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魔鏡 “アブラハムには十三体の子”

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 「ラシュレスタさま、誠にお見苦しいところをお見せしました。申し訳ございませんでした」

 体裁を取り戻したインとサツが両手を着いて深々と謝ると、立ち上がり、魔鏡に向き合った。
 
 「今一度、我が主、魔王ゼフォーさまの名と呪において命ずる。魔鏡“アブラハムには十三体の子”よ、魔王さまを高速運転版で映せ」

 「はっはぁ~ 高速運転版、喜んで~ かしこまり~ 増し増しました~ でありんす」

 魔鏡が見えない帽子でも脱いで挨拶するかのような滑稽な仕草を見せると、その上部の縁に小指程度のミニチュアがモコッと現れた。

 本体に下が繋がった状態で、両手を勢いよく前で交差するように振り、歌い始める。

 アブラハムには 十三体の子~
 チビから始まり 何番目~

 歌い終わると、ボッと紫色の輝きが鏡面に宿った。しばらくして首を傾けると、紫色の両手を×印にして映せないと本体に示す。すると、モコッと二倍の大きさのミニチュアが隣に立ち上がった。

  アブラハムには 十三体の子~
  チビから始まり 二番目~

 またしても両手を元気よく振りながら歌い始める。終わると、ボッと紫色の輝きを鏡面に宿した。

 今度もまたしばらくして首を傾けると、紫色の両手を×印にして映せないと本体に示した。すると、モコッと一番始めのサイズの三倍の大きさのミニチュアがその隣に立ち上がった。

  アブラハムには 十三体の子~
  チビから始まり 三番目~

 そのまま続けること、五番、六番、七番と・・・・・・一体、いつまで待たされるんだ。これで高速運転版か――ラシュレスタの全身から怒気が上がり始めた気配に淫魔たちが慌て始める。

 「ま、魔鏡よ、まだ繋がらない・・・の?」

 「いやぁ~ それが・・・でありんすねぇ~ 圏外にでもいらっしゃるのでしょうか・・・でありんす・・・ど~にもこ~にも魔妖波の状態がですねぇ~ でありんす」

 確実に高くなっていく自身のミニチュアを七本、上部に立てた状態で魔鏡が首を傾げる。揺れて、おぉぉ・・・と分身たちが声を上げた。
 
 「残り全部、一気に十三までやれ。それで映らなかったら、帰る」

 「いやぁ~ これは・・・でありんすねぇ~ 順々に行うのが儀式・・・でありんすから~ でありんす」

 道化師気質としては、やはりどこで繋がるか、ワクワクと楽しんでもらいたい。そんな気持ちで両手を揉みながら申し立てた魔鏡に、凍てついた極寒地のような瞳が向けられた。ヒッと震え上がる。

 「やれ」

 問答無用とばかりに発せられた一言だけの重み。魔鏡が、ははっ~ でありんす・・・とかしずくと、モコモコモコモコモコモコッと残り六本が一斉に階段状に立ち上がった。

  アブラハムには 十三体の子~
  チビから始まり 最後まで~

 高速運転版に省略版が加わる。速やかに合唱し終わると、ボボボボボボッ・・・と紫色の輝きが六つの鏡面に点った。

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