騙されて異世界へ

46 A.現実を見ましょう

 「ワイルドベアの回収も済んだな。タバサ、ソブルお疲れ。帰るぞ！」

 「なあ、リック？」

 「ちょっと、リック！キナコが抜けてるよ！」

 「いや、そうだが、リック？」

 「そうだったな！キナコも良く待機出来た。偉いぞ？」

 「にゃん！」

 お返事できるにゃんこさんは、大変良いにゃんこさんです。

 「可愛い……いや、リック？」

 あっ?!
 コイツ、耳を塞ぎやがったっ?!

 「嫌だっ‼ 俺の仕事はここまでだっ‼ 家に帰る、帰るぞっ‼」

 うっわぁ……

 「タバサも耳を塞ぐなよ……どうすんだよ、コレ」

 「「聞こえんっ‼ 」」

 バッチリ聞こえてるじゃねぇかよ……

 「逆に捨てて行ってもいいなら、いいんじゃね？」

 「そうだな。俺は良いと思うぞ！」

 「あたしもその案に賛成だ。サッサと行こう！」

 「随分だな……なら帰るか」

 「「賛成！」」

 「ちょっと待てコラぁ～‼」

 突っ込み入りましたぁ～‼
 てか、昏睡状態消えたの知ってたけども。
 この扱いで許されるのか？
 お貴族様だぞ？
 いいのか？
 いや、２人に確認は取ってたから……いいのか？

 「「チッ！」」

 「舌打ちっ?! 私は伯爵令息だぞっ?! 」

 そうだぞ?!
 不敬だろっ?!
 不敬罪で、しょっ引かれて処刑じゃないのかっ?!
 
 「伯爵令息様が、こんな所にいる訳がない。魔物の幻術に違いない」

 「状態無効のポーションの効き目が切れたみたいだね」

 「それは、いかんな。すぐ町に戻って治療だ」

 「それがいいね。そうしよう」

 「言葉に感情がこもってないっ?! 」
 
 坊っちゃん、そりゃ、棒読みってヤツよ……
 お前ホント何やらかしたんだ？
 よっぽどだぞ？

 「だって、そうでしょうよ。伯爵様は何て仰ってました？」

 「うっ……それは、その……」

 「これ以上、冒険者に迷惑行為を働くなって、血管ブチギレる程でしたよね？」

 「いや、それは……」

 「そこから、ご友人共々ぶん殴られて、３回弾んだ挙げ句、のびてしまいましたよね？」

 「それは誰でもそうだろっ？父上の拳だぞ？」

 いや、坊っちゃん……
 問題はそこじゃない……
 そうじゃないんだ……

 「ふっ……伯爵様の拳でのびる様では、冒険者と共に活動等はとてもとても」

 「だが、冒険を知れば強くなれるのだろう？ならばっ」

 「それは違いますよ。冒険を知るのではなく、生き残る術を知る者です」

 冒険者や強者に憧れて『自分も！』ってヤツだな。
 ヒーローに憧れて真似をする感じだな。
 あっちじゃ微笑ましい限りだが、こっちじゃシャレになんないからな。
 マジで命失くすからな。
 しかも、盛大に周りを巻き込んで。
 冒険者を甘く見るなよ？

 「違いは無いではないか？」

 「大きく違います。戦いにおもきを置いているあなたは、周りを見ていない。周りの人間を危険にさらし、自分本位過ぎる」　

 「周りだと？しっかり確認している！俺は冒険を知っているんだ！」

 「あぁ……それじゃダメだな」

 「なんだと?! 貴様の様な雑魚に言われる筋合いは無い‼」

 ヤベェ。
 思わず口に出てしまったわ……
 子供相手だと、ついつい言っちまうな……
 15歳って、まだ子供だろ？

 「雑魚だが冒険者で生き残っているからな。冒険を知ってるぞ？いや、知っていますぞ？ん？」

 「ソブル……なんか逆に偉そうな態度になったぞ？」

 あっ、ヤベェ……
 ついノリノリにやらかしてしまった……
 相手は、お貴族様。
 リックも敬語を使う、お貴族様。
 ふざけちゃいけない、お貴族様。
 ……すまん。正直もう敬えれない。

 「どうせ戦いから逃げている輩だろっ?! そんな雑魚が偉そうに何を言うんだっ‼」

 顔が真っ赤だな。
 ビル一歩手前だ。
 一歩手前だから、まだ行けると思う謎心理。
 これってどうなんだろうか……

 『（プツッ）』

 ……どうなんだろうか。

 「まぁ、俺は俺の実力を知ってるからな？無理がないギリギリを見て動いてるんだ。実力以上の事を他の人間が関わっている時にやろうとはしないだけだ。人も自分も危険にさらすからな。……からです」

 「最後だけ取り繕ったな……まあ、そう言う事です。護衛付きの安全を確保されて、自分の実力のわからない人間が来る場所ではないのですよ」

 「……だから今回は１人で、」

 「実力がわからない人間が力を示そうとした所、実力以上の危険に陥ったのですね？」

 「ぐっ……」

 「人はソレを愚か者と言うな」

 「ぐぅっ……」

 「ソブル……」

 「すまん。つい、ウッカリ」

 習慣かなんなのか……
 つい揚げ足を取りたくなってしまうのが怖いな。
 その内、首と胴体がサヨナラを告げそうで怖い。
 けど、やめられ無いなぁ……
 これってどうなんだろうか……

 『（プツッ）』

 ……どうなんだろうか。

 「……ならばとっ！リックに指導を頼んでいたではないかっ！」

 「えっ？そうなのか？リック」

 「丁重にお断りした」

 「なぜだっ！金貨も充分に用意したのだぞっ?!」

 「うっわぁ……ないわ。全然わかってない坊っちゃんだ……」

 「なっ?! 雑魚の分際でっ‼ 」

 「ああ。雑魚で結構だ。どうせ今もまだ基本すら出来てない甘ちゃんなんだろ？」

 「馬鹿にするなっ‼」

 「なら、指導者に勝てるのか？」

 「当然だろっ?!」

 「ほ～ん……なら、本気を出した指導者に勝てるのか？」

 「なっ?! 本気だろっ!? 俺が勝ったんだ‼ 」

 「どうせ、接待試合だろ？だろ？リック」

 渋い顔だぞ、リック？

 「ああ。その通りだ。大概の者は、出世を求めているからな。令息様には気を悪くされては困るのだろうな」

 「なっ、なんだって……？」

 「相手の力量もわからないんじゃあな……冒険者なんて無理だし。そんな固っ苦しい場所じゃあ、冒険者は息が詰まっちまうからなぁ。イヤイヤでも……やっぱり嫌だな」

 「なっ?! 」

 坊っちゃんがリックを凝視するが、

 「縛り付けられるのは無理だな。自由が欲しくて冒険者になったのに……爵位に仕えるのは、真っ平ごめんだ」

 「だろうな……」

 「そんな……俺、俺は……」

 「相手の本気を引き出せる様になるまで、修練をつんで行って下さい」

 ガックリしたな。
 ガックリして、しばらく大人しくしてるといい。