最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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魔王の誘い

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 らせん状に波打つ円形の陣を作り終わると、ラシュレスタがそのまま宙で優美に人差し指を躍らせた。指先から出る銀色の光が宙という石版に勅令を刻みつけるがごとく、魔陣の上部でツラツラと文字を綴っていく。

 『一.行為は今からニの刻までに終わらせ、射精は一度のみ。体外で出す。
  二.容姿は今の姿のままで。内なる獣の表層化を禁ず。口づけも不可。
  三.上記の内容で一度想いを遂げた後は、二度と口に出さない、しないと誓う。
  四.条件と約束を破りし時は契約時にかけた倍の制裁をその身で受け、
    契約者であるラシュレスタの希望を叶える』
 
 制限を具体的に設けなくては果てしなく付き合う羽目となる。そんなリスクを回避するための文言。

 自らの体液と上質な魔気を使ってまでの正統儀式。自分の本気は見せた。さぁ、どうでる? とラシュレスタが魔王に視線で問いかける。

 「おぅおぅ・・・これはこれは・・・なんともやたらと一方的で細かいではないか・・・フフフ・・・口づけは嫌よぉ~ とは、どこぞの高級娼婦のようではないか・・・フフフ・・・内なる獣はやめてぇ~ とは、そなたは初夜に臨む気位の高い処女の姫君か? フフフ・・・ん~?」

 いちいち声に出して読んで終えた魔王が、愉快げに茶化す。

 「このじいの姿でニの刻までに一度のみときたか・・・しかも外へ出せとはのぅ・・・フフ・・・我としてはそのように早漏に思われても困るがのぅ・・・フフフ・・・・・・だが・・・」

 魔王が赤い舌で黒く乾いた上唇をペロリと濡らすと立ち上がった。

 「そなたの蜜は飲み放題ときたか・・・フッ・・・そこは太っ腹か・・・」

 突如、その瞳にギンッとした赤光が宿った。

 「かつて四枚羽の上級天使、寵愛を一身に受けていた者よ。堕天の身でありながら、なおも繋がり続ける者よ。ラシュレスタ・・・・・・我はそなたの条件を飲み、そなたを味わい尽くしてやろうぞ。このゼフォー、この契約、しかと受け入れる。この力を持ってして」

 瞬時にして正気を取り戻し、嫉妬をまぶしたかのような低い声音。バシュッ!! と長く黒い爪が老躯ろうくを装う手首をかっ切た。溢れ出た黒い体液をまき散らかすかのようにして手を大きく振る。

 バチバチバチバチッ・・・・・・ボワッッ!!

 魔陣と接触した箇所が火花を派手に散らし、間髪入れずに天上まで上がった漆黒の炎と煙が禍々しい黒龍を型取る。

 ボボボボボボォォォォーーーブォォオオオオォォォォーーー

 大きく口を開けた龍が低いうなり声を上げて飲みこむがごとく、ラシュレスタの魔陣を覆い尽くした。


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