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2度目の生き様
南へ
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「この先の道を真っ直ぐすすめば、紅炎国だよ、流衣さま」
東の竜星国と南の紅炎国とを結ぶ森の道。常とは違い閑散としたその道は、森の中とはいえ確りと整備されており、馬車ですらすれ違うことの出来る広さを有している。
そこを南へと目指しながら道案内をしているのは、癖のある空色の髪を腰まで無造作に下ろし、浅葱色の瞳をした美青年。不意に見せるその仕草からは、噎せ返るような色気が感じられる。
「あと何日で到着出来るでしょうか?清水。」
流衣は道の向こうを見遣り、空色青年─清水─に問いかけた。
しかし、その質問に答えたのは、おなじ道をゆくもう1人であった。
「今まで通りのペースで行くならば、あと2日もあれば紅炎国東門に辿り着けるはずだ。・・・流衣さま、疲れてはいないか?」
穏やかなバリトンで問いかけるのは、夜空を切り取ったかの様な、漆黒の膝まで届く長髪を、毛先に近い位置で纏めた青年。深い千歳緑の瞳を流衣に向け、どんな異変も見逃すまいと、視線を動かしている。そんな彼もまた、清水や流衣の隣に立っていても違和感がまるで無い程の美丈夫である。
「大丈夫ですよ、静磨。貴方達が適度に休憩させてくれているので、余裕が持てていますから。」
柔らかな笑顔を漆黒の青年─静磨─達2人に向け、癒えかけの傷を包帯と衣の上から撫でた。
「それに、私にはこれも有りますし。」
流衣が右手で掲げて見せたのは、彼が身に纏う衣と同じ月白色の杖。4尺程の長さのそれは、月と竜、桜の花の彫りがなされ、最上部には金春色の玉が煌めいている。
「創りこそ最高峰に美しいが、使い途を知るものは下手なことは仕掛けては来ないだろう。」
杖を見遣りながら、好戦的に口角を上げる静磨に、呆れながらも同意の声が挙がる。
「確かに。殺傷能力は相当なものだし、使い手が流衣さまだからね。流衣さまの杖術の腕前はかなりのものだ。嘗めてかかったら、身の破滅がまっているね。」
そんな言葉を交わす2人に、流衣は困ったように微笑んだ。
「確かにこの杖、月代は武器ではありますが・・・今は歩行の補助具としての役割を話したのですが・・・」
そう。この杖の名は『月代』。竜星国の大神殿に太古より伝わる、神具という位置づけにある程の逸品である。本来ならば神殿の宝物庫に無ければならない、御神体レベルの宝なのだ。
皇子とはいえ何故流衣が持っているかと言うと、生まれて直ぐの洗礼の儀のおり、月代自身が勝手に現れ、流衣から離れなくなったのだ。宝物庫に戻しても戻しても、いつの間にか流衣の元に現れる。
その後、神殿に伝えられた伝説から、流衣が月代に主と認められたと公になったのである。
それ以来、6寸程度まで伸縮自在なお役立ち武器として、流衣に愛用されている。
・・・勿論、歩行の補助として。
・・・結構な頻度で武器としても使用しているが。
そのまま暫く歩き続け、少し開けた場所にたどり着いた為、休憩となった。
静磨から手渡されたティーカップ両手で包む様に持ち、ゆっくりと味わいながら、流衣は2人に問うた。
「・・・貴方達は、本当に私に付いて来て良かったのですか?いくら主従契約しているとはいえ、貴方達は各々の一族の王でしょう。民からの反発はあったはずです。・・・貴方達が一緒に来てくれて、私個人としては喜ばしいですが。」
あくまでも静かに、落ち着いた流衣の声音に、2人は同時に動きを止め、流衣の前に跪いた。
「私達の主は、後にも先にも流衣さま、貴方お1人。我が民のことはお気になさいますな。私は森の王、静磨。森に住まうものを統べる者。我が意思に異論は挟ませません。それに、民からは決して貴方から離れるなと、念を入れられて参りました。何があっても、貴方を護れ、と脅されて参りました故。」
「同じく、ですね。私の立場は海の王。海に住まうものを統べる者。女性を愛でる事が多く、『花愛でる蝶王』等と言われる事もありますが、決して嘗められてはおりませぬ。我が意思は海の意思。静磨と同じく、民からは貴方から死んでも離れるな。守りきれ、と、恐ろしい目と気配で、海の里を蹴り出されて参りました。」
『だから、貴方様が我らに罪悪感を感じる必要は有りませぬ。・・・ご心配めされるな。王としての職務は、決して放棄したり致しませぬ。』
2人の真摯な眼差しに、流衣はフッと肩の力を抜き、跪いた2人に手を差し伸べた。
「・・・分かりました。もう、何も言いません。こちらに座ってください。出来れば、いつも通りの口調でお願いします。・・・・・・・・・誇り高き森と海の民に、最上級の感謝を。そして彼らの偉大なる王2人に、最上級の信頼を。」
流衣のその言葉に、2人は一度深く礼をし、元の位置に座り直した。
そしてティーカップを掲げて軽く触れ合わせる。
『私達の新たな旅立ちと、誇らしき我らが民に!・・・乾杯!!』
東の竜星国と南の紅炎国とを結ぶ森の道。常とは違い閑散としたその道は、森の中とはいえ確りと整備されており、馬車ですらすれ違うことの出来る広さを有している。
そこを南へと目指しながら道案内をしているのは、癖のある空色の髪を腰まで無造作に下ろし、浅葱色の瞳をした美青年。不意に見せるその仕草からは、噎せ返るような色気が感じられる。
「あと何日で到着出来るでしょうか?清水。」
流衣は道の向こうを見遣り、空色青年─清水─に問いかけた。
しかし、その質問に答えたのは、おなじ道をゆくもう1人であった。
「今まで通りのペースで行くならば、あと2日もあれば紅炎国東門に辿り着けるはずだ。・・・流衣さま、疲れてはいないか?」
穏やかなバリトンで問いかけるのは、夜空を切り取ったかの様な、漆黒の膝まで届く長髪を、毛先に近い位置で纏めた青年。深い千歳緑の瞳を流衣に向け、どんな異変も見逃すまいと、視線を動かしている。そんな彼もまた、清水や流衣の隣に立っていても違和感がまるで無い程の美丈夫である。
「大丈夫ですよ、静磨。貴方達が適度に休憩させてくれているので、余裕が持てていますから。」
柔らかな笑顔を漆黒の青年─静磨─達2人に向け、癒えかけの傷を包帯と衣の上から撫でた。
「それに、私にはこれも有りますし。」
流衣が右手で掲げて見せたのは、彼が身に纏う衣と同じ月白色の杖。4尺程の長さのそれは、月と竜、桜の花の彫りがなされ、最上部には金春色の玉が煌めいている。
「創りこそ最高峰に美しいが、使い途を知るものは下手なことは仕掛けては来ないだろう。」
杖を見遣りながら、好戦的に口角を上げる静磨に、呆れながらも同意の声が挙がる。
「確かに。殺傷能力は相当なものだし、使い手が流衣さまだからね。流衣さまの杖術の腕前はかなりのものだ。嘗めてかかったら、身の破滅がまっているね。」
そんな言葉を交わす2人に、流衣は困ったように微笑んだ。
「確かにこの杖、月代は武器ではありますが・・・今は歩行の補助具としての役割を話したのですが・・・」
そう。この杖の名は『月代』。竜星国の大神殿に太古より伝わる、神具という位置づけにある程の逸品である。本来ならば神殿の宝物庫に無ければならない、御神体レベルの宝なのだ。
皇子とはいえ何故流衣が持っているかと言うと、生まれて直ぐの洗礼の儀のおり、月代自身が勝手に現れ、流衣から離れなくなったのだ。宝物庫に戻しても戻しても、いつの間にか流衣の元に現れる。
その後、神殿に伝えられた伝説から、流衣が月代に主と認められたと公になったのである。
それ以来、6寸程度まで伸縮自在なお役立ち武器として、流衣に愛用されている。
・・・勿論、歩行の補助として。
・・・結構な頻度で武器としても使用しているが。
そのまま暫く歩き続け、少し開けた場所にたどり着いた為、休憩となった。
静磨から手渡されたティーカップ両手で包む様に持ち、ゆっくりと味わいながら、流衣は2人に問うた。
「・・・貴方達は、本当に私に付いて来て良かったのですか?いくら主従契約しているとはいえ、貴方達は各々の一族の王でしょう。民からの反発はあったはずです。・・・貴方達が一緒に来てくれて、私個人としては喜ばしいですが。」
あくまでも静かに、落ち着いた流衣の声音に、2人は同時に動きを止め、流衣の前に跪いた。
「私達の主は、後にも先にも流衣さま、貴方お1人。我が民のことはお気になさいますな。私は森の王、静磨。森に住まうものを統べる者。我が意思に異論は挟ませません。それに、民からは決して貴方から離れるなと、念を入れられて参りました。何があっても、貴方を護れ、と脅されて参りました故。」
「同じく、ですね。私の立場は海の王。海に住まうものを統べる者。女性を愛でる事が多く、『花愛でる蝶王』等と言われる事もありますが、決して嘗められてはおりませぬ。我が意思は海の意思。静磨と同じく、民からは貴方から死んでも離れるな。守りきれ、と、恐ろしい目と気配で、海の里を蹴り出されて参りました。」
『だから、貴方様が我らに罪悪感を感じる必要は有りませぬ。・・・ご心配めされるな。王としての職務は、決して放棄したり致しませぬ。』
2人の真摯な眼差しに、流衣はフッと肩の力を抜き、跪いた2人に手を差し伸べた。
「・・・分かりました。もう、何も言いません。こちらに座ってください。出来れば、いつも通りの口調でお願いします。・・・・・・・・・誇り高き森と海の民に、最上級の感謝を。そして彼らの偉大なる王2人に、最上級の信頼を。」
流衣のその言葉に、2人は一度深く礼をし、元の位置に座り直した。
そしてティーカップを掲げて軽く触れ合わせる。
『私達の新たな旅立ちと、誇らしき我らが民に!・・・乾杯!!』
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