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番外編
EX1-2 展開早すぎんだろ
しおりを挟む「えっ……昨日、告白して……? んでもってセッ……して、それで今日、……プロポーズ?」
「うん」
「早くね? ……って、痛ーッ‼︎」
腰が痛いのを忘れて思わず布団から飛び起きると、予想できたはずの痛みがケツから腰上へと駆け抜けていった。
にしても、人生ここだけピンポイントにダイジェスト過ぎんだろ。
クルスの奴、生き急ぎすぎだろ。
「しげるが持ってきた薬塗る?
さっき見た感じだと切れてる所はなかったけど」
「げっ、ケツの穴見たの⁉︎ ……って今はそれより!」
俺は結婚誓約書のほうをクルスにそっと返した。突き返したらなんとなく哀しそうな顔しそうだなと思ったから、そっと。
「結婚って、まず……交際期間を経てお互いを色々知ってから、家族にも紹介し合ったりして、あ、俺は家族いない設定なんだっけ? そのへんはまあ、置いといて。
で……、さらに一緒に住んだりして、その上で『ああ、ずっと死ぬまで一緒に居たいなァ』って思った上でするもんじゃないの⁉︎」
「僕は、しげると死ぬまで一緒に居たいと思ってるけど」
ありがとうね⁉︎ 俺もだよ‼︎
でも今それを言ったら「なら書いて」となりそうなのでグッと堪える。
「今はそう思ってくれてるんだろうけど、この先はわからないじゃん?
それにお前……元々はエドワードが好きだったんだろ?」
「…………っ」
クルスが言葉を詰まらせた。ごめん。あんまり言いたくなかったんだけどさ。
暫くすると、クルスが気まずそうに語り出した。
「エドワードに関しては、元の体の持ち主が執着していて、僕もそれに流される形で好きだという錯覚を起こしていたんだと思う」
「元の体の、持ち主……?」
クルスはこくん、と頷くと、攻略ガイドの最後の方のページを開いた。
そこにはゲームに携わったスタッフとキャストの名前が小さな字でずらりと並んでおり、メインキャストの少し下の方に、クルス役のキャストとして『来栖 浬』という名前が記されていた。
「これ、……俺が、字幕で見たやつだ!
実はさっき、お前にもエドワード達と同じ選択肢の画面が一瞬見えて……その時の名前がこの漢字だった」
「そうか……。『来栖 浬』……声優をしていた時の自分を『本当の僕』と言っていいなら、僕もしげると同じ、いわゆる転生者だ。
この体が8歳くらいの時に、僕は記憶がすっかり抜け落ちた状態で公爵令息の『クルス』として目が覚め、そこから一気に元の体の持ち主の記憶が流れ込んできたんだ。その中には勿論、エドワードとの思い出や彼に対する思慕も含まれていた。
でも当時はこれが『僕』自身の記憶なんだろうと思っていて、その記憶を頼りに過ごしてきた。エドワードに対する恋愛感情も、僕自身のものなのだと……だけど、ずっと違和感はあったんだ。
しげるの事が好きだと気付いた時、すぐにその違和感の正体がわかった。エドワードの事が好きだったのは、僕ではなく、僕の中に息づく元々の『クルス』だったという事に。……もっとも、そっちの『クルス』も、その時にはだいぶお前に靡いていたようだけどな。なんとなくわかるんだ。
そしてお前が貸してくれた攻略ガイドに小さく『来栖 浬』の名前を見付けた瞬間……僕自身も本当の名前と記憶を取り戻した。
だから、『僕』が好きになったのは、しげるだけだよ。信じてほしい」
長いモノローグの後、クルスは攻略ガイドをベッドの脇に置くと、俺が差し出した結婚誓約書を受け取った。
衝撃的な告白だったが、それを口にする本人がパンイチなものだから、ちゃんと服着てる時に言ってほしかったと少し思ってしまった。
まあクルスの中の人が本当は来栖サン?とかいう声優だろうが、(実年齢は気になるところだけど)俺がクルスを好きな気持ちに変わりはないし、自分だけと言われて悪い気はしない……むしろ嬉しかったけどさ。
どうしたものかと思いながら結婚誓約書を見ていると、視線に気が付いたクルスが口を開いた。
「ごめん。しげるの気持ちが固まるまで、結婚誓約書は書かなくていい。
ただ、いずれは……そうだな、来週にでもこちらの世界の両親と会って貰えないかな?しげるの事を紹介したいんだ」
「だから展開早くない⁈」
「……駄目か?」
段ボールに捨てられた仔猫の様な目がこちらに向けられる。……ずるいぞ、そんな顔をされたらノーと言えないじゃないか……中身おっさんかもしれないけれど。
「だっ、駄目とは言わないけど」
「じゃあ早速両親に手紙を認めてくるね」
クルスは俺の頬に軽く口付けると、どこからか暖かそうなガウンを取り出すとそれを羽織り、勉強机に向かって上機嫌な様子で手紙を書き始めた。
いや……だから、展開早くない……?
クルスは手紙を書き終えると、封筒に向かって何かを唱えた後、紙飛行機のように窓から外へと手紙を投げた。
「何してんの⁈」
「両親に手紙を出したんだよ」
クルスは再び布団に戻ると、俺の考えを察したのか「魔法で僕の家まで飛ぶようにしただけだから」と言って笑った。
窓のすぐ下に、奴のご両親が待機している訳ではなかった。
「早ければ一時間くらいで返事が来ると思うよ」
……バイク便もビックリの早さである。
その後、交際届の記入と引き換えに服を用意しろとクルスを脅してなんとか部屋着を取り戻し、椅子の上にクッションを敷いて(ケツ痛い)交際届に必要事項を記入していると、開け放たれていた窓からカラスがもの凄い勢いで突っ込んできて思わずビクッとなる。
「カラス‼︎」
「ぴよ太郎だ」
「ぴよたろう」
クルスは壊滅的なセンスのお名前のカラス・ぴよ太郎の足に括り付けられていた小さなメモを取り外すと、「よしよし」と言って体を撫でた。
ぴよ太郎は嬉しそうに喉を鳴らすと、颯爽と窓の外へと飛び去っていった。
クルスがメモを広げてさらりと眺めると、俺の方に向き直って言った。
「返事、来た」
「早くね⁉︎」
クルスが手紙を窓の外へとぶん投げてから、わずか30分ほどの出来事だった。
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