【本編完結】ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話

ういの

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番外編

EX1-3 ブレスレットの真意

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「なんて書いてあったの?」
 
 俺が訊ねると、「読む?」と言って、広げたメモを見せてくれた。

 メモ……というか手紙には、少し神経質な雰囲気を感じる文字が整然と、びっちり並んでいた。
 
 内容を要約する(と言ってもこれでも長い)と、ちょうど少し前にエドワードから婚約解消をしたい旨の書簡が届き、クルスのメンタルが心配で手紙を出そうか迷っていたところだった事だったり、ついでに慰謝料どうするかクルスに聞いた上でエドワードサイドに請求するつもりでいたけど、どうやらお互い様のようなのでしなくてマジで良かった事……あとは、クルスは一人っ子だけど王太子の婚約者だったから、それが解消された事で跡継ぎ問題も解決したから別にオッケー、むしろ光属性持ちのお婿さんが我が家に来るなんて大歓迎‼︎ 早く連れてこい的な事が書かれていた。

 想像の遥か上をいく寛容さとウェルカム具合に、俺はずいぶんと拍子抜けした。

「……普通さ、長年婚約関係にあった、しかも王太子殿下と結婚しましぇん‼︎ なんて言ったらもっと怒られるモンじゃない? こんな軽いノリでいいの?
 あと今更だけど俺とクルスってだいぶ身分差あるよね。俺、ここでは修道院出身の平民って事になってるし……そのへん大丈夫なの?」
「両親は元々、エドワードとの結婚は国が決めた事だし、なにより僕が彼に執着していたから乗り気ではないけど致し方なしと思っていたみたいなんだ。
 本当は気を遣わなくていい家柄の下級貴族の子息と結婚させたかったと話しているのを聞いた事もある。
 当時の僕はそれに気付かないフリをしていたけどね。
 あと、平民といってもしげるは稀有な光魔法の使い手だから、普通なら出自に関わらず貴族たちから結婚の申し受けが来るものだよ。エドワードやヘラルドがお前に構っていたから、他の奴らが手を出さなかっただけで」
「そうなのか……」

 ここでも『ご都合主義』の力が働いているのだろうか。専用に設えた箱でもあるかのように、全ての事が角を立てず、きれいに丸くおさまりすぎてる気がしなくもない。

「今頃父が、正式に婚約解消を了承した旨の手紙を国王宛に差し出している事だろう。
 ……まあ、エドワードならだろうとは思ってたけどね。
 だから、しげるは何の心配もしなくていいんだよ」

 クルスが手紙を折りたたみながら、したたかな笑みを浮かべた。やっぱりコイツ、悪役令息だわ。


 
 そして週末、俺は予定通りクルスのご両親に会いに行った。
 クルスはこれまたワイシャツ以外は全身真っ黒なスーツ、俺は正装を持ってないので制服をそれぞれ着用していった。
 クルスの自宅……というかお屋敷?は学園からまあまあ近い場所にあって頑張れば徒歩でも行けそうな距離だったが、ご両親が車を手配してくれていた。

 この世界では当然の事なのだが、クルスの母ちゃんは男だった。
 青紫色の瞳が印象的な猫顔の小柄な美人で、亜麻色の緩いウェーブのかかった長い髪をハーフアップにしていた。
 頭部だけ見るとすんげー美女だが、スーツ着てたし、しっかりと喉仏があった。あと手とかゴツい。
 父ちゃんの方は、ややあっさりとした顔立ちの、ノーブルな雰囲気を纏った韓流スターみたいな高身長のイケメンだった。――クルスは顔は母ちゃん、髪と瞳の色は父ちゃん似なんだな。美男美女……あっ、女はいないんだわ、美男一家である。
 
 ヨーロッパ風なだだっ広い客間で、俺はクルスのご両親に自己紹介する事になった。

「はじめまして…………コノハ・ゲーです……。
 クルスさんとお……、お付き合いをさせて頂いております」

 この世界で俺個人を特定する書類の全てが、公私問わず皆『コノハ・ゲー』なので、泣く泣く俺はこのふざけたハンドルネームのほうを名乗った。

 クルスの父ちゃんと母ちゃんが、キョトンとした表情でこちらを見ている……当然だ。
 恥ずかしさで消えてしまいたいという気持ちから、思わず顔を背けようとしたところで、クルスの母ちゃんが口を開いた。
 
「まあ!このハゲさん。今日は来てくださってありがとうございます~!
 私はクルスの母の、オリヴィアです。で、こっちが夫のジョセフ。
 どうぞ、自分の家だと思ってゆっくりしていって下さいね~」

 クルスの母ちゃんのオリヴィアさんは、可憐な見た目とのギャップがある、大阪のオバチャンみたいなノリの饒舌な人だった。
 そしてまた『このハゲ』呼ばわり。呪い、まだ解けてなかったりする?

 父ちゃんのジョセフさんも、一見怖そうな印象だったが、口数が少ないだけの穏やかな人だった。
 ジョセフさんからは「このハゲさん、せがれがいつもお世話になっております」と声を掛けられ、「いえいえ、むしろいつもお世話されています」と答えたら、アイドルのようなキラキラとした笑顔を向けられた。
 ジョセフさんも俺の事、このハゲって呼ぶんだな……(泣)

 
「あら、このハゲさん。そのブレスレット……」

 自己紹介も終わり、いつぞやに経験した午後の紅茶的な時間を4人で過ごしていると、俺のブレスレットに気付いたオリヴィアさんに声を掛けられた。

「ああ、これ。クルスがくれたんです」

 着けていると、俺がピンチの時にクルスが助けに来てくれる……。
 こうやって考えてみると、なんだか高齢者のバイタル見守り機能付きの腕時計に似てるな、このブレスレット。仕組みはよくわからないけれど……。

「どうやらこれで俺の心拍とか、血中酸素濃度とかをクルスが把握してくれてるっぽいんです」
「ぶふっ」
 
 飲んでいた紅茶が気管でも入ったのか、ジョセフさんが苦しそうに咳き込みだした。

「ちょっと…クルス!貴方、このハゲさんに、なんと言ってブレスレットを渡したの!」
「…………」

 オリヴィアさんが、笑いをかみ殺した震え声でクルスに訊くと、クルスは気まずそうにふいと母親から目を背けた。
 
「え、これお守り以外の機能も付いてるの⁉︎」
「このハゲさん、これはね」
「母さん!」

 クルスが大声で、オリヴィアさんを制した。

ブレスレットこれについては、いずれ僕の口から彼に説明するから……!」

 オリヴィアさんは驚いた様子だったが、ゆっくりと目を細めると小さく「そう」と言って、これ以上ブレスレットについて言及することはなかった。
 
 クルスのご両親は、終始丁寧に俺をもてなしてくれた。そして帰り際に「クルスをよろしくお願いします」と言って、車に乗った俺たちを見送った。

 帰りの車中、クルスにブレスレットの機能について訊ねてみたが、「その時がきたら教える」の一点張りで、その後もふと思い出しては同じように訊いてみるも、答えは一緒だった。
 


 俺の着けていたブレスレットが、代々クルスの家に伝わる非常に希少価値の高い『黒晶石こくしょうせき』という魔石をクルス自身が加工して作ったもので、それを身につけている者は自分の『お手付き』だと周囲に知らしめる為のものである事、さらに正式に結婚が決まった暁には、結婚指輪として加工し直した上で再度渡されるものである事を知るのは、今から一年とちょっと経った頃、宮廷魔術士となったクルスから正式にプロポーズをされるタイミングであるというのを、この時の俺は、まだ知る由もない。

 


 番外編 1 おわり

 次の番外編は、クルスの中の人にちょっと関係する話です。



 
 
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