撃は意外と回避し辛いパワーファイターだ。そして最後の『化鯨』は骨だけで空中を泳ぐ鯨である。本体の攻撃力はそれほどでもないが、非常にタフ且つ魚の亡霊を無数に召喚するので一対多の戦闘に長けていなければ一瞬で揉み潰されるだろう。
 強敵揃いではあるが、『輪入道』は『鴉天狗』よりも弱いので所詮は『神』の『試練』に比べれば大して難しくはない。冒険者でも廃人プレイをしている者ならもう『唐傘小僧』を倒せる者がいてもおかしくないのだから。





 「コンゴウ様。一手お手合わせ願えますでしょうか。」

 神としての義務を終えた途端、サクラは突然試合を申し込んできた。彼女の気持ちはわからないでもない。『亜神』に昇神した自分の力を試してみたいのだろうし、本気の『闘争の神』と戦ってみたいのだろう。

 「唐突だね。…うん。いいよ。」

 元来、コンゴウは底抜けに優しく、争い事を好まない性格だ。病弱で色々な人の世話になって来たからこその純朴さだが、技比べに興味がないわけではない。むしろ強くなりたいという願望は人一倍大きかったからこそ、ゲームの中で己を徹底的に鍛え上げたのだ。故に彼女の挑戦を受けることに躊躇いは無かった。
 コンゴウは私室の隣に新しい部屋を作った。それはだだっ広い道場である。東京ドームが数十個は入るであろう空間だが、二人にとっては丁度いい。それどころか、このくらいの広さが無ければ『神』や『亜神』の中でも戦いを司る二人は全力で動くことが出来ないのだ。
 挑戦者たるサクラの神器は四種類。太刀『鬼角神裂』、大鎧『麒麟神威鎧』、護符『闘争神護符』そして和弓『鬼蜘蛛神箭』。彼女の持つすべての神器を用いた完全武装である。『亜神』の神器は『神』の神器に劣るはずなのだが、彼女の場合元の性能がコンゴウが冒険者だった頃に使っていた武具と同等なので『神』の神器に匹敵する力を秘めている。特に強力なのは彼女が集めに集めた『闘争の神』の護符が融合した『闘争神護符』だ。護符の能力を全て包括した神器は、戦闘中に『闘争の神』の力を借りることが出来る優れもの。この神器の力によって彼女はこと戦闘においては『亜神』として最強であり、状況次第では『神』をも滅ぼすことが出来るかもしれない。

 「いつでも来なさい。」

 一方のコンゴウが使うつもりの神器はたったの二種類。大身槍『鬼角神斬』と義腕『精霊神黒腕』だけである。防具が無いだけでなく、彼は右目を閉じて戦うつもりでもあった。というのも、彼の右目は義眼の『神器』なのだ。用いる『神器』の数は半数、しかもハンデまで設けるというのは傍から見れば馬鹿にしているかのようである。しかし『亜神』となったサクラには解る。ここまで手加減してようやく五分かコンゴウの方が上であることが。
 普通ならば絶望して然るべき差だが、サクラはむしろ歓喜に震えていた。『亜神』へと昇神した今でも足元にも及ばないその強さは、彼女が『闘争の神』に抱いていたイメージそのものだ。優しい心根に無双の力。それが『闘争の神』コンゴウの本質に違いない。

 「参ります!はああああああ!」

 道場の中央に陣取ったコンゴウに、サクラは全身全霊の居合切りを放つ。『亜神』となったことで光速に近い速度となった斬撃は、『神器』の能力によって光の刃を生み出した。輝く斬撃をもし地上で放ったなら、海は割れ、山をも切り裂いただろう。しかし、相手は『闘争の神』。小手先の技では何の意味も無いことを思い知らされることになる。

 「オオオオオオオオオオオ!」

 魔神をも超えるコンゴウの咆哮によって、サクラの斬撃はあっさりと消し飛んだ。『亜神』であるサクラですら、踏みとどまるのがやっとというあり得ない音による物理攻撃にサクラは自然と笑みを浮かべてしまう。コンゴウもそんな彼女を見てやれやれ、とほころんでしまう辺り、彼女のことをどうこう言えない戦闘狂なのかもしれない。
 それから丸一日続いた二人の稽古は実に充実したものだった。『神』や『亜神』としての己の力量を確かめ、さらに互いの技を研鑽し合うのはとても楽しい。物理的な肉体を持たないので疲労したり汗をかいたりすることは無いので、二人は時間を忘れて舞うように剣戟を交えるのだった。






 二人が稽古をしている時、他の『神』や『亜神』は恐怖に震えていた。これまで不気味なほどに何の動きも見せなかった『闘争の神』に『勝敗の亜神』という新たな従者が生まれたかと思えば、その『亜神』と戦っているのだ。二人の稽古はコンゴウが作った道場の中で行われたものの、ぶつかり合う力の波動は『神界』に響き渡っていた。剣道場から漏れ聞こえる裂帛の気合のようなものだが、それだけでも『神』ですら恐れ戦く力がある。
 特に彼らが驚いたのは、昇神したばかりの『勝敗の亜神』ですらこれほどの力を持っているという点である。『闘争の神』が強いのは解る。しかし新たな『亜神』ですら『神』に匹敵する力を持つなど、誰が予測し得たであろうか。冒険者のという異界からの旅人の流入に合わせるように動き出した『闘争の神』の動向に、『神』達は否が応でも注目せざると得なくなったのだった。
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