騙されて異世界へ

だんご

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32 必要な物らしい

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 抱っこ紐に使っていた上着を回収して、町に戻る。
 キナコは爆睡中なので、抱っこだ。

 出来れば本格的な抱っこ紐が欲しい所だな。
 前の世界にあったような、布を巻き付けるタイプの斜め掛けなヤツ。
 お洒落なご夫婦が使っているような感じのが欲しい。

 布を俺の体格に合わせてグルっと巻いて、縫って。
 全体的に広がらない様に止め布を別につけたら……
 ……手作り出来そうだな。
 縫うのが無理なら、縛ればいいしな。
 両手使えるし。
 キナコが寝ちまったら気を付ければいいし。
 下手に作らなくても、布あれば行けるな!

 ギルドでビルと静かにやり取りをして大銅貨12枚。
 貰うもん貰ったら、商店区画に即効移動だ。
 後ろの人間達が生温い目で見てたなんて知らん。
 大急ぎで雑貨屋に飛び込んだ。

 「いらっしゃい。血相変えて、どうした?」
 
 「あっ……驚かせて、すまん。猫を抱っこして移動する方法を思いついてな?忘れる前に駆け込んだんでな」

 「ぶふっ……なんだい。そんな可愛い理由だったんかい。てっきり強盗か逃亡者かと思って、棍棒取り出す所だったよ……」  

 「怖えな。いや、命拾いしたみたいだな……危なかった……」

 「まさかアンタ。あたしの細腕に負けるってのかい?」

 見た感じ以上に肝っ玉母さんだ。
 負ける未来しか見えませんが、何か?
 なんて正直に言ったら、ボコボコにされるんだろな……

 「んな訳ねーよ。いくら弱っちい俺だって、か弱い女性に殺られるかよ。もし何かあったら、あんた目当ての野郎共にボコボコにされる方が怖いぜ」

 「なっ……」

 どうだ!
 これなら大丈夫だろ?
 えっ?ダメか?

 『※その認識(プツッ)』

 ダメなのか?
 なぜ?

 「ちょいと、口説かれちまったよ……」

 あっ……こっちのヤバいね。

 『※その認識でOKです』

 「けど……あたしには旦那がいるから、ごめんね?」

 何か知らん内にフラレた。
 
 「いや、初対面でフラレた事になっちまったぞ?」

 「まっ、冗談だよ。そんで、何がいるんだい?」

 「まぁ……いいさ。布地なんて置いてるかい?」

 「まぁ、服屋ほどは無いが、そこそこあるよ。こっちだ」

 店の奥に布地、針、糸、毛糸やモロモロがある。
 多いか少ないかっていったら、少ないんだろうな。
 俺、こういった店には来ないし。
 わからんけど。

 「どんな布地がいい……って分らなそうだね?」

 「おう。サッパリわからん」

 「どんな感じの物を作るか教えてくれないかい?」

 「おう」

 この世界に抱っこ紐はあるのか?

 無いのか?

 『※その認識でOKです』

 マジか。
 危なかったな……

 「大体この位の幅かな?コイツを包んでも落ちない位の幅で、俺の肩に斜めに掛ける感じだな。落さない様に目で見ていたいし、両手も空いていると有り難いからな。後ろで結べば調節も利くだろ?」

 「なっ……あんた、この話、どこにもしてないかいっ?!」
 
 「うぉっ?! おう!思い付いて、すぐここに来たからな」

 なっ……なんだよ。
 まさかこれも、転移者炙り出しの罠だったのか?!
 てか近いから!
 目茶苦茶距離詰めるし!
 圧が半端なくて怖いからっ‼

 「ちょっとコレさ。ウチの店で商品として売り出してもいいかい?」
 
 「は?」
 
 あっ。
 そっちのパターンね。
 了解。
 なら、すっとボケさせて頂く。

 「勿論、あんたには無理を言ってるんだ。無料で物を出すよ?」
 
 「いや、それは有り難いが……そんなに猫好きが多いのか?ここ」

 「はぉ~……いや、コレが使えるのは猫だけじゃないんだよ」

 「なら、犬もか?」

 盛大にタメ息を吐かれた。
 いや、ホントゴメンナサイ。
 ワザトです。
 
 「犬猫ばかりじゃないよ?人間の赤ん坊だって使えるだろうさ」

 「赤ん坊……」

 うん。
 元々は赤ん坊用だったからな。
 当然っちゃ当然だ。

 「そうさ。ちょっとした仕事をしながら赤ん坊を抱いてられるんだ!凄いじゃないか!」

 「多分だが……猫なら多少は爪なり何なりで踏ん張れるが、赤ん坊だとこちらは、余り動き回るのは危険じゃないか?」

 「それもそうだね……」

 一応注意しとかんとな。
 前の世界だって赤ん坊の事故多かったんだ。
 初の試みなら余計に危ないぞ?

 「激しい動きをしないとか、注意しながら使うとか……声掛けとけばどうだ?」

 「そうだね……赤ん坊の事だからねぇ。【強化】しとけば安全だとか?」

 「……常には難しいだろ?出来るだけってな?」

 「それもそうだね……」

 そうだった……生活魔法にあったな、それ。
 改めて異世界だな、ここ。

 「まぁ、まだ試して無いしな。とりあえず、布を頼めるか?」

 「あいよ。ちょっとサイズを図らしてもらうよ」

 「おう。頼む」


 なんやかんやしながらも、適度な幅の布地を縛る所まで来て、問題勃発。

 「ダメだな……こりゃ……」

 「確かに……コレじゃ難しいねぇ」

 縛る所がゴワゴワで難しい上に、かさばるというか、邪魔くさい。
 キナコを抱っこする分には問題ないが。
 いや、問題あり。
 ゴワゴワは嫌だ。
 ムレて暑い。
 それに育児で疲れた奥さん達も同じだと思う。
 ブチ切れる確率が上がっちまう。

 「ここを繋げて見たらどうだ?」

 「輪にすんのかい?じゃあ、ここは頑丈に縫わないと危ないねぇ……」

 ものは試しとばかりに、店主がザザザッと縫ってしまう。
 速い。神速だ。
 何かそんなスキルでもあるんだろうなぁ。
 それより、輪にした後だよな。

 「できた。でもこれじゃぁ無理だねぇ…ストンって落ちちまうよ」

 「だな。……なあ。布の端の所、肩に掛かる手前までを紐を通して引っ張るってのはどうだ?」

 「端側を折ってかい?」

 「そうそう。ぐるっと赤ん坊が入る所を紐で締める感じだと……調節利くんじゃねえか?」

 「難しい注文だねぇ…ちょっと待っておくれよ?」

 店主が布の両側の端を3つ折にしてみる。
 少し考えて片側の端部分に2箇所ピンを刺す。

 「布の両端を縫うと全体的に頑丈になるからね。ぐるっと縫うとして、前もってココに紐の出入口を付けとこうと思うんだよ」

 「だな。始めに穴を開けとかんと、やり辛いだろうな。出入口も布がボロボロにならんようになるか?」

 「ああ、なるよ。ボタンホールにしてやりゃあいいさ。とりあえずやってみるよ」

 ボタンホールあんのか……
 衣服系の知識なんざサッパリ無いから分からんよ。
 ボロボロにボロが出そうだから、気をつけよぅ。
 ……てか店主。
 まるでミシンを見ているようなんだが?
 恐ろしい勢いで縫ってるぞ?
 顔も怖えよ。
 鬼神が乗り移ってるかの如く……
 いや、女性に対してそれは失礼だ。
 それほど真剣なんだと自分に言い聞かせて、ボロボロにならない様に気をつけよう。
 普段から考えていると、ポロリもあるのだ。

 「ここまでは、こんなもんよ」

 「すげぇな。神速じゃねぇか」

 「ふふん。腕はいいもん持ってんだよ。こっから、どうするんだい?」

 「どうするんだいって言ったって、俺ぁ素人だぞ?」

 「そりゃそうだね。でもこっちも手探りさ。あんたの頭ん中の事だしねぇ」

 「それもそうなんだけどよぉ……肩に掛ける所を丈夫にする方法って何かあるか?」

 「それだよっ!」
 
 店主は閃いたとばかりに、布を半分に折り、ボタンホールがある対角線側に、横40cm程の幅を取った目印ピンを刺す。
 そこから並んで同じ様にもう1組刺す。

 「こことここ。線を2本入れて置けば、頑丈な肩紐になるし、赤ん坊の方にくぼみが作り易くなるよ!」

 「それ、すげぇな!」

 「ここまで閃いたら任せな!いいの作ってやるよ!」

 「頼むよ。とりあえず、帰りに寄るから、晩飯の何か買って来ていいか?」

 「いいよ。行っといで。その辺りには出来てるよ」

 「宜しく頼む」

 「あいよ~」

 店を出て、八百屋方面に目を向ける。
 さて、今日の夜は何にするかな?
 キナコの希望を聞こうかとも思ったが、まだスヨスヨ眠っている。
 うん。
 可愛い。
 ホッコリするなぁ……ホッコリか。
 とろとろ野菜のホッコリシチューでも作るか。
 シチューもキナコが生前反応してたやつだしな。
 手にキナコの重さを感じる幸せを噛みしめながら、買い出しに出る。 
 食べるキナコの顔を想像しながら。
 ホント……幸せだなぁ……

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