38 / 64
後編
第十三章 隣国からの来訪者-1
しおりを挟むディルクはガルに言われ、ラクニアの西へ逃げた賊たちを追った。
普段なら警備隊や兵に任せるところなのだが、ラクニアの怪事件を追っていて、皆手が空いてないとのことだった。
「どうせ難事件の解決の糸口をまだ見つけてなくて、今俺に街中見られたくないとかそんなことだろうけどさ」
変にプライドあるからなーガルは、と呟きながら単身荒野を行く。
フィデスとボルスは明日王都の仕事を片付け次第、ラクニアに来ることになっている。
魔力の残りを考えると心許ないが、久しぶりの一人は少しホッとした。
従者にも大分慣れてきてはいるのだが、やはりどうにも化け物としての自らのリスクを考えると緊張する。
それなのに王子も周りも、従者の次は恋人だの嫁だの無責任なことばかり言ってくる。
「潰すのなんて、一人でたくさんだってのに」
今は存在するだけで、王都にいられるだけで十分なのだから。
◇◆◇◆◇
賊たちに襲われていた一人の少女を後ろに庇いつつ、目の前に標的を捉え、ディルクはなけなしの魔力を編み出した。
「落雷!」
昔とは比べ物にならない弱い爆発。
しかし突如、男の悲鳴と共に少女の悲鳴が聞こえ、ディルクは驚き振り向いた。
一瞬、目を離した隙に別のメンバーが彼女に手を出したのかと思ったが、他に人は見当たらず、皆黒こげになって倒れている。
だが、無事な筈の少女の顔は恐ろしい程に蒼白だった。
ディルクはその顔を知っていた。
この世にあってはならないものを見たような、恐怖。
ナリィがディルクのオーラを見た時のようにーー。
突如、ディルクの心臓が跳ね上がった。
彼は慌てて額に手をやり、なんの飾り気もないそのサークレットに触れると背後を振り向く。そして、自分のオーラが露わになっているわけではないと確認すると、ようやく思考を取り戻した。
しかし彼女の顔は変わらない。というより、今の彼の一連の動作も動揺も目に入っていないようだった。
(俺に驚いたわけじゃないのか? でも他に驚くようなことも別に……?)
ディルクはとりあえず気絶した賊たちを縛り上げ、廃墟の瓦礫の陰にまとめるが、その間も彼女はピクリとも動かない。
まさか自分の放った初歩魔法に衝撃を受けているなどとは夢にも思わない彼は、一連の仕事を終えると改めて何のアクションもない少女に向き直った。
そして今は貸したマントを羽織っているものの、半裸で襲われかけていた事実を思い出す。
「えっと……大丈夫か?」
意を決して声をかけ返ってきた反応で、ディルクへの恐怖や驚愕でないことはすぐにわかった。
なんだか言葉がちぐはぐでおかしいが、一生懸命お礼を言おうとしてくれているのもわかる。
蒼白な表情は、未遂だったものの襲われかけていた恐怖からかもしれない。
彼にとって、おかしな言葉など、とても些細なことだった。
少女はディルクが差し出した手を取り、立ち上がろうとする。しかし思いもかけずふらついたので、彼は咄嗟に支えた。
「慌てなくていいから、座れよ」
「ご、ごめ、ん。ありが、とう」
困惑しながらゆっくり座り、じっと黙り込む少女。顔はまだ青く、動くには少し時間が必要かもしれない。
(でもここに残して去って行くのも薄情、か)
それならと、ディルクはこの場で少し眠って待つことにした。
昨日もあまり寝ていないし、後でフィデスとボルスも来ることになっており、そうしたらもう休んでいられない。
少女はその間にどこへなりとも行ってしまうかもしれないが、それはそれで構わなかった。
貸したマントを持って行かれてしまうかもしれないが、半裸で行けというのも酷だし、何を盗られても調達できないものなどない。額のサークレットくらいだろう。
そもそも盗人とも思えないし、いきなり刺されるとも思えない。
何にしてもこの先のことは起きてから考えればいいことだった。
ディルクが目覚めるのを、彼女はきちんと待っていた。
身なりを整え、貸したマントを綺麗にたたみ、言葉もしっかりとお礼を言ってくれる。この時間は無駄ではなかったようだ。
「私、ライサ! あらためてどうもありがとう! これから王都に行くつもり。あなたは?」
「王都?」
初めて見る少女だし、自分を知らないようだし、王都民ではないはずだ。親戚でもいるのだろうか。
ディルクはまだここでの目的を果たしていないので王都には帰らないが、賊の残党もいるかもしれない。ラクニアまでは送るかと立ち上がる。
返してもらったマントを羽織ると、少女が遠くのラクニアに目を向けている間に、さっとガルにメッセージを飛ばした。
戻るのに少しかかるので捕らえた賊の引き取りよろしく、と。
詳しい報告はライサを街に送った後にでもすればいい。
完全に立ち直った様子の少女に、彼は簡単に名乗った。
「俺はディルク。んじゃライサ、ラクニアまで行くか」
そして、この世界の物ならぬ電話の着信音を耳にし、真実に気づいたのは、その僅か半日後のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる