だから振り向いて

黒猫鈴

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あれから一週間と時が経った。
相変わらず外部生に夢中な篠原の傷は絶えない。

手当てする身にも…なんて思ってしまうも私が好きでやっていることだから…と何もいえない。

今日も今日とて治療しているのだけれど

「…なんだよ、あの野郎、てか夢も夢で…」

珍しく文句を言う篠原がいた。
あの大好きな外部生の悪口も漏らしている。
それもこれも、どうやら外部生とやら…篠原と仲の悪いで有名な風紀委員長、清水新(しみずあらた)に惚れたらしいのです。
なんでも親衛隊の制裁中に助けてもらい一目惚れ、みたいで…
現在清水に猛アタック中だとか…

それが悔しいのか篠原は先程から二人の悪口ばかり口にする。

まぁ私としては好都合なんですが…。

「…ち」

悪口を言った後、舌打ちし大きな溜め息する篠原。
らしくない。

好きな人を自分で貶して自己嫌悪している…
そしておかしいくらい落ち込んで…

私も溜め息したくなり、それをなんとか押さえ込んだ。

「…」
「…」

少しの沈黙。
ハッキリ言って何を言えばいいかわからない。
でも、落ち込む篠原をもう見たくないのもあり、

「…もう諦めたらどうですか?いい機会ですし…っ」

言葉が切れたのは胸ぐらを掴まれたからで

「っんだと!夢はなぁ、俺の初恋で…」

簡単に諦められる訳ねぇ、切なく言う篠原。
切ないのは私も同じなのに…ね。

負け組の私達…

篠原の新たな傷を触った

それから出た言葉は無意識で

「…胸の傷も癒えたら良いんですけど、ね…」
「…」
「…癒やしてあげましょうか…?」
「…っ」

切ない顔で篠原の顔を覗き込み、驚いているその顔にキスした

「私を好きになってください」

そうしたら、篠原の傷も…私の、傷も癒える、のに…

「っテメェ」

ガッと途端に頬に痛み。

嗚呼殴られた

わかった時には篠原はもう、ここにはいなくて。
私は殴られた頬より、もっと痛い…胸を押さえた。

「…痛い、な…」

小さく漏れた笑いと共に目から零れた水滴。
止める方法を知らないそれは、ポロポロ止めどなく流れ…
雫が床を濡らしていく

口からは笑いではなく短い声が零れ…それは何時の間にか叫び声に変わるけど…篠原が戻ってくることはなかった。



あれから外部生は風紀委員長と付き合ったと風の噂で聞いた。

「…」

そして私達は…あれから喋ることなく今日卒業式を迎えていた
さよなら、と騒ぐ卒業生を通り過ぎる。
生徒に囲まれる篠原さえも。

此方を一度も見てくれない篠原に思わず卒業証書を握り締めた。


私はすぐ迎えに来ていた車に乗り込む。
すぐに走り出す車に遠ざかる学園。
私は何年もお世話になったこの土地に別れを告げた。
そして淡い恋にも。

さよなら…篠原。

閉じた瞳から一筋の塩辛い水が落ちた。
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