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人間界 約束の地にて 会う

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 多くはあえて踏みこまない。だが、ルーカがハッとした顔を見せた。

 「そうだ・・・・・・そうだ、ローズさん!! ローズさんが危ない!!」

 重大なことでも察したかのような色合いを瞳が一気に帯びた。

 「なんてことだ、ローズさん・・・そうだ、ローズさんが狙われる・・・どうしたら・・・どうしたらいい・・・」

 下を向いて、首を左右に振るその様子。自身の内になにかを探しているようなその仕草。確固たる導きを求めて、思案している。

 「楽師たる存在が現れたと報告すれば、間違いなくローズさんに興味を持つ・・・そして、ローズさんに・・・いや、そんなことは絶対にダメだ・・・だから、ここは楽師ではなく作業員が一人増えたことにして・・・ローズさんを守らなくては・・・楽器に触れて頂く時間も・・・教区長と考えなければ・・・」

 なんという心根の清らかさ。我が身よりも他者を真っ先に心配するその姿に、ラシュレスタが内心苦笑した。

 「大丈夫です、ローズさん・・・心配は無用です。我々がローズさんをお守りします。確かに、とても厄介な方なのです。男女関係なく、興味を持てば、自分の思い通りになって当然だといった非道な振る舞いを・・・でも大丈夫です。教団が一丸となって、輝きの大天使さまが遣わして下さったあなたをお守りします!! あなたには指一本、触れさせません!!」

 今さっきまで、自分がなにをされていたのか。すっかり抜け落ちてしまったと言ってもいいほどの強い使命感。

 保身に走る人間が多い中、これぞまさに天使に愛される資質だなと、ラシュレスタが感じ入る。

 「シモーニ修道士ーー!! どうかされましたかーー!?」

 信徒らしき複数の人間が異常に気がつき、走ってくる。ルーカもまた手を振って応じる。その歩み寄っていく背中を見守りながら、ラシュレスタがサニキニウスたる人物を思い起こした。

 (厄介な相手だな・・・)

 権力を持った野蛮な相手。おそらくは今回が初めてではないだろう。そして、今後も確実に続くだろう。多額の寄付を受け取る側としての立場上、逆らえないことは元より、腕力で適う相手でもない。さらに―――

 (あの男・・・)

 人の世で、聖なる性質を持つ者に俗物スノッブはつきものだ。霊性を高めさせるがために、天界は時に試練を与える。その魂の成長を願って。

 だが果たして、乗り越えるべき困難と一言で片していい類なのか。

 (あの男には魔がついている)

 知力と品性と良識の欠如だけではない。左胸に巣くっていた闇のモヤ。邪教でも信じているのだろうか。それとも――

 (なんだか嫌な予感がする・・・)

 四枚羽の天使に守られているルーカ。そして、ここは光の祝福を受けた聖地なのだ。少し深く警戒しすぎなのかもしれないと考え直す。

 それでも、どこか払拭しきれない不穏な気配に、ラシュレスタがギュッと胸の鏡を握りしめた。

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