69 / 157
人間界 約束の地にて 会う
13
しおりを挟む
多くはあえて踏みこまない。だが、ルーカがハッとした顔を見せた。
「そうだ・・・・・・そうだ、ローズさん!! ローズさんが危ない!!」
重大なことでも察したかのような色合いを瞳が一気に帯びた。
「なんてことだ、ローズさん・・・そうだ、ローズさんが狙われる・・・どうしたら・・・どうしたらいい・・・」
下を向いて、首を左右に振るその様子。自身の内になにかを探しているようなその仕草。確固たる導きを求めて、思案している。
「楽師たる存在が現れたと報告すれば、間違いなくローズさんに興味を持つ・・・そして、ローズさんに・・・いや、そんなことは絶対にダメだ・・・だから、ここは楽師ではなく作業員が一人増えたことにして・・・ローズさんを守らなくては・・・楽器に触れて頂く時間も・・・教区長と考えなければ・・・」
なんという心根の清らかさ。我が身よりも他者を真っ先に心配するその姿に、ラシュレスタが内心苦笑した。
「大丈夫です、ローズさん・・・心配は無用です。我々がローズさんをお守りします。確かに、とても厄介な方なのです。男女関係なく、興味を持てば、自分の思い通りになって当然だといった非道な振る舞いを・・・でも大丈夫です。教団が一丸となって、輝きの大天使さまが遣わして下さったあなたをお守りします!! あなたには指一本、触れさせません!!」
今さっきまで、自分がなにをされていたのか。すっかり抜け落ちてしまったと言ってもいいほどの強い使命感。
保身に走る人間が多い中、これぞまさに天使に愛される資質だなと、ラシュレスタが感じ入る。
「シモーニ修道士ーー!! どうかされましたかーー!?」
信徒らしき複数の人間が異常に気がつき、走ってくる。ルーカもまた手を振って応じる。その歩み寄っていく背中を見守りながら、ラシュレスタがサニキニウスたる人物を思い起こした。
(厄介な相手だな・・・)
権力を持った野蛮な相手。おそらくは今回が初めてではないだろう。そして、今後も確実に続くだろう。多額の寄付を受け取る側としての立場上、逆らえないことは元より、腕力で適う相手でもない。さらに―――
(あの男・・・)
人の世で、聖なる性質を持つ者に俗物はつきものだ。霊性を高めさせるがために、天界は時に試練を与える。その魂の成長を願って。
だが果たして、乗り越えるべき困難と一言で片していい類なのか。
(あの男には魔がついている)
知力と品性と良識の欠如だけではない。左胸に巣くっていた闇のモヤ。邪教でも信じているのだろうか。それとも――
(なんだか嫌な予感がする・・・)
四枚羽の天使に守られているルーカ。そして、ここは光の祝福を受けた聖地なのだ。少し深く警戒しすぎなのかもしれないと考え直す。
それでも、どこか払拭しきれない不穏な気配に、ラシュレスタがギュッと胸の鏡を握りしめた。
「そうだ・・・・・・そうだ、ローズさん!! ローズさんが危ない!!」
重大なことでも察したかのような色合いを瞳が一気に帯びた。
「なんてことだ、ローズさん・・・そうだ、ローズさんが狙われる・・・どうしたら・・・どうしたらいい・・・」
下を向いて、首を左右に振るその様子。自身の内になにかを探しているようなその仕草。確固たる導きを求めて、思案している。
「楽師たる存在が現れたと報告すれば、間違いなくローズさんに興味を持つ・・・そして、ローズさんに・・・いや、そんなことは絶対にダメだ・・・だから、ここは楽師ではなく作業員が一人増えたことにして・・・ローズさんを守らなくては・・・楽器に触れて頂く時間も・・・教区長と考えなければ・・・」
なんという心根の清らかさ。我が身よりも他者を真っ先に心配するその姿に、ラシュレスタが内心苦笑した。
「大丈夫です、ローズさん・・・心配は無用です。我々がローズさんをお守りします。確かに、とても厄介な方なのです。男女関係なく、興味を持てば、自分の思い通りになって当然だといった非道な振る舞いを・・・でも大丈夫です。教団が一丸となって、輝きの大天使さまが遣わして下さったあなたをお守りします!! あなたには指一本、触れさせません!!」
今さっきまで、自分がなにをされていたのか。すっかり抜け落ちてしまったと言ってもいいほどの強い使命感。
保身に走る人間が多い中、これぞまさに天使に愛される資質だなと、ラシュレスタが感じ入る。
「シモーニ修道士ーー!! どうかされましたかーー!?」
信徒らしき複数の人間が異常に気がつき、走ってくる。ルーカもまた手を振って応じる。その歩み寄っていく背中を見守りながら、ラシュレスタがサニキニウスたる人物を思い起こした。
(厄介な相手だな・・・)
権力を持った野蛮な相手。おそらくは今回が初めてではないだろう。そして、今後も確実に続くだろう。多額の寄付を受け取る側としての立場上、逆らえないことは元より、腕力で適う相手でもない。さらに―――
(あの男・・・)
人の世で、聖なる性質を持つ者に俗物はつきものだ。霊性を高めさせるがために、天界は時に試練を与える。その魂の成長を願って。
だが果たして、乗り越えるべき困難と一言で片していい類なのか。
(あの男には魔がついている)
知力と品性と良識の欠如だけではない。左胸に巣くっていた闇のモヤ。邪教でも信じているのだろうか。それとも――
(なんだか嫌な予感がする・・・)
四枚羽の天使に守られているルーカ。そして、ここは光の祝福を受けた聖地なのだ。少し深く警戒しすぎなのかもしれないと考え直す。
それでも、どこか払拭しきれない不穏な気配に、ラシュレスタがギュッと胸の鏡を握りしめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
126
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる