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最愛の者 腕の中に
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(シャルスティーヤさま!!)
これは幻聴なのか。それとも、あの最後の記憶に無意識にでもすがっているのだろうか―――その疑問に応じるように、また聞こえた。
『ラシュレスタ・・・繋がっているのだ・・・さぁ、求めろ・・・我を呼べ』
静かでいて、それでいてしっかりと告げられた言葉。その凜とした美しい響き。間違いなく、愛しい存在の声だ。
(あぁ・・・シャルスティーヤさま・・・)
魔界にいる自分に起きた、奇蹟としか思えない現象。一瞬にして、瞳が潤んだ。
(まさか・・・そんな・・・まさか・・・)
信じられないとラシュレスタが首を振る。
いかなる階層であろうと、発揮する万能たる力。
だが、そうはいっても、複数の界から成り立つこの世界は、そのバランスを維持するために、創造主があえて階層間に設けた不可侵の法則がある。
たとえ最高天使だろうと、安易に界を越境をしてはならない。できないのだ。
その界にいる者からの純然たる求め、願い、念―――欲する者からの純粋な働きかけがない限りは、繋がれないのだ。繋がれない以上は、越えられない。
主の創った世界の秩序を壊さないように。それが暗黙の規定。
(あぁ・・・まさか・・・)
それなのに、あの後も、魔界という対極に連れ戻された、自分からの願いを待っていてくれていたというのか。そんな・・・とラシュレスタの瞳から涙がこぼれ落ちた。
だが、そのラシュレスタの背後で、突然、魔王が尋常ではない声を上げた。
「な、なんだ・・・こ、これは・・・一体・・・どういうことなのだ!?」
(ま、まずい・・・)
気がつかれたか。そうなっては確実に邪魔をされる。それどころか、またいたぶられる・・・ラシュレスタが咄嗟に身をこわばらせた。
二度と闇の胞子になんかに乗っ取られたくない。もう、あんな目には遭いたくない。怯えが走る。だが、次に信じがたい言葉が続いた。
「シャルスティーヤ・・・・・・なぜ、そなたがここにいるのだ!?」
その内容に思わず、振り返った。視界に入ってきた光景。ラシュレスタが目を大きく見開いた。
「なぜだ、シャルスティーヤ・・・なぜなのだ・・・いや、いるわけがない・・・ここは魔界なのだ・・・だとするならば、我は、そんなにも影をそなたに似させて作ったということなのか?」
魔王が真剣に問いかけている相手、それは紛れもなく、自らが作った傀儡だ。
「いや、本当に我の作った分身なのか・・・そなたそのものではないか・・・」
どこからどう見ても土気色をしたまがい物を相手に、うっとりと魔王が魅入っている。魔王の目には最愛の弟として映っているのだ。
(あれは・・・)
その両目が金色の光にぼんやりと覆われていることに、ラシュレスタが気づく。
(そうだ、確か、あの時・・・)
『なんだ!! 見えぬではないか!!』
ラシュレスタの記憶の中で、魔王の声が再現された。金色の細片で目を覆われていた魔王。魔王もまた、知らないうちに呪がかけられていたのだ。
それがラシュレスタの願いと同時に発動した。仕掛けた者の意図によって。
(そんな・・・まさか・・・)
おののくラシュレスタの前で、魔王が影に手をかけた。
これは幻聴なのか。それとも、あの最後の記憶に無意識にでもすがっているのだろうか―――その疑問に応じるように、また聞こえた。
『ラシュレスタ・・・繋がっているのだ・・・さぁ、求めろ・・・我を呼べ』
静かでいて、それでいてしっかりと告げられた言葉。その凜とした美しい響き。間違いなく、愛しい存在の声だ。
(あぁ・・・シャルスティーヤさま・・・)
魔界にいる自分に起きた、奇蹟としか思えない現象。一瞬にして、瞳が潤んだ。
(まさか・・・そんな・・・まさか・・・)
信じられないとラシュレスタが首を振る。
いかなる階層であろうと、発揮する万能たる力。
だが、そうはいっても、複数の界から成り立つこの世界は、そのバランスを維持するために、創造主があえて階層間に設けた不可侵の法則がある。
たとえ最高天使だろうと、安易に界を越境をしてはならない。できないのだ。
その界にいる者からの純然たる求め、願い、念―――欲する者からの純粋な働きかけがない限りは、繋がれないのだ。繋がれない以上は、越えられない。
主の創った世界の秩序を壊さないように。それが暗黙の規定。
(あぁ・・・まさか・・・)
それなのに、あの後も、魔界という対極に連れ戻された、自分からの願いを待っていてくれていたというのか。そんな・・・とラシュレスタの瞳から涙がこぼれ落ちた。
だが、そのラシュレスタの背後で、突然、魔王が尋常ではない声を上げた。
「な、なんだ・・・こ、これは・・・一体・・・どういうことなのだ!?」
(ま、まずい・・・)
気がつかれたか。そうなっては確実に邪魔をされる。それどころか、またいたぶられる・・・ラシュレスタが咄嗟に身をこわばらせた。
二度と闇の胞子になんかに乗っ取られたくない。もう、あんな目には遭いたくない。怯えが走る。だが、次に信じがたい言葉が続いた。
「シャルスティーヤ・・・・・・なぜ、そなたがここにいるのだ!?」
その内容に思わず、振り返った。視界に入ってきた光景。ラシュレスタが目を大きく見開いた。
「なぜだ、シャルスティーヤ・・・なぜなのだ・・・いや、いるわけがない・・・ここは魔界なのだ・・・だとするならば、我は、そんなにも影をそなたに似させて作ったということなのか?」
魔王が真剣に問いかけている相手、それは紛れもなく、自らが作った傀儡だ。
「いや、本当に我の作った分身なのか・・・そなたそのものではないか・・・」
どこからどう見ても土気色をしたまがい物を相手に、うっとりと魔王が魅入っている。魔王の目には最愛の弟として映っているのだ。
(あれは・・・)
その両目が金色の光にぼんやりと覆われていることに、ラシュレスタが気づく。
(そうだ、確か、あの時・・・)
『なんだ!! 見えぬではないか!!』
ラシュレスタの記憶の中で、魔王の声が再現された。金色の細片で目を覆われていた魔王。魔王もまた、知らないうちに呪がかけられていたのだ。
それがラシュレスタの願いと同時に発動した。仕掛けた者の意図によって。
(そんな・・・まさか・・・)
おののくラシュレスタの前で、魔王が影に手をかけた。
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