転生したのに女神がもやし栽培キットしかくれなかったので、無職即追放されましたが、育ててたら貴重品でした

ワイケー

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もやしは祈りを必要としない(※それが問題だった)

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 問題は、神殿が気づいたことだった。



 王都・神殿農政監督局。

 重厚な石造りの部屋で、数名の神官と文官が資料を囲んでいた。
 机の上には、布に包まれた“白い束”。

「……これが噂の」

 神官の一人が、慎重に包みを開く。

 現れたのは――もやし。

 どこからどう見ても、もやしだ。
 ただし、異様に瑞々しく、折れない。

「成分分析の結果ですが」

 文官が咳払いする。

「栄養価が異常です」
「神殿祝福済み作物と同等、いえ……それ以上」

 室内が、ざわついた。

「祝福工程は?」

「確認できません」
「祈祷記録もなし」
「奉納履歴もなし」

 沈黙。

 神官長が、低く言った。

「……つまり」

 一拍。

「神の許可なく、恵みが生じている」

 その言葉が、部屋の空気を凍らせた。



 神殿の信仰体系は、単純だ。

 恵みは神から。
 神の言葉は神殿から。
 神殿を通さない恵みは――存在してはならない。

「問題です」

 若い神官が、額に汗を浮かべる。

「民が、祈りより先に“もやし”を求めています」

「治療所より、もやし」
「施しより、もやし」

「……神殿を経由していない」

 神官長は、静かに立ち上がった。

「調査対象とします」

「分類は?」

 一瞬の迷いもなく。

「異端です」



 一方その頃。

 俺は、畑で普通に作業していた。

「……増えすぎ」

 品種改良が進みすぎた結果、
 もやしの成長速度が完全に狂っている。

 朝植えて、
 夜には収穫。

 もはや野菜じゃない。

「これ、普通に農業革命では?」

 そんな言葉を口にした瞬間、
 別方向から問題が来た。

「市の監査です!」

 鎧を着た役人が、ぞろぞろ現れる。

 国章付き。
 農政局だ。

「農地登録は?」
「種子の出所は?」
「生産量が、国家計画と合いません」

「いや勝手に生えてるだけで――」

「それが問題です!」

 役人が叫ぶ。

「王国の農業政策は、作物量を管理することで価格と治安を維持している!」
「あなたのもやしは、供給を壊している!」

「……もやしで?」

「もやしで!」

 声が裏返っていた。



 さらにその翌日。

 今度は、服装が違った。

 金刺繍。
 香水。
 無駄に高そうな指輪。

 貴族だ。

「噂の“もやし神”か」

 鼻で笑うような口調。

「我が領地では、麦と薬草を独占契約している」
「市場価格が崩れたら、困るのだ」

「知らんがな」

「……庶民は分かっていない」

 貴族は、ゆっくりと言った。

「恵みは“管理”されてこそ価値がある」
「誰でも手に入るものは、無価値だ」

 俺は、畑を見る。

 腹を空かせた村人。
 元気になった老人。
 薬代を払わずに済んだ家族。

「……それ、誰のための価値?」

 貴族の顔が、歪んだ。

「不敬だな」

「初対面で敬う理由もない」

 その場の空気が、最悪になった。



 その日の夜。

 俺の廃小屋の前に、三方向からの噂が届いた。
•神殿:「異端調査を開始」
•国家:「農業統制違反の可能性」
•貴族:「裏で圧力」

 俺は焚き火の前で、頭を抱える。

「……俺、もやし育ててるだけなんだけど」

 名前もない。
 称号もいらない。
 神になる気もない。

 ただ、生きたかっただけだ。

 だが。

 神殿は信仰を守るため
 国家は制度を守るため
 貴族は金を守るため

 全員が、
 俺を「邪魔」だと認識した。

 しかも。

「本人は無自覚で、
 剣も振らず、
 魔法も使わず、
 祈りも拒否している」

 ――最悪のタイプだ。



 翌朝。

 神殿の使者が来た。

「神の恵みを扱う資格を証明せよ」

 国家の役人も来た。

「生産量を国家に報告せよ」

 貴族の使いも来た。

「我が家と契約しろ」

 三者三様。

 俺は、全員に同じことを言った。

「……もやし、いる?」

 全員、黙った。

 そして、その沈黙が――
 宣戦布告だった。

 後に歴史家は書く。

《白き芽は、剣を抜かずに三権を敵に回した》

 だが、その時の俺は。

「……めんどくせぇなぁ」

 そう思っていただけだった。

 もやしを抱えながら。
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