中島と暮らした10日間

だんご

文字の大きさ
上 下
14 / 53

14 中島4日目。話せば楽かも

しおりを挟む
 「はぁ……」

 午前中の内に各営業所へ納品しまくって、現在書類整理中……
 さっさと終わらせて、定時に帰りたい所だが……帰った所で何ができるのやら……

 「はぁ……」

 タメ息しか出て来ない……

 「……ちょっと、田中君」

 「あっ、はい、課長」

 「なんだか浮かない表情だけど、何かあったのかい?」

 「いえ……」

 「そうかい?まぁ話たくなったら、いつでも聞くからね?」

 「はい……」

 ……中島が気になって仕方ないとは、言えませんよ……

 「……はぁ」

 「……どんなことでも、いいからね?話をして、スッキリする事だってあるからね?」

 心なしかソワソワしている課長……
 チラチラと佐々木さんとアイコンタクトを取っている。
 ……そんなに心配をかけてしまっていたのか。

 「……どんな事でも、大丈夫でしょうか?」

 「っ?! もちろん!どんな事でも大丈夫だよっ!!」

 そっか……言ってしまえば良かったかぁ。
 話を聞いてくれる人がいる……自分、恵まれてるな。

 「実は、中島……いえ、家に預かった生き物の具合が悪いようで……それが心配でして……」

 「えっ?! 本当に?! 確か、独り暮しだよね? 家空けて大丈夫だった?休んで良かったんだよ?!」

 「そうですよ!! 田中さん!! ペットも家族ですよっ!!」

 ペットも家族……
 ……中島もペットに含まれるのだろうか?

 「いえ、ペットと言うかなんと言うか……」

 「えっ?ペットじゃないのですか?」

 「えっ?中島って……人、とかかい?」

 中島……人っぽい名前だもんな……
 公園の名前なんだけども。

 「いえ、あの、小さい生き物で……」

 「ハムスターとか、かい?」

 「小鳥とか?」

 中島に毛とか羽とか無いです。まだ。

 「いえ、もっと小さくて……」

 「えっ?ミジンコとか?」

 一気に小さくなったなぁ?!
 誰が飼うんだよミジンコ!!

 「田中君。キミが預かった生き物って、ズバリなんだい?」

 ズバリで行きますか……言いづらい……
 期待の眼差しを向けられても……
 言いづらい……
 けど、解決の糸口があるかもしれないしな。

 「ぁぉ……です……」

 「「え、何て?」」

 「青虫……です」

 「「え、何て?」」

 あれ?聞こえてない事、ない音量のはずだけど……

 「青虫です」

 「「えっ?」」

 「青虫だってばぁ~」

 「あっ、いや、聞き間違えじゃないんだなぁって……」

 「ビックリしちゃって……」

 「青虫かぁ……」

 「青虫なんですねぇ……」

 あぁ……2人して遠い所見てる……
 どんな事でもいいって言ったじゃん……
 ペットは家族なんでしょ……?
 
 「いや……人には、色々好みがあるもんだよねぇ……」

 「ですねぇ……青虫好きって、人も……いますよねぇ……」

 「待って待って待って?自分は預かっただけで、青虫系統は大嫌いですからね?!」

 「田中君、青虫苦手だったのかぁ」

 「田中さん、苦手なものあったんですねぇ」

 えっ?ちょっと?
 何これ?何これ?
 何の暴露大会?
 どんどん傷を負ってる気がするんだけど?
 その生暖かい眼差し、止めて貰っていいですか?!
 もぅ……勘弁してくれぇ……

 「まぁ、はい。預かったからには、指定の餌を与えてたんですが……どうも様子がおかしくて、気になってたんです」

 「そうだったんだね……大変だったねぇ」

 「それより、様子がおかしいって、どんな様子なんですか?」

 「ほとんど動かなかったんですが、今朝見たら横たわってたんですよ……それが気になって気になって……」

 「「えっ?」」

 「えっ?」

 「えっ?いや、青虫って、よく横たわってない?」

 「えっ?そうなんですか?」

 「普通に地面にいる時って、横たわってません?」

 「そうなの?! 自分、あんまり詳しく見てなかったから、てっきり……」

 「そっか、田中君は苦手だから、余りじっくり見てなかったんだろう」

 「そうですよ~。青虫が横たわってるのは普通ですよ」

 なんだ……そっか。
 普通の事だったのか……
 いや、ビックリ。
 またいらない恥かいちゃったよ。

 「それを聞いて安心しました。なんか恥ずかしいですねぇ……てっきり、青虫が足全部横に見せて横たわるのが、緊急事態かと思って、慌てちゃいましたよ~」

 「……それは、緊急事態、だねぇ」

 「……ですねぇ」

 「えぇっ?! どっち?!」

 「いや、てっきり青虫って葉っぱでじっとしているし、普通の状態が横たわっているもんだと思ってね?」

 「私もそう思ってました」

 自分の説明不足が招いた誤解だった。

 「……と言う事は、緊急事態なんですね?」

 「だね……」

 「ですねぇ……」

 振り出しに戻った。

 「青虫なんて詳しくなくて、でも預かった手前、どうしたものかと困っていたんですよ……」

 「そうだったんだねぇ。本当にお疲れ様だねぇ」

 「はい……疲れました……」

 「預けた方に連絡してみてはどうですか?中島さんでしたっけ?」

 「あっ……その手があったか。慌て過ぎて忘れてました……あっ、中島は青虫の名前です」

 「青虫の名前……」

 「中島……」

 「相談にのって頂いて、ありがとうございました。まず電話してみます」

 「あっ……うん、どういたしまして」

 「あはは……良かったですぅ~」

 薫に心配かけちゃ悪いと思って、電話しなかったけど。
 アイツが飼い主だもんな。
 ちゃんと伝えておかないとな。
 研修とか、そんなんで京都行ってる訳じゃないし。
 アイツの方が詳しいもんな。
 そうしよう。
 帰ったら、すぐ電話だな。
 まずは、書類仕事終わらせてしまおう。

 「佐々木さん。世の中って変わった人がいるもんだねぇ」

 「ですねぇ……青虫に中島って……付けた人のキャラが濃いですね」

 「だねぇ……てっきり仕事で悩んでるかと思ってたし」

 「ですねぇ……」

 「青虫かぁ……まぁ、困っていたらまた話してくれるといいねぇ」

 「ですねぇ……田中さん、自分の事あまり話しませんからねぇ……けど、青虫……」

 「中島かぁ……」

 「中島なんですねぇ……」

 「「……」」


 その日、会社に何かの爪痕を残しつつ、定時に帰宅した。




しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

プラカーシュの首

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

猫と私の不思議な生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:48

人はじゃがいも、社会はじゃがいも畑

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...