最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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忘却の河のほとりには

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 スッ・・・

 優しく撫でてくれていた、ふわんと温かい空気が離れるような気配がした。

 カシャン、カシャン、カシャン・・・・・・

 続けて聞こえてきた微音とわずかな振動に。ピクリとラシュレスタの指先が動いた。

 琥珀色の瞳が静かに開く。シーツに投げ出された手の先。通路を歩いて去っていく背中が目に入ってきた。

 キラキラと腰まで流れる、黄金の豪奢ごうしゃな長い髪。たなびく、清らかな白い聖衣せいいに、ぼわんと輝きを発する立体的な膨らみが二箇所。

 右手を扉の前にかざして、シュンッと開けたその姿。行ってしまう!! と察したのと同時に、跳ね起きていた。

 「シャルスティーヤさまっ!!」

 あぁ、行かないで。お願い、行かないで。もう離れたくない、片時も。いやだ、行かないで―――瞬時にしてこみ上げ、瞳が潤んだ。

 光り輝く相手がわずかに振り返った。その表情は眩しさのあまりに、よく見えない。

 「ラシュレスタ・・・そちらの窓は、忘却の河のほとりに繋がっている」

 言われて、視線を反対側に向けた。外に出られる大きな窓枠。柔らかな白光を放つ、上品なカーテンで覆われている。

 (忘却の河の・・・ほとりに?)

 そこは天界に一番近い階層の。煉獄れんごくの地。

 死者の霊体が未練や悔恨かいこんと向き合い、忘却の川と呼ばれる聖水の流れを進み続けることで、不浄を洗い落とし、天界のそのへとたどり着く。

 その歩む距離は、個々の魂によって異なるとされている場所。

 でも、なぜ、その地に繋がっているのか―――ラシュレスタがシャルスティーヤへと視線を戻した。

 「既に、アブラハムと薔薇は移動させてある。いずれは、ルーカも来ることになるだろう。これからは、ここで過ごせ」

 「!!」

 ラシュレスタが目を大きく見開いた。

 (そんな・・・そんな・・・そんな・・・)

 自分のために居場所を用意してくれているなんて。

 (あぁ・・・シャルスティーヤさま・・・そんな、そんな・・・)

 その深い愛情に胸が熱くなる。どこまで、わかって下さっているのか。

 嘲笑と侮蔑とは無縁の、愛と調和に満たされた天界へと。仮に、最高位の計らいで戻ったとしても、誰も自分を責め立てたり、見下したりはしないだろう。

 だが、一体、どんな心づもりで戻れるというのだろうか。そんな身勝手で厚かましいことは自分が一番、許せない。

 一方的な思いこみから堕天したのだ。それだけではない。どれほどの恥ずべき行為をしてきたか。

 その自分のいたたまれない心情を理解して、そして、踏まえた上で、ちゃんと行く先を用意してくれていたのだ。

 あの人間界での聖なる地の計画から、既に。こんな不出来な自分なんかのために。

 「ありがとう・・・ございます・・・」

 ラシュレスタがポロポロと涙をこぼした。不安定だった身に、これから安心して過ごせる場所がある。それがとても嬉しい。心遣いに感じ入る。

 「ラシュレスタ・・・・・・身体はつらくないか?」

 「えっ・・・」

 問われた途端に、意識が身体に向いた。トロッと垂れ流れている、その内股の感覚。カッと頬が熱くなった。

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