転生したのに女神がもやし栽培キットしかくれなかったので、無職即追放されましたが、育ててたら貴重品でした

ワイケー

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女神はまた食材を置いていき、神殿はさらに炎上する

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 磔刑が終わってはや数週間。

 俺は、普通に生きていた。

 神殿の地下牢とか、異端隔離区画とか、そういう場所ではない。
 なぜか、町外れの空き家だった。

「……なんで?」

 目が覚めて最初に出た言葉が、それだった。

 身体は元気。
 腹は減っている。

 つまり、いつも通りだ。

「処刑したんじゃなかったのか……?」

 数週間前に起きたことを思い出す。

 十字架。
 神官。
 民衆。
 もやし。
 フル回復。

「……もやし、すごいな」

 感想がそれしか出てこなかった。

表向きは平穏だが、
王都からの視線が消えたわけではない。



 外がやけに騒がしい。

 戸を開けると、見覚えのある顔が何人もいた。
 昨日、磔を見ていた民衆だ。

 全員、真剣な顔をしている。

「……あの」

 俺が声をかけると、全員が一斉に跪いた。

「えっ」

「発酵もやし神様……!」

「無職もやし神様……!」

「白き芽の御方……!」

 呼び名が増えている。

「ちょ、待て待て」

 慌てて手を振る。

「神じゃないって言ってるだろ。無職だって」

「はい!」

 即答だった。

 否定が、肯定として処理されている。

 怖い。

「神殿は……?」

 聞くと、空気が一変した。

「……逃げました」

「逃げたの?」

「はい」
「王都サンクティアから、正式に通達が出ました」

 通達。

 嫌な予感しかしない。



 その通達は、街中に貼り出されていた。

『告知』
『発酵行為は神の領域を侵す異端行為である』
『発酵食品の製造・摂取・布教を禁ずる』
『違反者は浄化対象とする』

「……発酵って、そんなに悪いか?」

 納豆を食べながら首を傾げる。

 民衆がざわついた。

「神殿は、もやし神様の奇跡を否定しました」
「腹が満たされるのは神の御業ではないと」
「発酵は悪魔の技術だそうです」

「へぇ……」

 納豆をかき混ぜる。

 糸が伸びる。

「……それ、何ですか?」

「納豆」

「……それも発酵ですか?」

「そうだけど」

 その瞬間。

 誰かが叫んだ。

「異端だー!!」

 ……民衆の中から。

「神殿が言ってた!」
「発酵は異端だって!」
「でも、もやし神様は生きてる!」

「じゃあ神殿が間違ってるのでは?」

 論理が雑すぎる。

 だが、勢いは正しかった。



 その時だった。

 空が光った。

「……あ」

 嫌な予感が、確信に変わる。

 天から、見覚えのある女が降ってきた。

「ご、ごめんなさ~~~い!!」

 女神だった。

 派手な土下座。
 毎回完璧なフォーム。

「また来たのか……」

「違うの!今回は本当にフォローだから!」

 そう言って、何かを地面に置く。

 箱だ。

「なにこれ」

「発酵補助スターターセット!」

 嫌な単語しかない。

「ヨーグルト菌、麹菌、乳酸菌、あとチーズ用の!」

「なんで毎回食料なんだよ!!」

「あ、全部成功するとは限らないからね♡」

 思わず叫んだ。

「だって便利でしょ!」
「この世界、菌の概念ないし!」

 周囲がざわつく。

「菌……?」
「見えない生き物……?」

 神殿が聞いたら卒倒するワードだ。

「それで手打ちにしようとしてる?」

「うん!」

 即答。

「……謝る気ある?」

「あるある!」
「ほら、これで発酵も安全に!」

「安全とかいう問題じゃない!」



 女神が去った後。

 箱を前に、民衆が沈黙する。

「……使って、いいんですか?」

「別に……俺は困らんけど」

 結果。

 使った。

 ヨーグルトを作った。
 チーズを作った。
 麹で謎の高級肉を発酵させた。

 結果。

「……治癒効果が三倍になった」
「寿命、延びてないか?」
「これ、聖遺物では?」

 違う。
 ただの食いもんだ。



 翌日。

 王都サンクティアから、再通達が来た。

『発酵無職もやし神を信仰する行為を禁ずる』

 民衆が、静かに紙を見つめる。

 そして。

「……信仰、やめます?」

 誰かが言った。

 別の誰かが首を振る。

「腹いっぱいになる方を信じる」

 迷う者もいた。
だが腹が満たされた者の声の方が大きかった。



 こうして。

 神殿はまた一つ、信頼を失い。
 俺はまた一つ、変な二つ名を増やした。

「発酵無職もやし神」

 いや、だから無職だって。

 そして俺は、今日も考える。

「……次は何作ろう」

 世界がどうなってるかは、知らない。

 だが一つだけ、確信している。

 女神は、次も絶対、食材を持ってくる。

 間違いない。

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