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愛に囚われた天使~シャルスティーヤ~
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「あぁ、なんという・・・喜ばしい知らせでしょうか・・・本当に、本当に嬉しいです!!」
ワァーッと感極まった声が上がる中、ポロポロとネイオロスが涙を零す。抱き合って言葉を交わす者と跳ね上がるようにして舞い上がる者と。慈愛と許しと感謝に満ちた喜びの波長が幾重の輪となって大きく大きく広がっていく。
「よかった。ラシュレスタ、本当によかった・・・」
「シャルスティーヤさま、おめでとうございます!!」
口々に想いを伝え合い、笑みを浮かべる、その思いやりと同胞愛に満ち満ちた場で腕に付けている魔鏡を静かに見つめた。
『ふっ・・・うっ・・・っ・・・』
アブラハムの前で声を上げて泣き崩れている姿に。眉根を寄せるとそっと口づけて浄化の光を注いだ。抱きしめてあげられない代わりに。
「まだやるべきことの途中だったな。我はこれから西へと向かう。この場での浄化を終えたら、そなたたたちは東に移動を始め、聖なる磁場で問題がないかどうか、確認してくれ。よいな」
「はっ!!」
頭を下げた一同の前で黄金の翼をバッと広げると飛び立った。
魔王が暴走させた邪気は人間界へ広範囲に渡って影響を与えたのだ。それら全ての被害や人々の状態をやはり自分が確認しなくてはならない。
天の眼で主要な霊場の状況を一通りは把握できてはいても。それがこの有限なる世界を護る者としての役割なのだから。
(ラシュレスタ・・・)
飛翔しながら心の中で問いかける。号泣して自身の振る舞いを愚かだったと後悔している者に。今すぐ会いにいけないことを許して欲しいと念を送りながら。
それだけではない。しばらく会えないだろう。世界を維持するためにあるこの身に個としての自由になる時間はとても少ないのだから。
けれども、やっと告知できたのだ。自分の番いだと。無償の愛、天界の頂点たる象徴・・・ゆえに公にできなかった。周囲を困惑させてはならないと重んじたばかりに。
そのために苦難を歩ませた日々がようやく終わったのだ。ようやく――
だというのに、自分の心がこの空のように晴れ渡ることはないのだ。釈然としない想いと向き合いながら水平線に視線を向ける。
(あぁ・・・)
取り戻し、抱きしめて、浄化もして、愛し合えたというのに。元の自分にはもう戻れないのだ。目の前に果てしなく続く境界線のように。溶け合うこともなく抱え続けるのだろう。くすぶり続ける、しこりのようなこの感覚を。
愛とは。執着とは。なんたるかを身をもって知ってしまったのだから。
(ラシュレスタ・・・)
愛に囚われた最高位の天使が。その美しい黄金の翼をはためかせていつまでもいつまでも飛び続けた。
完
ワァーッと感極まった声が上がる中、ポロポロとネイオロスが涙を零す。抱き合って言葉を交わす者と跳ね上がるようにして舞い上がる者と。慈愛と許しと感謝に満ちた喜びの波長が幾重の輪となって大きく大きく広がっていく。
「よかった。ラシュレスタ、本当によかった・・・」
「シャルスティーヤさま、おめでとうございます!!」
口々に想いを伝え合い、笑みを浮かべる、その思いやりと同胞愛に満ち満ちた場で腕に付けている魔鏡を静かに見つめた。
『ふっ・・・うっ・・・っ・・・』
アブラハムの前で声を上げて泣き崩れている姿に。眉根を寄せるとそっと口づけて浄化の光を注いだ。抱きしめてあげられない代わりに。
「まだやるべきことの途中だったな。我はこれから西へと向かう。この場での浄化を終えたら、そなたたたちは東に移動を始め、聖なる磁場で問題がないかどうか、確認してくれ。よいな」
「はっ!!」
頭を下げた一同の前で黄金の翼をバッと広げると飛び立った。
魔王が暴走させた邪気は人間界へ広範囲に渡って影響を与えたのだ。それら全ての被害や人々の状態をやはり自分が確認しなくてはならない。
天の眼で主要な霊場の状況を一通りは把握できてはいても。それがこの有限なる世界を護る者としての役割なのだから。
(ラシュレスタ・・・)
飛翔しながら心の中で問いかける。号泣して自身の振る舞いを愚かだったと後悔している者に。今すぐ会いにいけないことを許して欲しいと念を送りながら。
それだけではない。しばらく会えないだろう。世界を維持するためにあるこの身に個としての自由になる時間はとても少ないのだから。
けれども、やっと告知できたのだ。自分の番いだと。無償の愛、天界の頂点たる象徴・・・ゆえに公にできなかった。周囲を困惑させてはならないと重んじたばかりに。
そのために苦難を歩ませた日々がようやく終わったのだ。ようやく――
だというのに、自分の心がこの空のように晴れ渡ることはないのだ。釈然としない想いと向き合いながら水平線に視線を向ける。
(あぁ・・・)
取り戻し、抱きしめて、浄化もして、愛し合えたというのに。元の自分にはもう戻れないのだ。目の前に果てしなく続く境界線のように。溶け合うこともなく抱え続けるのだろう。くすぶり続ける、しこりのようなこの感覚を。
愛とは。執着とは。なんたるかを身をもって知ってしまったのだから。
(ラシュレスタ・・・)
愛に囚われた最高位の天使が。その美しい黄金の翼をはためかせていつまでもいつまでも飛び続けた。
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