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***無垢な時期の終焉***
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けれども、そんな親子愛に満ちた至福の時は長くは続きませんでした。
数日もすると人形は悶々として日々を過ごすようになっていました。
(お父さん…いつになったら…抱いてくれるんだろう…)
洗い立てのシーツのように無垢で澄みきっていた人形はもうどこにも見当たりません。
誕生したばかりのあの日の思考の清純さは、それこそ花が散るようにあっという間に失われてしまっていたのです。
それというのもです。
生誕した翌日のことでした。
『一体どういうことだ? どうしてやらなかった?』
抱き合って寝ただけで初日を終えたと従者から耳にした騎士ローギィによって、人形は詰問されました。
もちろん、その日だけでありません。
ジェペット博士の目のないところに腕を引かれては、昨日はどうだったのかと。
昨日はやったのかと。
なぜ、まだやらないんだと。
どういうことなんだと。
しつこいほどに進捗状況を聞かれては、信じられんっと叫ばれて。
その後は決まって、勉強を教わっている体裁を取られながらの反省会地獄です。
こうやって大人の余計な思いこみに子供は巻きこまれて染められていくのでしょう。
性愛人形なのに何が足りないんだと。
理解がおぼつかない状態で聞かされたところで答えられるはずがありません。
そのうち人形の中でも「お父さん、どうしてぼくを抱かないの…」という思考回路が染みついてしまいました。
しかも植え付けられたのは、生みの親に対する疑念だけではありません。
『いいか、よく見とけ』
主人以外の手あかを付けるわけにはいかないと。
懇切丁寧な図説から始まり、絶対に誰にも言うなよと念を押された上での部下の騎士を使ってのまさかの実況視聴まで。
騎士団長のありがた迷惑な介入によって、寄り添う父と子の設定に着地したはずが欲求を持て余す主人とその性愛人形へと上書きされ、すっかりと根付いてしまったのです。
(ぼくの…なにが…いけないんだろう…)
本来ならばと。
ヤりたい盛りだから毎晩ガッツン、ガッツンに欲望のはけ口になっていておかしくないんだと。
自他共に認める百戦錬磨の騎士ローギィが力強く言い放ちます。
相当溜まっているはずなんだと。
それなのに今だに手つかずなのはセクサドールとして、お前に何かが足りてないからなのだと。
そう詰め寄ってくるのです。
(ぼく…わからないよ…)
言われた通りに寝具で裸待機をしていても、お腹を冷やしちゃうよと愛らしいカエル柄のパジャマをすぐさま着せられてしまいます。
今夜こそは頬チューなんかで終わらせるなよと強く念を押されて。
舌先で博士の唇をつついたところで、どうしたの、お腹が空いたのかなと返され、ディープキスへの発展なんてありもしません。
すごく健全、ものすごく健全、健全も健全。
騎士団長の驚きは深まるばかりです。
(お父さん…どうして…)
かたや、人形は人形で。
よもや、お父さんと呼び出したことが父性愛に飢えた博士の心を刺激してしまったなどとわかるはずがありません。
人間の心情の機微までは汲み取れないのです。
博士があろうことか、得られないなら、なってみせよう父親にという気持ちに切り替わってしまったことを人形は推測できずにいました。
(最近はあまり遊んでもくれないし…)
ふわぁとガラスのような青い瞳を大きな水たまりが覆います。
涙です。
いつしかポロポロと涙を自発的に流すまでに成長してました。
と同時に、いいぞ、サンピーノキオと。
その調子だ、サンピーノキオと自身を鼓舞することも減りました。
搭載された学習機能が、外の世界に視線を注いで自らの容量の認識を得なさいと働きかけてきます。
それは人間における無知の知と全く同じ自覚でした。
自身が足りていないということを知っている――と瞬く間に人間らしい感情を持った人工生命体に人形は進化したのです。
やはり博士は稀代の天才だったのです。
数日もすると人形は悶々として日々を過ごすようになっていました。
(お父さん…いつになったら…抱いてくれるんだろう…)
洗い立てのシーツのように無垢で澄みきっていた人形はもうどこにも見当たりません。
誕生したばかりのあの日の思考の清純さは、それこそ花が散るようにあっという間に失われてしまっていたのです。
それというのもです。
生誕した翌日のことでした。
『一体どういうことだ? どうしてやらなかった?』
抱き合って寝ただけで初日を終えたと従者から耳にした騎士ローギィによって、人形は詰問されました。
もちろん、その日だけでありません。
ジェペット博士の目のないところに腕を引かれては、昨日はどうだったのかと。
昨日はやったのかと。
なぜ、まだやらないんだと。
どういうことなんだと。
しつこいほどに進捗状況を聞かれては、信じられんっと叫ばれて。
その後は決まって、勉強を教わっている体裁を取られながらの反省会地獄です。
こうやって大人の余計な思いこみに子供は巻きこまれて染められていくのでしょう。
性愛人形なのに何が足りないんだと。
理解がおぼつかない状態で聞かされたところで答えられるはずがありません。
そのうち人形の中でも「お父さん、どうしてぼくを抱かないの…」という思考回路が染みついてしまいました。
しかも植え付けられたのは、生みの親に対する疑念だけではありません。
『いいか、よく見とけ』
主人以外の手あかを付けるわけにはいかないと。
懇切丁寧な図説から始まり、絶対に誰にも言うなよと念を押された上での部下の騎士を使ってのまさかの実況視聴まで。
騎士団長のありがた迷惑な介入によって、寄り添う父と子の設定に着地したはずが欲求を持て余す主人とその性愛人形へと上書きされ、すっかりと根付いてしまったのです。
(ぼくの…なにが…いけないんだろう…)
本来ならばと。
ヤりたい盛りだから毎晩ガッツン、ガッツンに欲望のはけ口になっていておかしくないんだと。
自他共に認める百戦錬磨の騎士ローギィが力強く言い放ちます。
相当溜まっているはずなんだと。
それなのに今だに手つかずなのはセクサドールとして、お前に何かが足りてないからなのだと。
そう詰め寄ってくるのです。
(ぼく…わからないよ…)
言われた通りに寝具で裸待機をしていても、お腹を冷やしちゃうよと愛らしいカエル柄のパジャマをすぐさま着せられてしまいます。
今夜こそは頬チューなんかで終わらせるなよと強く念を押されて。
舌先で博士の唇をつついたところで、どうしたの、お腹が空いたのかなと返され、ディープキスへの発展なんてありもしません。
すごく健全、ものすごく健全、健全も健全。
騎士団長の驚きは深まるばかりです。
(お父さん…どうして…)
かたや、人形は人形で。
よもや、お父さんと呼び出したことが父性愛に飢えた博士の心を刺激してしまったなどとわかるはずがありません。
人間の心情の機微までは汲み取れないのです。
博士があろうことか、得られないなら、なってみせよう父親にという気持ちに切り替わってしまったことを人形は推測できずにいました。
(最近はあまり遊んでもくれないし…)
ふわぁとガラスのような青い瞳を大きな水たまりが覆います。
涙です。
いつしかポロポロと涙を自発的に流すまでに成長してました。
と同時に、いいぞ、サンピーノキオと。
その調子だ、サンピーノキオと自身を鼓舞することも減りました。
搭載された学習機能が、外の世界に視線を注いで自らの容量の認識を得なさいと働きかけてきます。
それは人間における無知の知と全く同じ自覚でした。
自身が足りていないということを知っている――と瞬く間に人間らしい感情を持った人工生命体に人形は進化したのです。
やはり博士は稀代の天才だったのです。
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