アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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第5章 冥府の王妃ペルセフォネ

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「待ってたって…オレたちが来るのがわかってたのか?」

『そりゃあ、ぼくはアルテミスさまの聖獣だもん』

 えっへんと誇らしげに鼻先を上げられた後に、逃げちゃったけどねと長い舌をペロッと出された。
 そのままフンフン、フンフンと鼻歌を歌いながら、ピョーン、ピョーンと両足跳びで跳ね上がり、遊び始める。
 あちらこちらに飛び回ってる姿に、戻る気はないのか?と問いかけるとピタリと立ち止まった。

『あんなに労働環境の悪いところにっ!?  それ、本気で言ってるのっ!?』

 よほど劣悪だったのか、キッと睨みつけるようにして、アルテミスさまを知らないからそんなことが言えるんだよとブツブツ、ブツブツと文句を垂れている。

(そうか、そういうことだったのか…)

 と納得した。
 狩猟を司るガンマの神族アルテミス。
 弓矢の名人でも知られるそのアルテミスの、狙った獲物の動きを的確に予知し、休みなく風のように走り続ける下僕と称されているのが黄金の羊だ。
 五頭をいる内の真ん中の、三番目が留守番中に脱走したとオルフェウスから耳にしていたが、使役拒否が理由だったとは。

(…ということは、冥府の王ハデスはどうするつもりなんだろう…)

 そもそも使命の中にトリトスの捕獲が入っている理由がわからない。
 生け捕りにしろということはアルテミスに頼まれたのだろうかと疑問が湧く。
 すると、フフッとトリトスが笑った。

『あのね、ぼくとしてもね…ペルセフォネさまがいいんだよね』

 えっ…と聞き返すと、だからぁ~と言いながらまたピョーン、ピョーンと楽しそうに跳ね始める。

『ぼくに、楽園エレウシスで暮らさないかって言いに来たんじゃないの~?』

「!!」

 それは予知なのか、それとも心を読んだのか。
 秘かに激しく狼狽えると、そんなにすごくないよ~と羊が照れるように笑った。

『近くにいる時だけ、なんとな~くピピッってわかる程度なんだよね~』

 右に左にと動き回っている、落ち着きのない様に視線を捕らわれながら、それでもたいしたものだと感じ入る。
 声に出さないのにやりとりが成立しているのだから、程度はどうであれ、感知能力があることは間違いないだろう。

『ぼく、エレウシスに行ってもいいよ~、でも条件があるんだよね~』

 条件?条件とはなんだ?と聞き返すとポスンッと円錐型の台座の上にモコモコとした尻を着いて座った。

『条件はね~、必ずディケさんがぼくを抱っこして、ペルセフォネさまに手渡すこと~、これを守ってくれるなら姿も隠さないし、逃げもしないでちゃんと大人しくしてるよ~』

(え…抱っこ…?)

 奇妙な形で提示された内容はその程度の話かとも思えれば、少し手間がかかって面倒くさいようにも思える。
 どうしてそんなことをする必要があるのかと率直に問いかけた。

『だって、ぼく、まだ死にたくないもん』

 唐突に発せられた、死という不穏な響きにギクリとさせられた。
 屈託ない小さな発言者をまじまじと見つめた。
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