何色にもなれなかった花

結紀

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何色にもなれなかった花

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 ぼくは花。
 

 この広い草原でひとりぼっちで咲いている。


 ぼくと同じ花はどこにもいない。
 

 ぼくは一人ぼっちだけれども、案外寂しくはないんだよ。


 ここには、冬を越えるためにたくさんの渡り鳥さんたちが羽を休めにやって来るから。
 

 今の季節、ちょうどたくさんの渡り鳥さんたちがこの地へ休息しに来ている。
 

 『やぁ。こんにちは、渡り鳥さん。今年もよく来たね』

 
 「おや、こんにちは。君は今年もまだここで咲いているんだね」
 

 『そりゃあそうだよ、ぼくは渡り鳥さんみたいに飛んでは行けないもの』
 

 「それはそうだ。でも普通、花は季節が過ぎたら枯れるものだけれどなぁ」

 
 『そうなんだね、ぼくには仲間が居ないから分からないや』
 

 「それに君には花らしい綺麗な彩りが無いね。それでも花なのかい?」

 
 『うーん、ぼくは自分の姿を自分で見たことが無いから分からないや』
 

 「僕を見てごらんよ。どうだい?この綺麗な羽の色。まるでここから見える海のように、深くて濃い素晴らしい青色だろ?」


 『確かに、きみの羽はあの海のように深くて濃い青色だね。とても綺麗だ』


 「そうだろうとも」


 

 『色、色かぁ』


 『花には色が付いているもんなんだなぁ』


 『それなら、ぼくは花じゃないのかな?』


 『うーん……』


 そうして、いつまでもいつまでも花がひとりぼっちで考え込んでいるうちに、渡り鳥達はまた次の地へ旅立っていった。




 ある時。大嵐がこの地に訪れた。




 雨が激しく地面を打ち付け、風は吹きすさび、渡り鳥でも簡単に飛ばされてしまう程だった。


 『凄い雨と風だ』


 『ぼくは根をしっかりと生やしているから、飛ばされないと思うけれど……』


 『ぼくの花びらは飛ばされてしまうかも知れないね』


 花が呟いたように、一枚、一枚と花びらは風の渦にのまれて飛んで行ってしまった。


 『花びらが全部なくなってしまったら、ぼくはどうなるんだろう』


 『一枚一枚花びらが飛んでいくたびに、ぼくがちょっとずつ消えていく感じがするんだ』


 花に残ったのは、色の無い花びら一枚だけだった。
 

 『ぼく、このまま消えたくないなぁ』
 

 花の願いは、ゴオッと一瞬吹いた風によって儚くもかき消された。




 次の年。




 渡り鳥達は毎年通りに羽を休めにこの地へ訪れた。


 渡り鳥はキョロキョロと辺りを見回したが、いつもうるさいお喋りな花は何処にも見当たらない。


 「あの子も旅立っていったのか」


 花が咲いていたであろう場所までトコトコと近づいて、土の色が変わっている窪みの辺りを覗き込む。


 「おや」


 花が咲いていた場所には、小さな花が咲いていた。

 
 よく見ると花は一輪だけでは無く、ポツポツと色づいて咲き、幾つか小さな身を寄せ合っていた。


 そこには、まだ根を張る前の種もパラパラと散らばっていた。


 「そうか……君が残した種は君の望んでいたものを叶えてくれたんだね」


 「また、来年。ここは君が残した色とりどりの花で咲き乱れているかもしれないね」


 サワサワと吹く風に揺れる花達は、渡り鳥に返事を返しているようだった。


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