【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

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日乃本 義に手を出すな 番外篇

番外篇 参 修羅場 弐

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 日乃本ひのもと ただしが着替えたのは、柾彦の部屋着と大して変わり映えのしない、地味な色のスウェットだった。

「なんか意外だな。金持ちの部屋着ってシルクのバスローブみたいなのだと思ってた」
「柾彦がシルクのバスローブのほうが良いと言うなら、そちらに着替えるよ」
「全然。よく似合ってるぞ、スウェット」
 
 再び脱衣するのを阻止すべく言った柾彦のお世辞を真に受けた日乃本 義は、大層嬉しそうに顔をにやつかせた。

 柾彦はあらためて、日乃本 義のスウェット姿を見た。
 先程は適当に褒めてみたが、日乃本 義はゆったりとしたシンプルな上下のセットを着こなしており、ナイトウェアの新作発表会に登場したモデルのようだった。……本人には絶対、そんな事言わないが。

 その後柾彦は、日乃本 義に「お揃いだよ♡」と、その場で同じものに着替えるように促されたが固辞し、時間を忘れて『ドラゴンズエレメント』を一緒にプレイした。日乃本 義のアフロディーテは無事、最大レベルレベルマになった。

 
「……ただし様、そろそろご就寝された方が。
 明日は東喬とうきょう大神宮と、茨樹いばらきにある柾彦様のご実家に行くのでは?」

 栗山が日乃本 義に声を掛けると、柾彦の指示を受けながら次のキャラクターのスキル上げ専用デッキを編成していた彼は、「もう少しだけ」とスマートフォンの画面を見ながら答えた。
 
「おい未成年、寝るぞ」
「これが終わったら、一緒に寝よう」
「お前と同衾どうきんするつもりはない」
「それじゃあ、君はどこで寝るつもりなんだい?
 ……柾彦と一緒に寝るつもりでいたから、君の部屋を用意していないよ」

 まいなみの手形入りサイン色紙に惹かれて日乃本 義の部屋へと来てしまったが、確かにその後のことは何も聞かされていなかった。

「……ソファーで寝る。最悪地べたでもいい」
「駄目だよ、仮にも君は僕の婚約者だ。そんな事させる訳にいかない。
 僕も今日はもう寝るから……ほら早く、着替えて?」

 すぐ近くに置いていたのだろうか、日乃本 義はスマートフォンを伏せると、先ほど固辞したお揃いのスウェットをずい、と柾彦のもとへ差し出した。
 助けてくれ、と言わんばかりに柾彦が桃山と栗山のほうへ視線を泳がせると、
 
「安心してくださいね~、柾彦様にはちゃんと別室を用意してますから。俺が案内します。
 義様、いい加減にしないと本当に嫌われてしまいますよ?」

 桃山が呆れ顔で日乃本 義に声を掛けると、日乃本 義はひどく面白くなさそうな表情をした。

 部屋を用意したのは日乃本 義自身ではなくだから、『部屋を用意していない』などと言ったのか。
 柾彦は日乃本 義は勿論の事、ひどく杜撰ずさんな言葉の綾に惑わされた自分に対しても憎らしさを感じた。

「日乃本 義、お前の好感度が下がったわ」
、持っててくれてたんだね?」
「今はゼロだ‼︎」

 日乃本 義は形の良い唇に弧を描くと、柾彦の手を取った。
「大丈夫。今日だってゼロからここまで来たんだ。
 柾彦、好きだよ。君にも同じ気持ちになってもらう為に、僕は何だってする」
「何だってしてくれるなら、今すぐその手を離せ」
「いいよ、好きになってくれたら」
「お前、いい加減に」
 
 突如、柾彦の手が、日乃本 義の軽い口付けを受けて解放された。

「何してんだ!バカ‼︎」
「ふふ、……僕はずっと、好きな相手に子供じみたちょっかいを掛ける奴らを莫迦ばかだと思ってきたけど、どうやら自分にもそのがあるみたいだ。
 困らせてごめん。――おやすみ、柾彦」

 また飄々と翻弄してくるのかと思いきや、素直に謝った日乃本 義に、柾彦はこれ以上怒る気が失せてしまった。

「おう、おやすみ……また明日」
「また明日、ね」

 柾彦の言葉を反芻して味わうように言うと、日乃本 義は淡い微笑みを向けた。





 桃山に案内された別室は、高級リゾートホテルのようだった。風呂やトイレ、洗面台などが完備されており、柾彦は寝支度をそこで済ます事ができて非常に快適だった。
 
 たった一つ、
 
「これ、さっき日乃本 義が着てたのと同じやつ……」
 
 寝巻きが日乃本 義とお揃いである事を除いては。

 柾彦は渋々用意されていたスウェットに着替えると、そのまま大きめのベッドに潜り込んだ。
 ゆっくり沈み込むマットレスが柾彦の疲れた体を優しく支え、その心地よさに、あっという間に意識を手放した。






「――おはようございます、柾彦さま」
 
 柾彦がうっすら目を開けると、そこにはかっちりとした燕尾服を着用した、見知らぬ初老の男性が居た。

「……おはよう、ございます…?」

 寝ぼけ眼で柾彦が答えると、男性は柾彦に微笑みかけ、胸に手を当てお辞儀をした。

「お初にお目に掛かります、柾彦さま。
 私はただしさまの専属執事をしております、柿山かきやまと申します」




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