【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

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日乃本 義に手を出すな

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 まさか自分以外にも、男の参加者が居たとは。
 遠目ではっきりとした姿はわからないが、前髪が長く、眼鏡を掛けていると思われる彼は、どことなく弱そうで、垢抜けない雰囲気を感じさせた。
 
 彼は先程の巻き髪の令嬢を諦めたのか、今度はハーフアップの令嬢に話し掛けに行った。

 (なんだあいつ、あわよくば皇子のあずかろうとでも思ってるのか)
 
 その発想はなかったと、柾彦は料理に舌鼓を打ちながら、しばらく彼の様子を遠目から観察する事にした。
 今しがた話しかけられたハーフアップの令嬢は、彼に相槌を返すでも、拒否をするでもなく、まるで何も聞こえていないと言わんばかりに無視を決め込んでいる。見方によっては、先程よりも酷い扱いかもしれない。
 
 その後も彼はめげずに、何人もの令嬢に話し掛けていたが、令嬢達には飲み物を取りに行く振りをしてかわされたり、戸惑いながら一礼をされて逃げられたりと散々だった。彼女達は皆、皇子の婚約者として選ばれる為にこの場に集まっているのだから、至極当然の結果だろう。
 しかし、ここまでけんもほろろだと、流石に少し可哀想になってきた。
 柾彦は、まるで彼の保護者にでもなったような気分で様子を見守っていると、急激に腹が痛くなってきた。

 あれだ。
 普段は食べる機会のない、脂身の多い高級な肉を一度にたくさん摂取したせいで、腸がびっくりしてしまったのだ。
 柾彦は慌てて洗面所に向かい、腹痛がおさまるまでじっと便座に腰を据え続けた。

「はぁ……もう今日は肉、食べられないかもな」
 独り言を言いながら柾彦がトイレの個室から出ると、令嬢達に振られ続きの、例の彼が手を洗っていた。
 柾彦も隣に立ち、手を洗う。

 彼を横目で見ると、長い前髪とやけにテンプルの太い眼鏡のせいで表情はわからないが、鼻から顎にかけてのラインは綺麗だ。細身のネイビーブルーのスーツは、彼のサイズぴったりに仕立てられている事がわかる上質な代物で、左手にある腕時計は、控えめなデザインながら、機械式の有名ブランドのものだ。彼の身なりからは、明らかに上層階級の御子息である事が窺えた。
 背が高く、スタイルも悪くはない。柾彦は彼を、余計なお世話ながら磨けば光るタイプのように感じた。
 
 彼は刺繍付きのハンカチをポケットから取り出すと、それを広げて無言で手を拭き始めた。
 

「……あのさ、」
 話し掛けたのは、柾彦の方だった。

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