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前編
第十二章 戦いの予兆-3
しおりを挟む北聖ネスレイ・バウワーはその日の仕事を終えると、執事のドパを下がらせ、自室で静かに瞑想をしていた。
そして突然声がしたかと思うと、そこに同朋の姿が現れる。
「やぁ、ネスレイ」
いつもヘラヘラと笑いながら大抵のことをこなす同朋ではあるが、今回ばかりは困惑と焦りが見え隠れしている。
その理由は聞かなくてもネスレイにはわかっていた。
ふた月ほど前、トップクラスの将軍の一人氷子が失踪し、今も行方不明になっている。
氷子はラクニアとベコちょうど真ん中あたりに位置する村出身で、里帰りをしていたところ、ある日突然連絡が取れなくなってしまったという。
氷子と割と仲の良い雷子が中心になって捜したが、その痕跡すら見つからない。
真偽は定かではないが、亡くなったとの噂もあった。
そしてそれを皮切りに、ネスレイの予知にも不穏な影が次々と現れだしたのだ。
ーーまもなくラクニアのあちこちで原因不明の爆発事件が起こり始めるーー
これが十日ほど前に西聖ガルデルマに伝えた予知の内容だった。
そして彼の様子を見るに、この予知が現実になり、次々と被害が広がってしまっているのだろう。
様々な対策を講じてはいたが、結局事件は起こり、それが今も続いているのである。
「原因は?」
もはや事柄の確認すらせずに、ネスレイは同朋に爆発事件の調査の結果を問うた。
「お前の予知でもわからなかったんだろう? 全く想像すらつかないさ」
完全にお手上げといったポーズをとり、ガルはため息をつく。
「そもそも爆破魔法の痕跡が全くない。俺も数か所確認しているから間違いない。こう、いきなり何の前触れもなく爆発が起こってるんだ。おかしいなんてもんじゃない」
幸いネスレイに爆破地点の予測情報をもらっているので、被害は最小限に食い止められている。
しかし爆破自体は防げていないし、原因が、敵がわからなくては、この件に関していつまでも解決しないということだ。
「……悪いな、苦労をかける。次の爆破地点、教えてもらえないか?」
ガルは悔しそうに頭を下げた。
自分の街に関する事件や問題の責任は、基本その街を担当する四聖にある。
それなのに彼頼みしかない現状がもどかしかった。
ネスレイは、彼が来る前に占っていたひとつの未来を告げる。
「多数の可能性」
「えええええええええっ!? 今にも増して起こるっていうのかい、うわあぁぁ!」
ガルは頭を抱えて唸りだした。
そもそも既に調査や民の避難、爆破阻止のため、風子、光子の応援までもらっている。
「しかもこの爆破事件に乗じて、賊がやらかしてるんだよ! いやまぁ、こっちはアテがあるからともかく。もうこの際、そいつら捕まえて吐かせたら全部解決ってなればいいのに!!」
賊に関してはネスレイは予知も助言もしていない。
つまり、ラクニアの機能が悪いわけでも、ガルの力不足という訳でもないことがうかがえる。
爆破事件に関しては、北聖の予知の力も及ばない、全くの難事件だった。
「はぁ……これじゃ、ディルクが来る前に解決とか出来そうにないよな、ちくしょう~」
「ディルク?」
そろそろ就任して二年になる、王都管轄の現東聖を思い浮かべた。
将軍の増援申請時に王都にも報告は済んでいるのだが、改善が見られないので、一度彼も様子を見に来るという。
「王都の見回りが終わり次第、うちに顔出すって言って来た。あいつに借りなんて作りたくなかったんだけどさぁ」
もう借りまくりなのではとネスレイは思ったが、敢えて指摘はしない。
代わりに、ディルクが来ることによる未来を視ようと目を閉じた。
「む?」
「ん? どしたの、ネスレイ。そういえば多数の爆発は可能性って……」
ネスレイは北聖になってからも予知の魔法の鍛錬を続け、今まで見えなかった条件付きの未来も、条件を仮定することで、その結末をある程度見ることができるようになっていた。
それは絶対ではない可能性のひとつだ。条件が満たされなければ起こり得ない。
しかし未来を選び、変えられる可能性を十分に秘めている。
だからこそ今はこうして積極的に占い、変えられるかもしれないその条件を探し求めるようにしていた。
多数の爆破というのは、確定事項ではなく、今のままでは起こる未来のひとつだ。
では、別の未来を導くにはーーガルが動く、将軍が動く、自分が動く、ディルクが動く、または動かないならどんな未来になるのか。そして他の仮定ではーーとあらゆる条件を指定しその未来を占っていく。
その予知は数時間に及んだ。
途中ネスレイの顔は緊張したり顰めたりと、眺めている側も心穏やかにはいられない。
ガルはそれでも根気よく、彼が占い終わるのを待った。
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