50 / 53
50 早すぎる
しおりを挟む
長い冬が終わって、春が来た。
と言っても、4月に入ってしばらくたったが、まだまだ寒い。
けど、ダウンはしまって薄手のジャケットでも平気かな?位には暖かくなってきた。
咲ちゃんは札幌の勤務についたし。
自分も営業から事務職に変わった。
転勤の可能性が全国区に広がった。
もしかしたら、咲ちゃんの転勤にシンクロ出来るかもしれない……逆もしかり。
まぁ、その時考える事にするよ。
あと、弟と2人暮らしが始まったな。
高校に通うのがシンドイらしく、ここから通うそうだ。
まぁ、生活自体はあまり変わらんからね。
酔っぱらいが弟に迷惑かける位か?
それ位だ。
『カァ~カァ~カァ~!』
……ご近所さんも変わりない。
元気に羽ばたき、時に屋根で横飛びをしている模様。
今年も去年と同じ家族のままらしい。
自宅の庭の雪もすっかり消えて、中島の主食の八重桜の蕾もだいぶ大きくなってきた。
葉っぱが出始めれば、中島も安心して羽化出来る事だろう……
今日は珍しく雲が殆ど無いような青空が広がっている。
中島が来た辺りもこんな感じだったか。
いや、空の色が違ったなぁ。
まぁ、大変な事が連続で起こったけど、思い返せば笑い話になるってもんだ。
……これからどんどん暖かくなる。
色々大変になるだろうか?
まっ、人間誰しも『今』が1番大変だと思うもんだからね。
『前』に起きた大変な事よりも『今』直面している事が1番大変な事に思える。
だいたいの事が、そう思える。
過ぎてしまえば、たいした事じゃなくなるから不思議だよな。
……よっぽどの重大事件以外は。
「ん?電話か?」
庭でホコホコしていたら、薫からの電話だ。
また金欠だろうか?
『兄ちゃん、大変っ!!』
「どうした?食料不足か?」
『あっ、レトルト系が欲しいのもあるけど……中島が大変っ!!』
食料不足も確実らしい。
「中島、まだサナギだろ?まさかカビ問題じゃ」
『いや、中島羽化しちゃったんだよっ!!』
「はぁっ?!まだ桜だって咲いて無いぞっ?!」
『そうなんだけどさ……なんか部屋の隅でバタバタ音がしてたから、出して見たら羽化してたんだよ……』
まさかの忘れてたパターン。
ミイラ化しなかった事が奇跡の状況じゃないだろうか?
「……まだ早いだろうに」
『……確かに。部屋暖房無いからイケルと思ったんだけどなぁ』
「いや、凍死した人間がいない事で気付こうや。十分暖かいんだよ……」
『……だねぇ』
「どうするんだ?」
『ケースもこれ以上大きいのは無理だし、このままじゃボロボロになっちゃうから、逃がそうと思う』
「……そっかぁ」
……中島。
春まで待てとは言ってたけども。
流石に早すぎるぞ?
『ギリギリ桜咲いて来てるから、もしかしたらなんとかなるかもしれないし』
「八重桜は全然蕾だけどな」
『普通のヤツ、咲いて来てるし』
「満開か?」
『いや、一分咲き……』
「全然遠いだろうが……もう、逃がしたのか?」
『ううん。今、中島と外に出て来た所』
「そっかぁ。こっちも庭に出てた所だよ……」
『そっか……うん。逃がすわ。逃がしたわ』
「早いなっ?!」
行動が早いななっ?!
『兄ちゃん、今日、空が青いね……』
「あぁ……そうだなぁ……」
『このまま暖かければいいね……』
「だなぁ……」
場所は違うが同じ空の下。
青空が広がり、風も穏やか。
春の歌がそろそろ聞こえて来るだろうか?
けど、青虫が活動するにはまだ早すぎるだろうに……
蛾を見始める時期にもなっていない。
早すぎるんだ……中島……
けども中島は飛び出してしまった。
……いや、中島の危機回避能力が働いたのかもしれないな。
忘れられて、ミイラ化する未来が見えたのかもしれないし。
うん。多分そうだ。
『中島、空を登って行くわ……』
「そうか……」
自分もしばらく空を見ていた。
……中島が見えた気がした。
『あっ、風に吹っ飛ばされて行った』
「中島っ?!」
『見えなくなったわ……』
「中島ぁ~っ!!」
……中島。
強く生き残ってくれっ。
【完】
と言っても、4月に入ってしばらくたったが、まだまだ寒い。
けど、ダウンはしまって薄手のジャケットでも平気かな?位には暖かくなってきた。
咲ちゃんは札幌の勤務についたし。
自分も営業から事務職に変わった。
転勤の可能性が全国区に広がった。
もしかしたら、咲ちゃんの転勤にシンクロ出来るかもしれない……逆もしかり。
まぁ、その時考える事にするよ。
あと、弟と2人暮らしが始まったな。
高校に通うのがシンドイらしく、ここから通うそうだ。
まぁ、生活自体はあまり変わらんからね。
酔っぱらいが弟に迷惑かける位か?
それ位だ。
『カァ~カァ~カァ~!』
……ご近所さんも変わりない。
元気に羽ばたき、時に屋根で横飛びをしている模様。
今年も去年と同じ家族のままらしい。
自宅の庭の雪もすっかり消えて、中島の主食の八重桜の蕾もだいぶ大きくなってきた。
葉っぱが出始めれば、中島も安心して羽化出来る事だろう……
今日は珍しく雲が殆ど無いような青空が広がっている。
中島が来た辺りもこんな感じだったか。
いや、空の色が違ったなぁ。
まぁ、大変な事が連続で起こったけど、思い返せば笑い話になるってもんだ。
……これからどんどん暖かくなる。
色々大変になるだろうか?
まっ、人間誰しも『今』が1番大変だと思うもんだからね。
『前』に起きた大変な事よりも『今』直面している事が1番大変な事に思える。
だいたいの事が、そう思える。
過ぎてしまえば、たいした事じゃなくなるから不思議だよな。
……よっぽどの重大事件以外は。
「ん?電話か?」
庭でホコホコしていたら、薫からの電話だ。
また金欠だろうか?
『兄ちゃん、大変っ!!』
「どうした?食料不足か?」
『あっ、レトルト系が欲しいのもあるけど……中島が大変っ!!』
食料不足も確実らしい。
「中島、まだサナギだろ?まさかカビ問題じゃ」
『いや、中島羽化しちゃったんだよっ!!』
「はぁっ?!まだ桜だって咲いて無いぞっ?!」
『そうなんだけどさ……なんか部屋の隅でバタバタ音がしてたから、出して見たら羽化してたんだよ……』
まさかの忘れてたパターン。
ミイラ化しなかった事が奇跡の状況じゃないだろうか?
「……まだ早いだろうに」
『……確かに。部屋暖房無いからイケルと思ったんだけどなぁ』
「いや、凍死した人間がいない事で気付こうや。十分暖かいんだよ……」
『……だねぇ』
「どうするんだ?」
『ケースもこれ以上大きいのは無理だし、このままじゃボロボロになっちゃうから、逃がそうと思う』
「……そっかぁ」
……中島。
春まで待てとは言ってたけども。
流石に早すぎるぞ?
『ギリギリ桜咲いて来てるから、もしかしたらなんとかなるかもしれないし』
「八重桜は全然蕾だけどな」
『普通のヤツ、咲いて来てるし』
「満開か?」
『いや、一分咲き……』
「全然遠いだろうが……もう、逃がしたのか?」
『ううん。今、中島と外に出て来た所』
「そっかぁ。こっちも庭に出てた所だよ……」
『そっか……うん。逃がすわ。逃がしたわ』
「早いなっ?!」
行動が早いななっ?!
『兄ちゃん、今日、空が青いね……』
「あぁ……そうだなぁ……」
『このまま暖かければいいね……』
「だなぁ……」
場所は違うが同じ空の下。
青空が広がり、風も穏やか。
春の歌がそろそろ聞こえて来るだろうか?
けど、青虫が活動するにはまだ早すぎるだろうに……
蛾を見始める時期にもなっていない。
早すぎるんだ……中島……
けども中島は飛び出してしまった。
……いや、中島の危機回避能力が働いたのかもしれないな。
忘れられて、ミイラ化する未来が見えたのかもしれないし。
うん。多分そうだ。
『中島、空を登って行くわ……』
「そうか……」
自分もしばらく空を見ていた。
……中島が見えた気がした。
『あっ、風に吹っ飛ばされて行った』
「中島っ?!」
『見えなくなったわ……』
「中島ぁ~っ!!」
……中島。
強く生き残ってくれっ。
【完】
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる