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第4章 ケリュネイア山の黄金の羊
6 喜んで同伴
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「そうか…だったら、喜んで同伴しないとな」
(うそ…)
まさかの返事に、その気がなかった者に余計なことを言ったかと気が焦る。
両手を前で振った。
「いやいやいや、そうじゃないっ、そうじゃ…無理して入らなくていいからさっ、オレ、一人で入るからさっ」
「遠慮するな」
「いや、遠慮とかじゃなくってっ」
「行こう」
「えっ、ちょっ、ちょっと」
強引に肩を抱かれて、冷や汗をかきながら上目遣いに見上げれば、青灰色の瞳がこの上なく楽しそうな色合いを漂わせて見下ろしてくる。
「…わざとだろ?」
からかったんだなと睨みつければ、そんなことはないと柔らかく微笑まれた。
(なんだよ、それ…)
その微笑といい、その触り方といい。
自分に対しての好意が満ち満ちている。
受ける側が気恥ずかしくなるほどだ。
「風呂はゆったりと一人で入ってくればいい…ただ食事は移動しながらにしよう。トリトスの確保にどのくらい時間がかかるか読めないからな」
口ではなんだかんだ言っていても、いつだってこちらを思い遣ってくれる男からの、トリトスという名前を耳にして意識が現実へと引き戻された。
(そうだ…時間が…)
狩猟の神族アルテミスが飼っていた、悩める者に助言を与えると称される聖獣。
その五頭の兄弟のうちから三番目にあたる一頭がずいぶんと昔にアルテミスの元から逃げた。
そして、それ以降どれほど名がある勇者や賢者が挑もうとも絶対に捕まらないとされているのがケリュネイア山の黄金の羊だ。
その神出鬼没の幻獣には入山したところですぐに出会えるとは限らない。
「なぜ、オレを起こさなかったんだ…二、三日は時間を無駄にしたのではないか?」
眠りにつく前の感覚では距離があるとはいえ、四、五日で着く計算だったことを思い起こす。
制限のある貴重な時間なのだから起こすべきだったのではと暗に視線で非難した。
「悪天候もあって予測より移動に時間はかかったが予定は順調だ。心配はいらない。逆行者の肉体は休養を必要とする。だから休ませた、それだけだ」
「オレに睡眠剤でも使ったのか?」
前方を見据えたまま歩みを止めない横顔に尋ねた。
仮に休ませる必要があったとしても七日間もこんこんと眠り続けているのはどこかおかしい。
「いや、睡眠の質を高める芳香は用いたが薬の投与など一切していない」
「でも…」
「エリュマントスとネメアと…とくにネメアの獅子で闘気をかなり消耗していた。もう少し考えるべきだったと反省している」
(いや、それは…)
洞穴の最奥の深い窪みにたどり着くや否やスッと身を離し、濡れることも厭わずにしゃがみこみ、溢れ出る源泉を手ですくって温度を確かめている背中に目で問いかけた。
それは違うだろと。
ネメアの獅子もオルフェウスの力で倒したといっても過言ではない。
自分は絶えずかばわれて、守られているのだ。
そう、この比類なき男に、常に。
(うそ…)
まさかの返事に、その気がなかった者に余計なことを言ったかと気が焦る。
両手を前で振った。
「いやいやいや、そうじゃないっ、そうじゃ…無理して入らなくていいからさっ、オレ、一人で入るからさっ」
「遠慮するな」
「いや、遠慮とかじゃなくってっ」
「行こう」
「えっ、ちょっ、ちょっと」
強引に肩を抱かれて、冷や汗をかきながら上目遣いに見上げれば、青灰色の瞳がこの上なく楽しそうな色合いを漂わせて見下ろしてくる。
「…わざとだろ?」
からかったんだなと睨みつければ、そんなことはないと柔らかく微笑まれた。
(なんだよ、それ…)
その微笑といい、その触り方といい。
自分に対しての好意が満ち満ちている。
受ける側が気恥ずかしくなるほどだ。
「風呂はゆったりと一人で入ってくればいい…ただ食事は移動しながらにしよう。トリトスの確保にどのくらい時間がかかるか読めないからな」
口ではなんだかんだ言っていても、いつだってこちらを思い遣ってくれる男からの、トリトスという名前を耳にして意識が現実へと引き戻された。
(そうだ…時間が…)
狩猟の神族アルテミスが飼っていた、悩める者に助言を与えると称される聖獣。
その五頭の兄弟のうちから三番目にあたる一頭がずいぶんと昔にアルテミスの元から逃げた。
そして、それ以降どれほど名がある勇者や賢者が挑もうとも絶対に捕まらないとされているのがケリュネイア山の黄金の羊だ。
その神出鬼没の幻獣には入山したところですぐに出会えるとは限らない。
「なぜ、オレを起こさなかったんだ…二、三日は時間を無駄にしたのではないか?」
眠りにつく前の感覚では距離があるとはいえ、四、五日で着く計算だったことを思い起こす。
制限のある貴重な時間なのだから起こすべきだったのではと暗に視線で非難した。
「悪天候もあって予測より移動に時間はかかったが予定は順調だ。心配はいらない。逆行者の肉体は休養を必要とする。だから休ませた、それだけだ」
「オレに睡眠剤でも使ったのか?」
前方を見据えたまま歩みを止めない横顔に尋ねた。
仮に休ませる必要があったとしても七日間もこんこんと眠り続けているのはどこかおかしい。
「いや、睡眠の質を高める芳香は用いたが薬の投与など一切していない」
「でも…」
「エリュマントスとネメアと…とくにネメアの獅子で闘気をかなり消耗していた。もう少し考えるべきだったと反省している」
(いや、それは…)
洞穴の最奥の深い窪みにたどり着くや否やスッと身を離し、濡れることも厭わずにしゃがみこみ、溢れ出る源泉を手ですくって温度を確かめている背中に目で問いかけた。
それは違うだろと。
ネメアの獅子もオルフェウスの力で倒したといっても過言ではない。
自分は絶えずかばわれて、守られているのだ。
そう、この比類なき男に、常に。
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