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しおりを挟む庭に咲く花を眺めながら取り留めもない話をしていると、ボーイがワゴンを押してきた。
「お待たせいたしました。浅煎りコーヒーとスコーンのセットでございます。」
そう言ってエヴリンさんの前にコーヒーを置き、スコーンが盛られたお皿を並べる。
スコーンは3つ、お皿の中央に寄り添うように乗せられていて、周りを囲うように6種類のジャムがお皿にこんもりと盛られている。うん、見た目も美しいね。
「こちら、深煎りコーヒーとマドレーヌのセットでございます。」
俺の前にもコーヒーとマドレーヌの皿がセットされる。ああ、良い香りだ。
「ありがとうございます。」
ボーイに礼を言うとニッコリと笑う。
「どういたしまして。ごゆっくりどうぞ。」
ワゴンを押しながらボーイが戻って行った。
「さあエヴリンさん、冷めないうちにいただきましょう。」
そう声をかけてカップを手に取り、コーヒーを一口含む。ちょっと雑味を感じるが、間違いなくコーヒーだ。久しぶりの味と香りを堪能する。
エヴリンさんは恐る恐るコーヒーを口にし、その苦さに顔をしかめた。そういう素直なところも可愛いな。
「エヴリンさん、苦くて飲み辛かったら、一緒に出してもらったミルクを加えて混ぜてみて下さい。口当たりが良くなって飲みやすくなるはずです。色も変わって楽しいですよ。」
そう声をかけてあげる。
「は、はい、ありがとうございましゅ。」
あまりの苦さに舌が回り辛かったのか、最後に噛んでしまった。恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く。いちいち可愛いなぁ(笑)。
俺は手を伸ばしてミルクを取り、コーヒーにそっと注いでやる。ふわりと花が咲くようにミルクの色が広がるのを見て、
「うわあ、綺麗。」
と嬉しそうに言う。うん、良い笑顔だね。
「少し模様を楽しんだら、スプーンでかき混ぜてください。色が変わりますよ。」
そう声をかけると、
「分かりました!」
と言ってウットリと変わる模様を眺めている。
変化が落ち着いたところでスプーンでかき混ぜると、真っ黒だったコーヒーが柔らかな茶色に変わったのを見てまた笑顔になる。そしてコーヒーを一口飲んだ。
「美味しい。私、これなら美味しいです。」
今日一番の笑顔だ。
「それは良かった。さあ、お菓子もいただきましょう。
そのスコーンというお菓子は大きいので、上下に半分に割って、切り口に好きなジャムを塗って食べるそうですよ。カールズで教わってきました。」
食べ方を教えてあげると嬉しそうにスコーンを手に取り、半分に割ってジャムを塗る。両手で持ってハムハムと齧る姿は、リスなどの小動物を思わせてとても愛らしい。
「すごく美味しいです。いくらでも食べれちゃいそう。」
満面の笑顔だ。美味しい顔が一番だね。
俺もマドレーヌを食べてみる。バターの量が多いのか、ジニアルで食べた物よりしっとりとしている。
蜂蜜がたっぷりと入っているのだろう、甘さも強めでコーヒーにもよく合う。
ふとエヴリンさんを見ると、じっとマドレーヌを見つめている。食べたいのかな?俺は1つフォークで刺し、笑顔でエヴリンさんへと差し出す。
「良かったらお一つどうぞ。」
そう言うと、顔だけでなく耳も首も真っ赤になってアタフタし始めた。
あ、やべ、やってもーた(笑)。
前世では家族でしょっちゅうこうやって食べさせあっこしてたのだ。もちろん妻ともしょっちゅう食べさせあっこしてた。ついその癖が出てしまったのだ。
今更引っ込めるわけにもいかないので、エヴリンさんにそっと囁く。
「他のお客さんに見つかっちゃいますよ。さ、口を開けてください。食べさせてあげますから。」
そう言うとエヴリンさんは、ギュッと目を瞑ってオズオズと口を開けた。
そぉっと口に入れてあげるとビクッと身体を震わす。
優しく歯に引っ掛けるようにして口の中に落としてあげると、口を閉じてムグムグと口を動かす。目は瞑ったままだ。
「美味しいですか?」
声をかけると慌てたように頷く。
「は、はひ。美味ひいでしゅ。」
噛みまくりだね。可哀想なことしちゃったかな。
「恥ずかしい思いをさせてしまってすいません。エヴリンさんがあまりにも可愛かったのでついこのような振る舞いをしてしまいました。失礼をお許しください。」
そう声をかけるとさらに真っ赤になって俯いてしまった。ヤバい、やり過ぎたか。
「さ、コーヒーが冷めてしまいます。飲みましょう。スコーンもまだありますよ。どうせなら全部のジャムを試してください。どれが一番美味しかったか教えてくださいね。」
そう声をかけてコーヒーを飲む。少し冷めて飲みやすくなったな。
エヴリンさんは俯きながらスコーンに手を伸ばし、ジャムを塗りつけると顔を上げた。
「あ、あの、タカさんもお一つどうぞ。」
目をウルウルと潤ませながら摘んだスコーンを差し出してくれた。勇気を振り絞ってくれたのだろう。震える手を両手でそっと包み、笑顔で答える。
「ありがとう。いただきます。」
パクリとエヴリンさんの指ごと咥える。
ビックリして手を引こうとするが、俺が両手で手を握っているので手を引くことができない。
ゆっくりと顔を下げながら舌先で指先をなぞってやると、
「んっ!」
と切ない声を上げてビクビクッ!と身体を震わせた。
唇で包み込んだ指をゆっくりと抜く。
両手を離すと俺に掴まれていた右手を胸に抱くようにしながらクタリとイスにもたれかかった。
飛び出しそうな心臓を必死で抑えているようにも見える。
「美味しかったです。ご馳走様でした。」
そう言うと泣きそうな顔でニッコリと微笑んだ。
その後はそれぞれお菓子を食べ進め、コーヒーのお代わりを頼んだ。
俺がこの街に辿り着くまでの話をすると彼女は喜んで聞いてくれた。
そうして1時間ほど過ごし、俺たちは店を出ることにした。
「エヴリンさん、すいませんが御者さんが戻ってるかどうか確認してもらえますか?」
エヴリンさんにお願いする。
「分かりました!先に馬車に行ってますね。もし御者さんが戻ってなかったらまた戻ってきます!」
そう言って元気に出て行った。よし、この隙に会計だ。女子の前で金のやりとりして気を遣わせるのは嫌なのだ。
「銀貨3枚でございます。」
ボーイが笑顔で告げる。コーヒーとお菓子のセットは銀貨1枚、それにコーヒーのお代わりが銅貨50枚、2人合わせて銀貨3枚。
こんなの知ったらエヴリンさんが気にするのは目に見えてるからね。収納から銀貨を取り出して支払いを済ます。
「ご馳走様でした。」
そう声をかけて扉へ向かう。
「またのお越しをお待ちしております。」
ボーイの声が送ってくれた。
外に出てみると、エヴリンさんがウォルターを撫でていた。また1人虜にしたのか。ウォルター、恐ろしい子(笑)。
御者さんはすでに戻っていた。俺を見ると頭を下げる。俺も会釈を返す。
「ウォルターの面倒を見ていてくれたんですね。ありがとうございます。ではそろそろ宿の方への案内をお願いします。服屋はまた今度で良いです。」
そう言うとエヴリンさんは少し悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「はい!ご案内します!」
俺は盥を収納して馬車のドアを開け、エヴリンさんを乗せた後にウォルターと共に馬車に乗り込んだ。
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