最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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魔界の王と天界の最高位と

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 (あぁ・・・)

 ネイオロスからの視線を痛いほど感じる。かつての上長。侮蔑などするはずがない質実剛健な六枚羽の天使。

 だが、それでも心の内ではどれほど困惑しているだろうか。堕ちた上に、魔王とそんな関係になってるとは、さすがに言葉も出ないだろう――

 妻なんかではないと否定したい。説明したい。だが、うかつに反応すれば、魔王が嬉々として揚げ足を取りに来るだろう。

 「堕天した上級天使が魔王妃になったのだぁ~ 祝いの言葉でももらわないとのぅ・・・フフフ・・・」

 ラシュレスタが屈辱のあまりに、下を向いて涙ぐむ。悔しくて悔しくてたまらない。それでも、この場で罵るわけにも泣くわけにもいかない。グッと堪える。

 「ネイオロス・・・そなただから任せたのだ。今すぐ責務を果たせ」

 温和な存在からのいつになく強い口調。ネイオロスが察した。この場にいることが、かえって足を引っ張る可能性があるのだと。

 魔界の王と化した相手を前に、最高位たる者の考えがあっての単独行動なのだ。

 「出すぎたことを言いました。申し訳ございませんでした・・・すぐに着手いたします」

 バッと翼を広げるとすぐさま飛び立った。

 「おぅおぅ・・・去る時はやたらと素早いモノよのぅ・・・フフフ・・・もっと楽しい世間話を聞かせてやったのにのぅ・・・たとえば、そなたがどんなことをされるのが好きかとかのぅ・・・我が妃よ・・・のぅ?」

 「兄上・・・」

 シャルスティーヤがその先を制するように口を開いた。

 「我が兄、ヤヌスティーヤよ・・・」

 その言葉かけに、愉快げにユラユラと左右に揺れていた存在がピタリと動きを止めた。

 「・・・・・・まだ、我をその名で呼ぶのか・・・シャルスティーヤ・・・」

 天界におけるかつての双翼。その魂に問いかけたかったのか。だが、今となっては――と、ラシュレスタもまた信じがたい気持ちで見つめる。

 「もはや、そのような者はおらぬわ・・・」

 ぬぅぅぅぅ・・・と鎌首をもたげる蛇のように、闇色の身を長くした。

 「我は魔界の王、ゼフォーぞ・・・」

 燦然と輝いて宙に浮かぶ最愛の弟を目指してさらに伸び上がる。

 「あぁ・・・シャルスティーヤ・・・シャルスティーヤ・・・シャルスティーヤ・・・」

 陣とつながったままの尾をひゅるひゅるとくねらすようにしながら、獲物を狙う肉食動物のようにその周りをぐるぐると回る。

 「そなたに・・・触りたい・・・抱きたい・・・あぁ・・・我の愛しいシャルスティーヤ・・・」

 手を伸ばしかけては引っこめ、また触れようとして伸ばしかける。

 だが下手に触れると、一過性の貧弱な邪術など吹っ飛んで、一瞬にして魔界に戻るはめとなる。だからこそ、触れられないのだ。

 可能な限り、長く側にいたい。せっかく会えた最愛の存在なのだから。とはいえ、それでも触れたい―――魔王が闇の風を漂わせて、黄金に輝く髪をほんのわずかにだけ持ち上げた。

 「あぁ・・・美しい・・・なにひとつ変わらぬ・・・」

 せめて髪だけでも・・・そんな想いが見て取ってわかるように愛おしげに唇を寄せていく。

 「いや・・・そうではない・・・そう・・・その瞳よ・・・そなたはどんな色合いでも美しいが、我が天界にいた時にはそのような色はしたことはなかったぞ・・・」

 ふいっと顔を上げて、ギラつく瞳で食い入るように眺めた。

 「我のシャルスティーヤよ・・・その瞳の色はどうした? 誰かのなにかと共鳴・・・したか? いや、まさか・・・そのようなことはあるまいな?」

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