例え変なオバサンと呼ばれようとも

もずく

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ダンジョンに潜り始めてから1月程が経った。もう季節は初夏から夏へ向かっている。


子供達が通う幼稚園、小学校、ついでに中学校は隣接して建っている。家から歩いて5分だ。

私達が住んでいるのはファミリータイプの探索者専用アパートだ。2階建てで各8部屋のアパートがずらっと並んでいる。


7年前の悲劇の後、ミサイルで更地になった土地の後にここいらが整備された。この土地に住む事にかなりの忌避感や安全面への懸念はあったものの東京のど真ん中で新築2LDK小さな庭付き家賃3万円、敷金礼金も補助が出て実質0円。となれば、旦那が探索者になることを決めてしまったのだ。

スタンピードを起こしたダンジョンを覆うように強固な壁が設置されたのも決め手となった。


学校近くには探索者カードを持っていれば駐車場代がいらない立体駐車場もあり至れり尽くせりだ。優先契約をしていれば空きがないなんてことはないので、月に3千円だけは払っているが。


車のミラーを見ながら目元周りだけ軽く化粧をして一度車から降りて後部座席に乗り込む。車内カーテンをして暑苦しいダウンは脱いで夏らしい服に着替える。汗拭きシートも欠かせない。ずんぐりむっくりな格好をして10キロを越える箱を背負うと一定の温度が保たれているダンジョン内でもダラダラと汗をかいてしまう。

季節外れな格好とかざんばらな頭とかで変なおばさん感を演出しているのだ。


チャイルドシートでスヤスヤ眠る次男が可哀想だとは思うがシートのロックを外して、前抱きタイプの抱っこ紐に移動させる。起きるかと思ったけれど、一瞬身動ぎしただけでそのまま眠ってしまった。素早く忘れ物がないか車内をチェックして車から降りて娘を迎えに行くために歩き出す。


歩きながら先日上がったスキルレベルについて考える。まず、スキルというものは初めて魔物を倒した際、ランダムで1つ得るものである。漢字を使っている国では漢字で表され、その他の国ではそれぞれその国の言葉で表されるが強力なスキルであればある程字数や単語が多くなるのは同じである。私のスキル無音は漢字2文字なので大したことはない。魔物を倒し続けるとレベルが上がるのは周知なことだが、スキルレベルは魔物を倒すだけではなく、何度もスキルを使うことでもレベルが上がると言われている。レベルが上がると関連した新たな能力が増えることも知られている。先日、スキルレベルが上がった際、私のスキルもできることが増えた。今までの無音スキルでは、対象物に使うと私にも音が一切聞こえなかった。それが私には聞こえるようにするか否かの選択ができるようになったのだ。


私はとってはとても喜ばしいことだった。子供の声が聞こえないのはとてもマイナスだったからだ。


もしかしたら泣きすぎて酸欠になっていないだろうか。もしかしたら箱のすき間からスライムが入り込んでいるのではないだろうか……もう心配で心配で何度も小部屋に戻って箱の中を確かめていた。


その行為を減らすことができればもっとスライムの討伐数を増やせると思う。気持ちの負担も減った。増えたのはあやすために童謡を大きな声で歌うあやしい姿だけだった。


大きな歌声にスライムが寄ってきて今まで以上に倒せるし、赤ちゃんも泣き止む。一石二鳥。一度だけ、入り口へ帰ろうとしていた時に人がいるのに気づかないで歌っていたら、まだ若い男の子とすれ違った。その際、「ひっ」とか言って壁に張り付かれた事があった。そんな事は些細なことだ。


「ママぁ~。ごあいさつ終わったよぉ。なんで、鬼さんの顔してるの~?」


気づけば娘が私の手を握っていた。

なかなか迎えに近づいて来ない母を逆に迎えに来たらしい。クラスの先生に一言あいさつしないと帰れないシステムなのだ。


「なんかヤなことあったぁ?」


私の手をぶんぶん振り回しながら娘が私の顔をよく見ようとする。


「んーん。大丈夫だよ?先生にごあいさつして帰ろうか?」


先生に近づいて、すみません、今日は何かありましたかぁ?大丈夫でしたよ。今日もありがとうございました。さようなら。なんて会話をし、娘の手をひいて園を出る。


「今日、ダ「みーちゃん?ダ?ダ、何?」えーっとぉ、ダ、ダぁ?何だっけ?」


娘は言っちゃいけないと言われていたのを思い出したようでわざとらしい顔で、


「あっ、今日はアイスの日だよ!スーパー寄って買い物してアイスも買って早く家帰ろう?そうだ!先ににーにに電話しないとね。お兄ちゃん心配性だから。」


と、ごまかした。


ほんとに危ない。この娘は。

こんな人が多い所でダンジョンの話をしようとするとは。この幼稚園に通っている子供の親や身内はダンジョン探索者や関係者が多い。とても。


ダンジョンに潜っているのは隠すことでもないし、関係者が多いからこそ旦那がいなくなったことへのフォローも学校側はスムーズであった。しかし、今はあまりつっこまれたくない状況だ。誰が聞いているかわからない場所でダンジョンの話はしたくなかった。


普通の5歳児に○○を話さないでと言い聞かせても無理だ。その時は分かった!と元気よく頷いても次の日には忘れて話したいことを話してしまう。その話さないでが完璧にできた長男とは違うのだ。








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