最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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陰謀 出現 そして・・・

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 (あぁ・・・ルーカ・・・)

 見たくもない光景。テラスに降り立った者が耐えきれずに顔を背けて、瞳を閉じた。

 (なんてことだ・・・)

 間に合わなかったのだ。自分がもっと早くに来れていれば・・・ラシュレスタの胸に後悔の念がこみ上げる。

 本意ではないことなど、手に取るようにわかる。卑劣にも薬を使われたのだ。かわいそうに。こんな目には遭わせたくなかった。遭わせたくなかったのに―――心が痛んで仕方が無い。

 一体、ルーカがなにをしたというのか。ただ純粋に慕っていただけなのに。それは誰に迷惑をかけるわけでもない、控えめな恋情。

 それが身勝手な劣情と卑屈な劣等感に踏みにじられた。お前なんかに。
 
 (許さない・・・)

 ラシュレスタの瞳に怒りの炎が燃え上がった。

 サニキニウスが無防備な両脚を抱え上げる・・・と同時に、ラシュレスタがヒュンッと手のひらを下ろした。指先から魔霊気が繰り出される。

 シャャアァァーーーーッ・・・・・・と床の上を風が走り抜けた。

 ドスゥウゥッ!!

 鈍い音とともに、サニキニウスのみぞおちにめりこんだ。

 グホッ・・・

 呻き声とともに、岩のような巨体が吹っ飛ばされていく。

 ガッシャーーーーン!!

 部屋の端、祭壇のような台に叩きつけられて、ズルズルズル・・・と崩れ落ちた。

 邪術用のろうそく立て、鏡、器、ナイフなどが豪快に床の上に散らばる。壁から飛び出すようにして飾られていた山羊の剥製が、ドォンッ・・・と派手に落下した。

 ガハァッ・・・ゴフッ・・・・・・

 サニキニウスが大量の血を吐き出す。だが、その程度で許せるはずがない。ラシュレスタが親指の爪先で中指の腹を弾いた。

 「αελτρεῖς・・・οἶδα· ἐγὼ ・・・」

 呪を唱えながら、パチンと叩き、体液の粒を押し出すようにして宙へと投げ飛ばす。受け取めた気流がグルグルと渦を巻いて形を象った。それは半透明の、屈強に盛り上がった戦士の上半身。

 ガッ、ガッ、ガッ、ドスッ!! ドスッ!! ガッ、ガッ、ガッ、ドスッ!! ドスッ!!

 顔面、頭部、腹部に。右から左に、下から上に。風でできた闘士の怒りの拳が叩きこまれる。

 無抵抗の相手への反撃の隙など一切与えない、激しい殴打。サニキニウスの巨躯きょくが格闘家の練習用の布袋のように、ただただ翻弄される。

 どうしてくれようか。永遠に殴り続けてやろうか―――フツフツとした憎悪の感情を抱えながら、ラシュレスタがルーカに走り寄った。

 「ルーカ・・・しっかりしろ・・・」

 ぐったりとして倒れている裸体。その上半身を腕に抱え上げて、顔を覗きこんだ。

 「ぁっ・・・」

 焦点の合わない瞳が、認識できない相手に拒絶を見せる。

 「いや・・・だ・・・や・・・だ・・・やだ・・・」

 性的快感に囚われた、どうしようもない身体の感覚と行きつ戻りつする理性。ハァハァ・・・と苦しそうな息を漏らしながら、ルーカが首を振る。

 「やめ・・・て・・・やだ・・・」

 「大丈夫だ・・・すぐに浄化してやる・・・大丈夫だ・・・」

 痛々しい相手をギュッとラシュレスタが抱きしめた。右手に霊気だけが集まるように意識を向ける。

 その時―――

 「まぁ、どうされたのですか? 乱暴なことをされて・・・それに、これからでしたのに・・・」

 突如、聞こえてきた声。にわかには信じがたい声音に、ラシュレスタが顔を上げた。

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