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第七話 記憶
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『春斗君、残念な事になったわね……』
『弟の冬夜君を助けに行って巻き込まれたそうよ』
『あんなに優秀な良い子だったのにね……』
『海で見つかったのは行方不明になってから五日後ですって!』
『可哀そうに……』
『あああああああ!春斗!!春斗!!』
『どうして!どうして春斗が!!』
『にいさーん!こっちこっち!』
『――冬夜!』
ハッと目が覚める。汗がじっとりと体にまとわり付く。気持ちわりぃ……。そろそろ扇風機出すかー。
布団を片付け、カーテンをシャッと開けると窓の外では鳥が囀っていた。キラキラとした朝の陽射しが部屋の中へ広がった。ヨレヨレの寝巻から制服へと着替える。
ハンガーに掛けてあるネクタイを手に取り首に巻く。ちゃんと締めないとまーた指導されっけど、首が鬱陶しいんだよな。これでいいや、と緩くネクタイを締める。
「さて、朝食作るか」
ぐーっと伸びをしながら、部屋を出る。一階への階段へ向かう途中、自室の向かい側にある今ではもう使われていない部屋が目に付いた。
その部屋の前まで進み、ガラッと部屋の引き戸を開ける。部屋の中はカーテンが閉まっていて薄暗く、埃っぽい。家具も衣類もここはあの時のままだ。ぐっと目を閉じる。
数秒だけそうした後、ゆっくりと目を開け気持ちを切り替える。部屋の戸を閉め、朝食を作りに一階のキッチンへ向かう。
冷蔵庫から卵とベーコンを二人分取り出し、フライパンで焼いていく。リモコンでテレビの電源を入れながら、食パンをトースターに二枚入れる。
やかんで湯を沸かしながら冷蔵庫から取り出した牛乳を二個のコップに注ぐ。やかんが湯気を吹き出し、音を鳴らす。
沸かしたばかりの熱々の湯で今度は一つのマグカップにコーヒーを淹れる。
朝食の用意も整ったところで、キッチンの隣にある父さんの寝室へ向かう。
コンコン、と部屋の戸を軽くノックする。
「父さん、朝だよ」
部屋の中から声は返ってこなかった。
もう一度、コンコンと先ほどと同じように軽くノックする。
「あぁ……」
今度は小さな声が返ってきた。
「入るね」
部屋の戸を静かに開けると、父さんは目を閉じたまま布団でじっと仰向けになっている。部屋のカーテンは二重になっており外の光は完全に遮断されている。
寝ている父さんに近寄り、様子を伺う。反応はある、今日はいつもより少しだけ調子が良いのかもしれない。
「少し眠れた?朝ご飯できたけど、食べられそう?」
「少しだけ……。眠れた、と思う……」
良かった……。新しい薬、効き目ありそうかも。頓服だから、頻繁には使えないけれど。それでも、ちょっとでも落ち着くなら良かった。
「起きられる?一緒に食べようよ」
「あぁ……。久しぶりだな……」
父さんがゆっくりと布団から体を起こす。父さんの脇を抱えるように体を支えながら、一歩一歩キッチンへ向かう。
「コーヒー……。いい匂いだな」
久々の朝の団欒の中、落ち着いた状態の父さんは大好きなコーヒーの匂いをゆっくりと味わっている。
「夏樹のコーヒーはいつも美味いな」
その言葉に涙が込み上げてくる。
きっと、普通の家だったら当たり前の日常なんだろう。でも俺にとってはこうしているだけで、泣きそうになる。だって、これが当たり前じゃなくなってしまったから。
あの日から。
『とうさん?かあさんは?』
『夏樹……』
『おそとからかえってこないの?』
『夏樹、ごめん……』
『とうさん?どうしてないてるの?どこかいたいの?』
『ごめん、ごめんな……。』
『とうさん、なかないで。もうすこししたら、かあさんかえってくるよ!かあさん、ぼくにおやつかってくるっていってたもん!』
『夏樹、駄目な父さんでごめん……!』
「じゃ、行ってくる。コーヒー、ポットに淹れてあるから。好きな時に飲んで」
「あぁ、気をつけてな……」
俺は、父さんを見捨てたりしない。母さんみたいには絶対にならない。だから、例え普通の家庭の当たり前と違っても必ずこの家に帰ってくる。
これが今の俺にとっての”当たり前”だから。
『弟の冬夜君を助けに行って巻き込まれたそうよ』
『あんなに優秀な良い子だったのにね……』
『海で見つかったのは行方不明になってから五日後ですって!』
『可哀そうに……』
『あああああああ!春斗!!春斗!!』
『どうして!どうして春斗が!!』
『にいさーん!こっちこっち!』
『――冬夜!』
ハッと目が覚める。汗がじっとりと体にまとわり付く。気持ちわりぃ……。そろそろ扇風機出すかー。
布団を片付け、カーテンをシャッと開けると窓の外では鳥が囀っていた。キラキラとした朝の陽射しが部屋の中へ広がった。ヨレヨレの寝巻から制服へと着替える。
ハンガーに掛けてあるネクタイを手に取り首に巻く。ちゃんと締めないとまーた指導されっけど、首が鬱陶しいんだよな。これでいいや、と緩くネクタイを締める。
「さて、朝食作るか」
ぐーっと伸びをしながら、部屋を出る。一階への階段へ向かう途中、自室の向かい側にある今ではもう使われていない部屋が目に付いた。
その部屋の前まで進み、ガラッと部屋の引き戸を開ける。部屋の中はカーテンが閉まっていて薄暗く、埃っぽい。家具も衣類もここはあの時のままだ。ぐっと目を閉じる。
数秒だけそうした後、ゆっくりと目を開け気持ちを切り替える。部屋の戸を閉め、朝食を作りに一階のキッチンへ向かう。
冷蔵庫から卵とベーコンを二人分取り出し、フライパンで焼いていく。リモコンでテレビの電源を入れながら、食パンをトースターに二枚入れる。
やかんで湯を沸かしながら冷蔵庫から取り出した牛乳を二個のコップに注ぐ。やかんが湯気を吹き出し、音を鳴らす。
沸かしたばかりの熱々の湯で今度は一つのマグカップにコーヒーを淹れる。
朝食の用意も整ったところで、キッチンの隣にある父さんの寝室へ向かう。
コンコン、と部屋の戸を軽くノックする。
「父さん、朝だよ」
部屋の中から声は返ってこなかった。
もう一度、コンコンと先ほどと同じように軽くノックする。
「あぁ……」
今度は小さな声が返ってきた。
「入るね」
部屋の戸を静かに開けると、父さんは目を閉じたまま布団でじっと仰向けになっている。部屋のカーテンは二重になっており外の光は完全に遮断されている。
寝ている父さんに近寄り、様子を伺う。反応はある、今日はいつもより少しだけ調子が良いのかもしれない。
「少し眠れた?朝ご飯できたけど、食べられそう?」
「少しだけ……。眠れた、と思う……」
良かった……。新しい薬、効き目ありそうかも。頓服だから、頻繁には使えないけれど。それでも、ちょっとでも落ち着くなら良かった。
「起きられる?一緒に食べようよ」
「あぁ……。久しぶりだな……」
父さんがゆっくりと布団から体を起こす。父さんの脇を抱えるように体を支えながら、一歩一歩キッチンへ向かう。
「コーヒー……。いい匂いだな」
久々の朝の団欒の中、落ち着いた状態の父さんは大好きなコーヒーの匂いをゆっくりと味わっている。
「夏樹のコーヒーはいつも美味いな」
その言葉に涙が込み上げてくる。
きっと、普通の家だったら当たり前の日常なんだろう。でも俺にとってはこうしているだけで、泣きそうになる。だって、これが当たり前じゃなくなってしまったから。
あの日から。
『とうさん?かあさんは?』
『夏樹……』
『おそとからかえってこないの?』
『夏樹、ごめん……』
『とうさん?どうしてないてるの?どこかいたいの?』
『ごめん、ごめんな……。』
『とうさん、なかないで。もうすこししたら、かあさんかえってくるよ!かあさん、ぼくにおやつかってくるっていってたもん!』
『夏樹、駄目な父さんでごめん……!』
「じゃ、行ってくる。コーヒー、ポットに淹れてあるから。好きな時に飲んで」
「あぁ、気をつけてな……」
俺は、父さんを見捨てたりしない。母さんみたいには絶対にならない。だから、例え普通の家庭の当たり前と違っても必ずこの家に帰ってくる。
これが今の俺にとっての”当たり前”だから。
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