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日乃本 義に手を出すな
玖
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「…え?」
彼は、少し驚いた様子で柾彦の顔を見た。
「それ、国技館で売ってる、南富士のサイン刺繍入りハンカチだよな?
もしかして、相撲…好きだったり、する?」
彼は瓶底のようなレンズの奥にある小さな目を丸くして、一瞬キョトンとした様子だったが、
「ええーっ!!君、南富士関を知ってるのかい?」
すぐに歓喜に満ちた声色で、食い気味に柾彦へ訊ねた。
「そりゃそうだろ、だって今の西方の大関じゃん。逆に知らない奴、いんの?」
彼は「ははっ、そうか」と言って嬉しそうに笑いながらハンカチを畳むと、刺繍を柾彦に見せた。
「僕の周りで相撲に明るい者なんて爺やくらいだよ。
それに、すごいな…よくこれが国技館限定の、しかも南富士関モデルのだって判ったね」
「オレンジ色が南富士のだったかはうろ覚えだったけど、正解だったんだ?
俺、これの舞の浪のが欲しくて見てたし。ネット通販」
「君は、舞の浪関が好きなんだね」
柾彦は、濡れた手を自身のハンカチで拭きながらこくりと頷いた。
「俺が小学生の時、親父に国技館に連れて行ってもらった事があってさ。
力士って、大体みんな縦にも横にもでかいだろ?
その中で一人、背も低くて体も小さい力士が居て、これは負けるだろうと思ってたら、すばしっこく動いて…対戦相手はやっぱり大柄な力士だったんだけど、土俵に手を付けさせてさ、…勝ったんだよ。力を凌ぐ、技で。それが、舞の浪だった。
俺さ、自分も当時ちっこい方だったから…あ、今もそんな大きくないんだけど、勝手に自分と重ねて、痺れちゃって。
小さな躰で、でっかい敵に向かっていって、…しかもそれで勝つって、すっげーカッコよくない?
…それ以来、舞の浪が一番好きな力士だな」
そして僅かに湿ったハンカチをポケットに仕舞うと、自然と口元を綻ばせた。
「舞の波は、テクニックでパワーを補うタイプの力士の筆頭で、僕も毎試合楽しく見ているよ。珍しい決まり手が多いのも彼の特徴だね」
「そうなんだよ!さすが、よくわかってるな、お前…って、そういえば今、何時かわかるか?
俺の時計、安物なのにデジタルだからそれも電子機器ってことで回収されちゃってさ。麻酔銃が付いてる訳でもないのにな」
柾彦が左手首を押さえて『時計がない』アピールをすると、
「麻酔銃って」
と彼は笑いながら自身の腕時計を眺め、「今は六時十三分だね」と教えてくれた。
「ああーー!!やっぱりまだ時間、かかるよな…?皇子様の婚約者選び」
雅彦は両手で頭を抱えると、盛大なため息を吐いた。
「何か予定があるのかい?途中退室は認められていなかった筈だよ」
「や、それは受付で聞いてたし、どうせ駄目だろうと思ってたんだけどさ。
6時から今やってるソシャゲの、アルカナっていうヤツから採れる素材のドロップ率2倍イベントが来てて」
「それって、…もしかしてドラゴンズエレメントかい?」
彼は疑惑の中に確信が入り混じったような、不思議な表情で雅彦を覗き込んだ。
「そうそう、…もしかしてだけど、お前もやってるの?」
彼は大きく首を縦に振って肯定した。
「まじか!相撲に続いて、ドラエレまで!?
あのゲーム、そこまで有名じゃないのに。めっちゃ気が合うな!
そうだ、折角だしフレンド登録してくれよ」
柾彦はポケットに手を伸ばすと、デジタル腕時計と同じく、スマートフォンもクロークに預けていたのを思い出した。
「…悪い。スマホも今、預けてるんだった」
「だよね。…それなら」
彼はスーツのポケットからメモとペンを取り出してサラサラと文字を書くと、それを柾彦に渡した。
「これ、僕のHN。あとで検索して、メッセージを送ってもらえるかな?
変わった名前だから、すぐに見つかると思う」
渡されたメモを開くと、
he' sempai
そう、記されていた。
彼は、少し驚いた様子で柾彦の顔を見た。
「それ、国技館で売ってる、南富士のサイン刺繍入りハンカチだよな?
もしかして、相撲…好きだったり、する?」
彼は瓶底のようなレンズの奥にある小さな目を丸くして、一瞬キョトンとした様子だったが、
「ええーっ!!君、南富士関を知ってるのかい?」
すぐに歓喜に満ちた声色で、食い気味に柾彦へ訊ねた。
「そりゃそうだろ、だって今の西方の大関じゃん。逆に知らない奴、いんの?」
彼は「ははっ、そうか」と言って嬉しそうに笑いながらハンカチを畳むと、刺繍を柾彦に見せた。
「僕の周りで相撲に明るい者なんて爺やくらいだよ。
それに、すごいな…よくこれが国技館限定の、しかも南富士関モデルのだって判ったね」
「オレンジ色が南富士のだったかはうろ覚えだったけど、正解だったんだ?
俺、これの舞の浪のが欲しくて見てたし。ネット通販」
「君は、舞の浪関が好きなんだね」
柾彦は、濡れた手を自身のハンカチで拭きながらこくりと頷いた。
「俺が小学生の時、親父に国技館に連れて行ってもらった事があってさ。
力士って、大体みんな縦にも横にもでかいだろ?
その中で一人、背も低くて体も小さい力士が居て、これは負けるだろうと思ってたら、すばしっこく動いて…対戦相手はやっぱり大柄な力士だったんだけど、土俵に手を付けさせてさ、…勝ったんだよ。力を凌ぐ、技で。それが、舞の浪だった。
俺さ、自分も当時ちっこい方だったから…あ、今もそんな大きくないんだけど、勝手に自分と重ねて、痺れちゃって。
小さな躰で、でっかい敵に向かっていって、…しかもそれで勝つって、すっげーカッコよくない?
…それ以来、舞の浪が一番好きな力士だな」
そして僅かに湿ったハンカチをポケットに仕舞うと、自然と口元を綻ばせた。
「舞の波は、テクニックでパワーを補うタイプの力士の筆頭で、僕も毎試合楽しく見ているよ。珍しい決まり手が多いのも彼の特徴だね」
「そうなんだよ!さすが、よくわかってるな、お前…って、そういえば今、何時かわかるか?
俺の時計、安物なのにデジタルだからそれも電子機器ってことで回収されちゃってさ。麻酔銃が付いてる訳でもないのにな」
柾彦が左手首を押さえて『時計がない』アピールをすると、
「麻酔銃って」
と彼は笑いながら自身の腕時計を眺め、「今は六時十三分だね」と教えてくれた。
「ああーー!!やっぱりまだ時間、かかるよな…?皇子様の婚約者選び」
雅彦は両手で頭を抱えると、盛大なため息を吐いた。
「何か予定があるのかい?途中退室は認められていなかった筈だよ」
「や、それは受付で聞いてたし、どうせ駄目だろうと思ってたんだけどさ。
6時から今やってるソシャゲの、アルカナっていうヤツから採れる素材のドロップ率2倍イベントが来てて」
「それって、…もしかしてドラゴンズエレメントかい?」
彼は疑惑の中に確信が入り混じったような、不思議な表情で雅彦を覗き込んだ。
「そうそう、…もしかしてだけど、お前もやってるの?」
彼は大きく首を縦に振って肯定した。
「まじか!相撲に続いて、ドラエレまで!?
あのゲーム、そこまで有名じゃないのに。めっちゃ気が合うな!
そうだ、折角だしフレンド登録してくれよ」
柾彦はポケットに手を伸ばすと、デジタル腕時計と同じく、スマートフォンもクロークに預けていたのを思い出した。
「…悪い。スマホも今、預けてるんだった」
「だよね。…それなら」
彼はスーツのポケットからメモとペンを取り出してサラサラと文字を書くと、それを柾彦に渡した。
「これ、僕のHN。あとで検索して、メッセージを送ってもらえるかな?
変わった名前だから、すぐに見つかると思う」
渡されたメモを開くと、
he' sempai
そう、記されていた。
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