最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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魔鏡 “アブラハムには十三体の子”

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 途端に、ブワンッと本体の鏡面が黒みがかった紫色の光を発した。瞬時にして質が変わる。

 表面から黒煙がモクモクと溢れるようにして広がり始め、黒く汚れた泥沼でも張り付いたかのような様相。その混じりけのない純たる闇の色合い。

 もはや鏡の表ではない。明らかにこの場ではない異空間へと繋がったことを察知したインとサツが顔を輝かせ、ラシュレスタが柳眉をわずかにひそめた。

 ボコッ・・・

 地下のマグマを熱源とする温泉のように、邪悪の深淵と化した表面が何かに押し上げられたかのようにして気泡を浮かび上がらせる。

 ボコッ・・・・・・ボコッ・・・・・・ボコッ・・・

 1つまた1つと。

 ボコッ・・・・・・ボコッ・・・・・・ボコッ・・・

 だが、ぬめっと粘着質な泡が次から次へと現れては消えていくだけで、画面が一向に変わる様子を見せない。

 「ゼ、ゼフォーさま・・・?」

 サツがおそるおそる声をかけた途端に、

 「ゥ”オ”ォ”オ”ォォォオ”オ”ォォォォーーーッ」

 と獣が低く唸るような音が聞こえてきた。

 ビリビリビリッと空間が振動で揺れ、床で跪いていたインが、キャッとひっくり返る。

 続いて、フワァ”ァア”アァ”ァアァァーーーと息を鋭く吐くような伸びでもしているかのような気配。

 だが―――

 「ぅぅんん~? ん~? おおぅ・・・繋がったかぁ~ フフフ・・・そこにいるは~ 我が魔王妃か? ご機嫌はいかがかのぅ? ずいぶんと寝こんでいたようだがのぅ・・・我が激しく愛しすぎたか? フフフ・・・」

 とのんびりととぼけたいつもの声が聞こえてきた。

 会いたくない相手との対面と魔王妃という不快極まる響き。ラシュレスタが舌打ちをしたい気持ちを抑えながら、声の主がいる場所について先に思案する。

 (魔獄谷か・・・)

 おそらくは魔獣を産んだ闇の世界。奈落の底。邪悪がはびこる深淵の中の深淵。

 そこだと感知したラシュレスタが、契約を反故にする都度、誓約時の倍の力でその身に返報を受けていた様子を思い起こした。

 時間を守らなかったこと、中で出そうとしたこと・・・自ら放った報復を受けたことで魔気と力を使い切った結果、魔獄谷に身を浸すなりなんなりして回復を計っているのだろう。

 (だが果たして、姿を見せないのはそれだけが理由か―――?)

 半邪半聖の堕天の身である自分だけが察知できる違和感。どんなに邪悪化しようとも、獣と同化しようとも、決して喪失することのできない片割れなのだ。

 まさか、その不浄の地でも繋がっているというのか・・・・・・いや、それはさすがに邪推かもしれない。だとしても、どうしようもなくギリッと胸くそ悪い気持ちになる。ラシュレスタがケープの中で自身の腕に爪を立てた。

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