中島と暮らした10日間

だんご

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14 中島4日目。話せば楽かも

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 「はぁ……」

 午前中の内に各営業所へ納品しまくって、現在書類整理中……
 さっさと終わらせて、定時に帰りたい所だが……帰った所で何ができるのやら……

 「はぁ……」

 タメ息しか出て来ない……

 「……ちょっと、田中君」

 「あっ、はい、課長」

 「なんだか浮かない表情だけど、何かあったのかい?」

 「いえ……」

 「そうかい?まぁ話たくなったら、いつでも聞くからね?」

 「はい……」

 ……中島が気になって仕方ないとは、言えませんよ……

 「……はぁ」

 「……どんなことでも、いいからね?話をして、スッキリする事だってあるからね?」

 心なしかソワソワしている課長……
 チラチラと佐々木さんとアイコンタクトを取っている。
 ……そんなに心配をかけてしまっていたのか。

 「……どんな事でも、大丈夫でしょうか?」

 「っ?! もちろん!どんな事でも大丈夫だよっ!!」

 そっか……言ってしまえば良かったかぁ。
 話を聞いてくれる人がいる……自分、恵まれてるな。

 「実は、中島……いえ、家に預かった生き物の具合が悪いようで……それが心配でして……」

 「えっ?! 本当に?! 確か、独り暮しだよね? 家空けて大丈夫だった?休んで良かったんだよ?!」

 「そうですよ!! 田中さん!! ペットも家族ですよっ!!」

 ペットも家族……
 ……中島もペットに含まれるのだろうか?

 「いえ、ペットと言うかなんと言うか……」

 「えっ?ペットじゃないのですか?」

 「えっ?中島って……人、とかかい?」

 中島……人っぽい名前だもんな……
 公園の名前なんだけども。

 「いえ、あの、小さい生き物で……」

 「ハムスターとか、かい?」

 「小鳥とか?」

 中島に毛とか羽とか無いです。まだ。

 「いえ、もっと小さくて……」

 「えっ?ミジンコとか?」

 一気に小さくなったなぁ?!
 誰が飼うんだよミジンコ!!

 「田中君。キミが預かった生き物って、ズバリなんだい?」

 ズバリで行きますか……言いづらい……
 期待の眼差しを向けられても……
 言いづらい……
 けど、解決の糸口があるかもしれないしな。

 「ぁぉ……です……」

 「「え、何て?」」

 「青虫……です」

 「「え、何て?」」

 あれ?聞こえてない事、ない音量のはずだけど……

 「青虫です」

 「「えっ?」」

 「青虫だってばぁ~」

 「あっ、いや、聞き間違えじゃないんだなぁって……」

 「ビックリしちゃって……」

 「青虫かぁ……」

 「青虫なんですねぇ……」

 あぁ……2人して遠い所見てる……
 どんな事でもいいって言ったじゃん……
 ペットは家族なんでしょ……?
 
 「いや……人には、色々好みがあるもんだよねぇ……」

 「ですねぇ……青虫好きって、人も……いますよねぇ……」

 「待って待って待って?自分は預かっただけで、青虫系統は大嫌いですからね?!」

 「田中君、青虫苦手だったのかぁ」

 「田中さん、苦手なものあったんですねぇ」

 えっ?ちょっと?
 何これ?何これ?
 何の暴露大会?
 どんどん傷を負ってる気がするんだけど?
 その生暖かい眼差し、止めて貰っていいですか?!
 もぅ……勘弁してくれぇ……

 「まぁ、はい。預かったからには、指定の餌を与えてたんですが……どうも様子がおかしくて、気になってたんです」

 「そうだったんだね……大変だったねぇ」

 「それより、様子がおかしいって、どんな様子なんですか?」

 「ほとんど動かなかったんですが、今朝見たら横たわってたんですよ……それが気になって気になって……」

 「「えっ?」」

 「えっ?」

 「えっ?いや、青虫って、よく横たわってない?」

 「えっ?そうなんですか?」

 「普通に地面にいる時って、横たわってません?」

 「そうなの?! 自分、あんまり詳しく見てなかったから、てっきり……」

 「そっか、田中君は苦手だから、余りじっくり見てなかったんだろう」

 「そうですよ~。青虫が横たわってるのは普通ですよ」

 なんだ……そっか。
 普通の事だったのか……
 いや、ビックリ。
 またいらない恥かいちゃったよ。

 「それを聞いて安心しました。なんか恥ずかしいですねぇ……てっきり、青虫が足全部横に見せて横たわるのが、緊急事態かと思って、慌てちゃいましたよ~」

 「……それは、緊急事態、だねぇ」

 「……ですねぇ」

 「えぇっ?! どっち?!」

 「いや、てっきり青虫って葉っぱでじっとしているし、普通の状態が横たわっているもんだと思ってね?」

 「私もそう思ってました」

 自分の説明不足が招いた誤解だった。

 「……と言う事は、緊急事態なんですね?」

 「だね……」

 「ですねぇ……」

 振り出しに戻った。

 「青虫なんて詳しくなくて、でも預かった手前、どうしたものかと困っていたんですよ……」

 「そうだったんだねぇ。本当にお疲れ様だねぇ」

 「はい……疲れました……」

 「預けた方に連絡してみてはどうですか?中島さんでしたっけ?」

 「あっ……その手があったか。慌て過ぎて忘れてました……あっ、中島は青虫の名前です」

 「青虫の名前……」

 「中島……」

 「相談にのって頂いて、ありがとうございました。まず電話してみます」

 「あっ……うん、どういたしまして」

 「あはは……良かったですぅ~」

 薫に心配かけちゃ悪いと思って、電話しなかったけど。
 アイツが飼い主だもんな。
 ちゃんと伝えておかないとな。
 研修とか、そんなんで京都行ってる訳じゃないし。
 アイツの方が詳しいもんな。
 そうしよう。
 帰ったら、すぐ電話だな。
 まずは、書類仕事終わらせてしまおう。

 「佐々木さん。世の中って変わった人がいるもんだねぇ」

 「ですねぇ……青虫に中島って……付けた人のキャラが濃いですね」

 「だねぇ……てっきり仕事で悩んでるかと思ってたし」

 「ですねぇ……」

 「青虫かぁ……まぁ、困っていたらまた話してくれるといいねぇ」

 「ですねぇ……田中さん、自分の事あまり話しませんからねぇ……けど、青虫……」

 「中島かぁ……」

 「中島なんですねぇ……」

 「「……」」


 その日、会社に何かの爪痕を残しつつ、定時に帰宅した。




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